無理やりのパートナー 1
閲覧、ありがとうございます!
前回の続きのシーンから始まります。
「くそ・・・。あとはどこにある・・・!?」
伯爵の部屋を漁っているリース。部屋の机の上の金属の受け皿には、燃えた本がある。燃えカスの背表紙からは「・・ースの激かわ・・・」と読める。
なんで私の昔の写真をもっている疑問は後回しにして・・・第一弾ということは、まだあるはずだ・・・!!
部屋にあった装飾品を逆さまにして、その中身を確認する。どこだ?どこだ?どこだ?
「リース・・・女の子がする表情じゃないよ。」
その声の主に向かって振り返り睨む。
「第一弾って、いったい何冊まであるの!?」
「さて、忘れてしまった・・・。」
そう言って、すまし顔で高級ソファに足を組んで座っている伯爵の頭は、アフロの状態だ。理由は、私が怒って伯爵の髪全体をチリチリに燃やしたから。部屋には髪が燃えた独特の臭いが充満している。
・・・怒ったからアフロにしたのに、全然効いてない!ムカッ
「そういえば、ペアを決めに行かなくてもいいのかい?」
はっ。しまった・・。明後日までに決めろと上司に言われていたんだ。写真集探しは後だ。
リースは伯爵の部屋漁りを止め、早歩きで歩いて行った。
「リース。ペアが決まったら、最初に僕に会わせるんだよ。」
その言葉を聞いたのかわからない反応のまま、リースは出て行った。
伯爵はため息をついた。初老風の執事が扉の前に立っていた。
「伯爵様。いかがいたしましょうか?」
「そうだな、早急に探さなくては・・・。」
伯爵は優雅に立ち上がった。アフロが揺れる。
「リースコレクションルーム金庫を。」
「いえ・・リース様のペアの相手についてです。」
「・・・・。」
***
リースは魔法省に隣接する騎士団の本部のロビーで腕を組みながら悩んでいた。
・・そもそも騎士団にツテがない。確かに魔法学校時代には合同授業があったが、運動が全般的にうまくない私にとっては苦手な授業だった。それに・・・
「お前が・・!?おれの腕じゃ無理だって。」
「魔法師様は人にお願いするときにそんな態度とは・・。」
「お前とペアってうまくいけない気がするから、悪いが断る。意地っ張りすぎると、こっちも命にかかわるからな。」
これが、声をかけた、まだペアを組んでないフリーの騎士たちの反応の一部だ。これでも正直に言ってくれた方で、大体の人たちは嫌な顔をされて曖昧に避けられた。
魔法が優秀で、意地が強く、誰でも仲良くなれるわけでなく、愛想がない私は、騎士団の生徒たちにとって魔法師の最も嫌いなタイプだったらしい。・・まあ、魔法師の生徒たちとも本当に仲がいい子は出来なかったけど・・。
ペア制を理解し、しっかりしている魔法師は、学校時代に優秀な騎士を探し積極的に話しかけて仲良くなっておくことがセオリーだ。・・しかし、私はどうもできなかった。
「あら、リース、まだペアができていないの?」
「いくら優秀でもな・・。」
「深く頭下げたり土下座でもしたら?まだいるって。やってみろよ。」
同期の魔法師やそのペアたちがこちらに向かって声をかけてくるが無視をする。
仕方ない。街に行くか・・。
騎士団に所属していない街の剣士などでも、魔法省と騎士団の許可が得られたらペアにできる。向こうにとっては良い就職口なので、私の印象や噂があるここよりも、もしかしたらうまくいくかもしれない。短い期間のペアでも立てておいて、後でまたどうにかしよう。
街に向かって歩き出した。
街はずれにある剣士たちが集まる酒場に来た。入ってきた私を一斉に見るが、特に声をかけてこない。
そんな男たちを見渡すけど、・・・う〜ん。誰ともペアを組む気になれない。
なら、ここに用はないから、さっさと酒場を出るか・・って、入り口をガタイのいい男たちに塞がれた。街のゴロツキたちか・・・。
「よぉ〜。お嬢ちゃん。こんなところに入って。あれだろ?ペア探しだろ?」
・・・ちっ、勘のいいやつ。
「その顔、当たりだな。たまにいるんだよ、そういう魔法師。
どうだ?おれにしないか?」
前歯が折れた歯を見せて笑顔で言ってきた。それに乗じて、おれも、おれも、と周りの男たちも言って集まってきた。
・・・押しが強すぎて嫌だっ。
「どいて。ここにいる人たちに用はない。」
そう言ったら、男たちの笑顔が消えた。
「・・・いくらなんでも、そういう態度、ないんじゃないか?」
男たちの空気が変わった。
・・まずい。ケンカになったら、こちらは仕事以外の一般人に対して魔法は使用できない。謝ればいいのだろうけれど、今更引けない。
何されるかと身構えたが、頭に布を巻いた汚い長身の男が怒っている男たちと私の間に立った。・・・この人・・・
「・・すまないが、この子から引いてくれないか?」
「何っ・・!?」
ゴロツキの男が汚い男の胸倉を掴もうとしたが、手で簡単に払いのけられてしまった。強い・・・。
その速い反応の払い方だけで力量の差がわかったのか周りの男たちも緊張し始めた。
汚い男はその瞬間を見逃すことなく、驚いて呆然としていた私の腕を素早く掴み、酒場の外に走った。
酒場から出てしばらく汚い男に連れられて走っていたが、もう足がつらい・・・。
男に向かってそう言いかけた時、男の足取りが止まった。頭に手を当てて苦しそうだ。見覚えがある仕草だった。
・・・この人、あのフェリン男爵のところにいた人だ・・・。
確か、あの後、フェリン男爵のところで大暴れして、魔法省の偵察部隊を撒いて行方不明になっていたよね?
汚い男は道路の横にある木にもたれかかった。頭に巻いていた布が取れかかっている。顔は真っ青だった。
私はその木の前にどう声をかければいいかわからず黙って立った。
男は苦痛そうにしながら、少し微笑していた。
「まったく・・・あんな態度じゃ危険だって。」
どうやらまた助けられたらしい。
ありがとうというべきなのだろう・・・ん?
頭の禁止術式の装置・・着いたままだ・・・。
だから、まだ苦しんでいるのか・・・。
命令の部分はあの時に外したが、痛みを発生する部分までは外していない。つまり、ずっと痛みと戦ってきたことになる。
悔しい、あの時にもっと私に力があれば・・・・・。
・・・・いや、これはチャンスかも・・?
あれほど機敏な動きをしていて、魔法省の偵察部隊を撒くほどの実力者なら、魔法省も騎士団もペアとして許可してくれる。
装置を外す代わりに、この人に短期間だけのペアを頼めばいい。よし、交渉を・・・
・・うっ。二度も助けられた人に、しかも苦しんでいるところにこんな交渉を持ちかけるって・・罪悪感は感じるけど、でも・・・・。
「ねぇ・・・。それ、まだ苦しいんでしょ?
外す代わりに、半年間だけ、ペアをしてくれる?」
半年という期間はペアを組む上の最低日数だ。
男の返答を唾を飲んで待った。
・・・失礼だって怒って断られたら、どうしよう・・・。怒られて当然だよ、こんな非情な交渉・・。
けど、他に相手、考えられないんだけど・・・・。
男は私を見て、辛そうにだけれども微笑して言った。
「・・いいぜ。お前には助けられたからな。半年だけだが、そのお礼だ。」