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シンの災難 上

閲覧していただきありがとうございます。長期間不連載にもかかわらずまたのぞいてくださった方々,ありがとうございます!やっと,載せられたっ・・・・泣。

今回はシンの視点です。『初めての仕事』の前から『無理やりのパートナー 1』までの話です。

長くうつうつ的な感じですが,そこは災難なので。


 格子の窓からわずかな月明かりが照らしている。

冷たい石で殺風景な部屋は、いわば牢屋のようだ。淀んだ空気と匂いが部屋中に漂っていた。


 長身の男が両手両足に鎖を繋がれ、上半身の服がはだけ、ちょうどXの形に宙に浮いている状態にいる。頭を下に向け、垂れた青い髪が月明かりで光っている。


 ギイっと音をたてて鉄扉が開いた。中年の男が悪い笑みとともに立っている。

その音に反応したように、長身の男は少し頭を上げた。蒼色の瞳で中年の男を睨んでいる・・。


「お前はいいね・・。いつか歯向かってやるというその目、その獣のような目で睨まれると、ぞくぞくする・・・。」


 太い鞭を持った中年の男は嬉しそうに興奮気味で震えて言った。そして、長身の男の体には鞭で打たれた跡がある。

「綺麗な体と顔をしている」と中年の男に言われて、拷問はこれでも他の人たちよりも軽めだ。そして、その傷もすぐに治ってしまう体質でもあることが幸いしている。

中年の男は「気に入った相手はじ っくりと嬲りつけていきたい」と言っていた。


 ああ、いつか、そのうち、お前を噛み殺してやる・・・。


そう思うと、中年の男が目を見開いて狂喜に満ちた。


「その目!その目が絶望で壊れていくところを見てみたい・・・!」




 しかし、道に迷って、気づけば知らない国にいて、混乱して弱っている間に、このフェリンという男に捕まってるって、どんな間抜けだな、おれ・・。

 おまけに、変な器具を頭につけられて、この器具のせいで逃げられずに拷問されている・・。


 中年の部下に拷問具から落されて、暗い廊下を連れられて歩く。横目で他の部屋で拷問されている人を見るが、おれよりもよっぽどひどいものや、恥辱的なものもある。



  ・・拷問は耐えられるが、このおっさんの夜の相手だけは嫌だ。その時がきたら舌を噛み切るか・・・。


 ふっとある顔が浮かぶ。幼馴染の滅多に見せない泣き顔だった。


 ・・・幼馴染のあいつを泣かせるわけにはいかないな。


 長身の男シンにとって会えない幼馴染との再会だけがこの屋敷じごくでの心の支えだった。






 ある日、おれは屋敷の警備を担当していた。

この頭の装置の苦痛を逃れるために命令通りに動く駒と化すので、中年の部下ではない警備をしている男達にも同様の装置を着けられていた。その中には精神的にやられている人も出ていて、本当のになっている人もいる。


 いずれ、ああなるのか・・。


 まだその症状も現れないことに安堵しつつも、どこまで耐えられるかが不安だった。


 ある時、警報が鳴り響く。それと同時に、頭の中で言葉が鳴り響く。


−−侵 入 者 を 捕 ら え ろ。抵 抗 し た ら、殺 せ。侵 入 者 を 捕 ら え ろ。抵 抗 し た ら、殺 せ−−


 その言葉は、激痛と共に何度も続いた。激痛を避けるために、おれも他の警備たちと同じように侵入者の元に行く。命令通りにすれば、激痛がやむからな。


 たどり着いた先には小柄な人影が立っていた。周りにはのびた警備のやつらがいる。どうやら一人で倒したらしい。

 その侵入者はこちらを見て体を強張らせ、何か魔法を発動させようとした。


−−抵 抗 し た ら、殺 せ。抵 抗 し た ら、殺 せ。抵 抗 し た ら、殺 せ。抵 抗 し た ら、殺 −−−−


 まずいっ。人殺しにはなりたくない!抵抗(魔法発動)する前に気絶させるか。   

  

 素早く動いて手加減をして腹を殴った。これなら衝撃はあるけど、怪我にはならない。

 おれは倒した侵入者を見た。


・・・・・まだ少女じゃねーか。


 その時、罪悪感が生まれた。この子もあの男の拷問の趣味に付き合わされるのか・・・。装置を付けられる前に逃がせれば・・・しかし、この子を逃すにしてもどうすればいいかわからない。


 ふっと外の気配を感じ、意識を向けた。


 2つの気配がこちらを探っている。1つは数人のグループだ。気配からいって、やり手なのだろうな。ただ探っているが、動く気配はしない。

 もう1つは・・・・ん?こっちの気配が敷地内に入って来たぞ。しばらくしたら、周りの警備員やあの男の部下たちがいなくなって静まった。


 今なら、あの少女を逃すことができる・・・!


 おれは少女が捕らえられている部屋の方に向かったが、廊下で少女に出会ってしまった。


 ・・まさか、もう脱走していたとは。ちゃっかりしてるな。


−−脱 走 し た ら、殺 せ。脱 走 し た ら、殺 せ。脱 走 し た ら、殺 せ。−−−


・・・っまずい。命令が・・。


−−脱走したら、殺せ。脱走したら、殺せ。脱走したら、殺せ。−−−−

−−脱走したら、殺せ。脱走したら、殺せ。脱走したら、殺せ。−−−−

−−脱走したら、殺せ。脱走したら、殺せ。脱走したら、殺せ。−−−−

−−脱走したら、殺せ。脱走したら、殺せ。脱走したら、殺せ。−−−−

−−脱走したら、殺せ。脱走したら、殺せ。脱走したら、殺せ。−−−−


 激痛を避けるために、勝手に手が伸びてしまった。おれの手が無意識に少女の首を握って締め付けている。

 少女は抵抗していたが、そのうち、少女の表情が苦痛と恐怖と絶望に染まった・・・。


 やめろっ。


 激痛が走ってもいい。こんなの嫌だっ!!


 少女の首から無理やり手を離した。それと同時に激痛が襲い、苦しさのあまり床に倒れる。激痛の合間になんとか少女に言う。


「制御できている間に早く逃げろっ。じゃないと・・・・。」


おれは君を殺してしまう・・・。


 苦痛で途切れ途切れ言うおれに対して、少女は説明を求めて、そして解除するとか言ってくる。


 そんなの、いいから早く・・・。君を殺したくないんだ・・・。


−−・脱走し・たら、殺・・せ。脱走し・・たら、殺・・・・たら、・・せ。・・・・・・・・−−−−



 ん? 命令の声が遠ざかっていく。



−−・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。−−



 命令が止まった・・・・・。


 声が止まって頭を上げたら、隣に座っている少女は疲れ切った様子だった。装置の一部がその少女の手にある。


 本当に解除してくれたのか・・。


 感謝したいが、向こうから人が来る気配がする。今この少女を逃さなきゃ、また捕まる。疲労で動けなさそうな少女を庭の木まで連れて行く。


「この木を登って、塀を越えろ。・・・・うまく、逃げろよ。」


 外に行けば仲間がいるんだろ?


 少女はこちらに何か言いたそうにしたが、決心して木にぶら下がった。


 ・・・・いや、ぶら下がったままだ。・・・どうやら木登りができないらしい。


 ・・・・魔女っ子って、ドジっ子?


 試しに言ってみる。「・・・・早くあがれよ。」と。


・・うん。木にぶら下がったまま睨まれた。しょうがないな。


「なら、うまく着地しろ。」






 うん。少女は無事に逃げたな。人を放り投げるというちょっと手荒な手法だったけど。


「おい。お前、今、何をしていた!!?」


 異変に気づく男爵の部下の男たち。おれはゆっくりと振り返り、ギラついた笑顔を浮かべて握り拳をつくって指を鳴らした。


「さあ・・・・今までの鬱憤を晴らさせてもらうぜっ!!!」







 男爵の部下を殴りまくって大暴れしていると、外からこっちを観察してたグループのもう一つが入って来た。


「魔法省のものだっ!!」


 そう言って侵入して来た人たちはここの人たちを次々と杖から放たれるもので倒していく。


 男爵の部下はいいとして、そいつはおれと同じ被害者だからっ!!倒さないでっ!!

・・・うわ、手当たり次第かよ。


 魔法省と名乗っていた人の一人がこっちを見た。狙いをおれにしたらしい。


 面倒ごとはごめんだし、男爵の大切な息子・・を再起不能なぐらいの蹴りを食らわしたから、逃げるとするか。


 攻撃を出される寸前で、3mの塀をジャンプで乗り越えた。


 

 よっと。


 塀向こうは静かな原だった。林が近くにある。塀の中はまだ騒動がすごい。さっきの攻撃を出そうとした人が塀から追いかけてくる様子もない。ひとまず安心。


 さて、これからどうするか・・・。


 歩き出したところで、ふっと後ろに気配を感じて振り返った。

そこには魔法省と呼ばれた集団の一番後ろにいたフードを被った男が立っていた。


「・・・お前、何者だ?この高さを魔法なしで越えるその身体能力はなんだ?」


 ・・なんだ?このフードの男。気味悪いな。こういう時は、逃げるが勝ちだ。おれの脚についてこれないだろう。


 おれはダッシュして逃げることにした。

裏の林に行けば、追いかけられても撒けるだろうと踏んで。


「・・逃すか。」


 って、怖えーーーーーっ!!!

おれについてこれるって、どんなスピードが出せるんだよ!!?

こいつ、“人間”か!!?

なんで口元が笑っているんだよ?!気持ちわりーー ー!!!!


 夜の林をジグザクに走り抜けた。フードの男から逃れるのに数時間も走り続けた。

 久々に全力疾走したから、息切れと筋肉痛がきた。





 あれから1日たっただろうか。頭の装置からの激痛が止まらない。

何度も泥だまりなど地面に転げて、泥まみれになってしまった。

 どうやら少女が外したのは命令部分だけであって、激痛発生部分は外していないらしい。どうにかこの装置を外さないと。けれど、そのつてはない。

あの少女以外は・・。

 もしかしたら、しつこく追いかけてきたフードの男がいる魔法省というところから手配書が回っているかもしれないから、気休めに道端にあった布で頭を巻いて顔を隠す。

そのまま、また立ってふらふらと歩く。・・・・行くあてなどないけど。




 街外れの酒場に入った。みたところ、いるのは雑魚だらけで、この装置を外せそうな人はいなさそうだ。痛みがひどいので、酒場の角でうずくまる。

 そうすると、知っている匂いと声が聞こえた。 顔を動かして見るとあの少女だ。 痛みからの解放の希望が見えたが、なにか周りの人と揉めている。

 もうしばらく見てよう。


 ・・・あのツンとしすぎの態度は良くないって。ほら、周りの人が怒り始めた。


 ・・・怯えても謝らずに睨み返すって、おいおい。仕方ねーな。


 装置を外してもらうために、その少女を男達から助けて酒場を出た。

しかし、激痛が走って道端の木の下にうずくまった。立ち尽くす少女に話しかけた。


「まったく・・・あんな態度じゃ危険だって。」


 そう声をかけると少女はもじもじしていたが、何も話しかけられるような反応がない。


 ・・・・お礼もないんかい。見た目に反して中身は可愛げがないな・・。

 まあ、いい。この装置を外してもらえれば貸し借りなしだ。


「ねぇ・・・。それ、まだ苦しいんでしょ?外す代わりに、半年間だけ、ペアをしてくれる?」


 少女から発した言葉はお礼ではなくて、これだった。


 ・・・・・こんだけ苦しんでいる人に交渉するとは非情だな。おい。


おれは少し嫌味を言ってやろうと少女を見上げた途端、ちょっと吹き出した。


 って、そんなこと言って、顔には罪悪感いっぱいって書いているぞ。

 わかりやすいな。おい。そのギャップにちょっと笑えたぞ。

 ああ・・・・ただ不器用なだけか。あと、意地っぱりだな。

 ・・・・・この子ならいいか。


「・・いいぜ。お前には助けられたからな。半年だけだが、そのお礼だ。」



 人間不信になり気味のおれにとって、この子と過ごす半年間はいいリハビリになるだろうな。なんだかんだ言っても、おれを救ってくれた恩はこの子に返さなきゃな。


読んでいただきありがとうございます。


前に読んでいただいた方で気づいた人もいるかもしれませんが,序章を付け加えました。

・・・?!! はい,反省してます・・。私の目的は「どうすれば分かりやすくなるのか。魅力的な文章が書けるのか。」なので,ちょいちょい文章を変更するかもしれません。そこは悩んだ末のことなので,許してください! 


できたたびに載せるのではなくて,一連の話がまとまってから毎日載せて,またしばらく休む形にしてみようかなと思います。ということで,次の話もその話が終えるまで毎日更新していきますので,しばらくお付き合いください。よろしくお願いします!

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