ぺアでの初めての仕事 2 シン視点のみ
トゥルル、トゥルル、ピッ
「お、繋がった。」
『当たり前です。・・しかし、理論の説明があれだけでも使用できるなんて。 魔力が強いからでしょうかね?』
「基本的なことは理解したからじゃねーか?電磁波にして飛ばして受け取ればいいんだろ?」
『それだけで通じるのはシンぐらいです。』
それはたぶん、おれの祖国にも似た道具があってイメージしやすいからだと思う。
伯爵邸を出る時に伯爵はシンを呼び、シンにとって見覚えがあるものに似た道具を渡した。
「へぇ、つまり“携帯電話”か。通信機ってこの国にもあるんだな。」
「いえ、この国に回線を利用した機器はありますが、無線機はありませんよ。僕が秘密裏に開発しました。なので、周りに見られないように。」
・・・はあ?無線機を発明って、天才か?
「・・・世のために出すことは?」
「いずれ仕事に出かけ始めるだろうリースのための開発ですから、ないですね。」
・・・即答かよ。才能の持ち腐れって伯爵のことをいうんじゃないのか?
「で、どういう内容を報告すればいいんだよ。」
「その日その日のあの子の食べたものから発言・行動はもちろん、声をかけて来た人も。」
それを聞いて、シンは固まった。そして、
「・・・うぜーーーーっ!!!! お前、それは思春期の子にうざいって言われて嫌われるって!
いや、思春期じゃなくても嫌われる!!」
「だから、シンを通してでしょ?」
「それをいちいち報告するおれの身になってみろよ!」
「知りません。」
そこも即答かよっ!!
「・・って事で、リースは昼御飯を野菜の入った麺類を食べてた。熱そうにしていて、フゥフゥしていた。お店の男の子に声はかけられていたけど、無視してた。これから隣町まで行って、宿泊する予定。(棒読)」
『わかりました。引き続き、リースの護衛をよろしく。』
・・・・これは、別の意味での拷問だ。
シンは落ち込みながらリースの元に駆けていく。
リースに「どこ行っていたの?」と言われて「トイレ」と言い訳するのにも疲れた。
初日に泊まる部屋はリースと一緒になった。
一緒の部屋なら守るの楽だな。
お?ベット一つ・・。ま、いっか。
リースは戸惑っているみたいけど、おれは寝とく。おやすみー。
ZZZZ・・・・・
「・・・かぁ・・・」
夜中、泣き声が聞こえて目が覚めた。 隣で寝ているリースからだ。寝言か?
「・・お・・かぁ・・さん・・・・。」
・・・母親に何かあったのか?
暗闇で見えづらいが、目から涙が流れて寝ている。
そういえば、伯爵にお世話になっているということは、リースの親がいない状況なのか。
いつもはそう見えないようにしているけど、寂しいんだろうな。
少しでも落ち着かせるために、子供をあやすようにリースの肩をぽんっぽん っと軽く叩き続けた。
・・呼吸が静かになった。落ち着いてきたか・・・・。おれもまた寝よ。
次の日、案内所で説明を聞いた後、案内所を出たシンはそびえ立つ山脈を見てため息をついた。
山か・・。4000m級の冬山の前時期だな。
と言っても、今の標高も500mぐらいあるから、実質3500m以上の山登りか。
おれの身体能力的に1日で平気だな。
となると、問題はリースか。
リースの運動音痴っぷりだとこの山登りは数日かけても難しい。
だからと言って、ここで一人残すのは不安だし、何よりおれはここの国についての知識がないからおれ一人で仕事の交渉は無理だ。
おれがリースを担いで登れば、なんとかなるだろ。リースの意地っぱりが邪魔してお荷物になりたくないって言い出して説得に時間がかかると思うが・・・。おれはリースぐらい担いでも平気なんだけどなー。あいつ軽いし。
もう一つの問題は、魔物と呼ばれる野生動物か。
体長5mぐらいの動物もいるって言っていたもんな。 武器もないしなー。
まぁ、いざとなれば本気を出せばいいが、そうするとリースに怖がられる可能性があるな・・・
・・・・思わず、伯爵に電話をかける。
『どうかしましたか?』
「・・・伯爵、どうしよう。
おれが本気出してリースに怖がられたら、おれ半年間やっていける気がしない・・・。」
『そしたらリースの慰め役は僕です。』
伯爵は嬉しそうな声で即答した。
「・・・相談した相手、間違っていたな・・・。」
けれど他に相談できる相手がいないことに、シンは落ち込んだ。
シンはついでに伯爵から山や魔物の情報を得た。
・・あれだ。伯爵は生きる辞書並みの知識量だな。何を聞いても即答して、おまけに対策まで練ってくる。
っていうことは、おれはただの実行部隊か・・!! 伯爵の手足かよっ!
ならば、これも相談してみるか。
「おれら、尾行されているみたいなんだけど。」
昨日リースと仕事に出てから、おれらを付いてくる人影がずっといることを思い出す。
リースは一切気づいていないみたいだが・・。
『・・・たぶん魔法省の者でしょうね。』
あのくそフードか。
『今はどうしていますか?』
「電話する時には尾行を撒いてからしているから、リースの方についているんじゃね?」
『それは賢明ですが、リースを危険にさらしてどうするのですか?』
「大丈夫だって。見渡せれるところにいるからリースの方の異変には気づく。」
尾行を撒いて電話している所は町外れの数10mもある木の上だ。
そこからは賑やかな町が見渡せられる。リースが案内所から出て来たのが見えた。
ふっとリースの後ろにいる男に気づいた。あの感じは悪意じゃなくて、美人の幼馴染がよく受けていたものだ。
「おっと、電話切るぞ。リースがナンパされるみたいだ。」
『シン、抹殺をお願いします。』
「・・・こえーよ。お前は。」
なんで明るい声で暗殺依頼を出しているんだ。
「めんどくさいから、兄と言って妹の虫を蹴散らすような形でいくか。」
『まぁ、賢明ですね。もし恋人と言ったら抹殺します。』
・・・・・・・・・おれにも暗殺をしむけるところだったのか。




