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ペアでの初めての仕事 3


 次の日、山登りの準備のために今日中には出られないので、町のお祭りを見学した。

町の通りを踊り子や楽団などが練り歩く祭りだった。踊り子の女の子が籠から投げる花びらが舞う。


 小さい頃は母と草原の家にずっといたし、その後は伯爵邸か学校(寮)にいたから、こういう多くの人が集まって賑やかな行事は初めてだった。 楽しい・・・!!


「・・・祖国に似ているな。」


 シンはどこか遠くを見る寂しそうな笑みを浮かべて呟いた。

周りが賑やかなのに、その呟きはリースの耳に入った。


「祖国?」

「・・ああ・・おれは今所属している国と祖国は違くてな。この国は少し祖国に近いな・・・。」


 祭りのパレードではなくて、切なそうにつぶやいたシンの横顔をしばらく見つめていた。



 祭りの後、山越えの買い物など準備をした。明日の朝に出発だ。

そういえば、シンが変なことを言った。


「リース、お前体調悪くないか?」








「ここまで跳躍できると面白いな・・。」


 シンに担がれているリースはそう呟いた。


 4000m級の山登りを、シンは大荷物とリースを担いで空中を駆けていると言ってもいい感覚で走っていた。

リースはリース自身と荷物に対する重力負担軽減の魔法をかけていたが、シンの重力全てを軽減させているわけではない。軽減しすぎても身体感覚が追いつかない上に、突風など危険だからだ。それなのに、シンが垂直に近い斜面を手を使わずに足だけで上がった時には、本当にびっくりした。

フードの上司がシンの身体能力に注目するのも頷ける。


「・・・・本当に午前中に頂上付近に来た。」


 まだ日が上がりきっていないのに、標高にして頂上まで残り500mぐらいだった。

頂上付近は風が強くしっかりと雪が積もっている。体感気温もぐんと下がった。その時だった。


 ゔっ。やばい、この感覚は・・・。


それは、女性なら月にくるものだった。


 いつもより早い・・。嘘でしょ。けど、シンに言いにくい・・・。


羞恥心から黙っていたリースだったが、シンがいきなり止まった。


「リース、休憩だ。おれ、そこらへんにちょっと行ってくる。

 あそこの岩陰なら風が来ないだろう。あと寒いだろうから、追加の防寒着をちゃんとしろよ。出発は20分後な。」


 そう言ったら、リースと荷物を岩陰に置いてさっさとどっかに行ってしまっ た。


・・・急だけど、まあいいか。こっちにとってはありがたい。





 リースが女性限定緊急事態を対処して防寒着を着た時、シンは戻ってきた。そのまま岩陰で軽食を食べた。

また、シンに担がれて登山を再開する。・・・・ん?


「シン、防寒具は着ないの?」

「動いているからな。それにこのぐらいの寒さは平気。せいぜい体感-10度ぐらいじゃない?」

「・・・。」


  シンの言葉になんと言えばいいのか困っているうちに、シンは飛ぶように走り、あっという間に、頂上だ。


 見渡した風景は、はるか向こうまで連なる灰色の山脈、青い空に雲が近くて、地平に道がどこまでも続いている。川や街が小さい。麓の街が目的地だろうか。思ったより大きそうな街だ。

とにかく、見たことのない絶景だった。鳥になった気分だ。


 リースは感動していた。しかし、次の瞬間、内臓が縮む思いがした。


「・・うわーーーーーーーーーーっ!!!!!」

「このまま下山するぜ。」


 鳥になった気分はシンが飛ぶように頂上をまたいだからであって、今度は重力のままの下山が待っていた。


 ・・・・・転げ落ちている?いや、転落並みの駆け方で下山している!!

だって、岩が隣を転がって落ちているしっ! 私が重力を軽減しているからと言って、こんなのないでしょーーー!!!


 リースは振り落とされないようにシンにぎしっと掴み、落下のみのシンの暴走を乗り切った。












***《シンの視点》***




 町のお祭りを見ていたら、その親近感にふっと思い出した。


祖国の祭りもこういうふうに賑やかだったなと・・・・。


 感傷に浸りたい気分だが、リースが少し不安な顔をしている。

年下にこういう顔させちゃダメだよな。さてと、気持ちを今に向けないと。


 未だにくそフードの部下に尾行されている。祭りでも見てろって。

リースには言っていないが、尾行を撒くにもこの山登りはちょうどいい。

山登りの準備をしていると感づかれるかな?まあ、いい。付いてきても、おれの足に追いつけないでしょ。


 それとリースの匂いが変わった。

これは・・・あれだよな。女性ならではの前触れの匂いだよな。

よくその前後に体調を崩すと言われるけど、リースは大丈夫かな?









 ヤッホーーーーー!!!


 くその尾行は下の方で巻いたから、思いっきり走って山登りができるぜ!!

あいつら根性ないなっ。登山口に到着したら、え?って慌ててたもんな。奴らが戸惑っているうちに、さっさと登り始めてよかった。 追いかけてきているみたいだけど、5合分ぐらいの差があるな。


 リースはおれの走りっぷりに呆気になりながらも律儀に魔法で重力負担を軽減してくれている。

バテたら、やらなくていいと言おう。スピードが落ちるぐらいだし。



 頂上付近に到達した。

雪は積もっているな。あれだな。♪犬は庭かけ・・・って、ああ。リース・・・きちゃったのね。

そして、リースらしい。 そのことを申告しないもんな。言い訳や嘘もつかないと。

仕方ない。おれが気をきかせるか。


「リース、休憩だ。おれ、そこらへんにちょっと行ってくる。

 あそこの岩陰なら風が来ないだろう。あと寒いだろうから、防寒着をちゃんとしろよ。出発は20分後な。」


 他にやることはあるしな。











 

「はあ・・、はあ・・、まさか、この時期にこの山を登るとは・・。」

「情報を与えなかったことが裏目に出たか・・・?」

「いや、案内所に行ったということは、知っているはずだ。この時期に危険な動物がこの山にいることも・・。」

「とにかく、周りに注意して早く行こう。重力負担軽減させろ。夜になる前にこの山を越えないと・・。」

「!! 落石だっ!気をつけろ!!」

「「「「うわーーーーー・・・。」」」」


 落石に巻き込まれて滑落していく尾行していた魔法省の人たちは、重力負担軽減の魔法のおかげで大事にはいたらなかったものの、気を失う人や足の怪我をしている人が出た。無事だった人は尾行を断念して怪我人の手当てを優先させた。





「ここまでの登山、ごくろうさん。ちょっとの石でも、落石注意だな。」


その様子を、山の上の方からシンが見ていた。




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