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無理やりのパートナー 4

〜前回のあらすじ〜

ペアの手続きのために魔法省に向かうリースとシン。


 シンは旅人でこの国についてよく知らなかったため、馬車の中でシンに知識を教えることにした。ペアを務めるためにも最低限の情報は必要だ。


「!? 魔法って、その杖を呪文言いながら振ればいいんじゃないのか?」


 ・・・まず、そこからか・・・。魔法について知らないんだ。


「違う。この杖は力を込め放つことがメインの役割で、公式や知識はこの本を見ながら行う。複雑な計算はこの計算機を使用するの。」

「・・・・は?」


 シンは信じられないという顔だ。説明のために見せたペン型の杖や魔道書、魔法計算機を見つめている。

 ・・これは詳しく教えたほうがいいな。


「例えば、この前に逃げるときも、私が自由落下するときにかかる力は私の体重に重力加速度を加ければいいだけだけど、それと、シンが投げることによる放物線上の加速度・」

「・・・っ待て。それ以上の詳しい説明はいいっ。」


 眉間に皺をよせ、頭に手を当てて、手で待ったのポーズをするシン。

 ・・このぐらいの内容、理解してよ。


「・・けど、全ての魔法師も毎度そんな計算をしているのか?」

「いや、魔法師でも瞬時の計算は難しいから、大体の数値を暗記して、その分の力を魔法にかけるだけだよ。

 例えば、成人を体重60kgとし、人が建物から落ちる、つまり自由落下した場合は、完全に落ちる前に暗記した力を重力と反対方向にかければ、たとえ体重70kgの人だったとしても10kgの差だから、地面落下の時にかかる衝撃は・・。」

「いや、なんとなくわかったっ。」


 表情が止まっているシン。まったくっ・・。


「けど、お前は杖しか使用していないけど・・?」

「それは暗記と暗算をしているから。」


 シンはぽかーんとしばらく口を開けて、


「・・・お前、優秀なんだな・・・。」


 私をみて純粋に褒めた。


 ・・・少し照れくさいな。


なんとなくシンと目を合わせられなかった。


「ただ、魔法師の弱点は解析や計算に時間がかかって、それに集中するから・・・。」

「つまり、その間をペアが魔法師の身を守ればいいと。・・おれは率先的な戦闘力重視だな。おれの力量でいいなら得意分野だ。」


 シンは真面目な表情で呟く。

 ・・・よかった。シンは頭の回転は悪くないみたい。これなら、うまくいけるかな?







 魔法省に着いた。

シンを魔法省の中を案内する。通りすがりの魔法師たちは珍しそうにシンを見ていた。


 シンが病み上がりのため、今日はとりあえず手続きだけにして、後日に騎士との審査をすることになったのが、


「じゃあ、これから審査な。」


 フードの上司がそんなことを言った。


 病み上がりだって先ほど言いましたよね!?ちょっと、担当者!!・・手続き担当者の気弱そうな男性魔法師がおろおろしている。反論は無理そうだ。仕方ない。なら、私が反論するしかない。


「ちょっと待ってください。彼は病み上がりでまだ・・。」

「病み上がりだろうと、手続き時に審査するのは当たり前だろ?」

「けれど、あの装置が外れた時が昨日だったのですよ!?そんな体に無茶な・・・。」

「無茶!?そりゃ、無茶だろうな。3日前に解除した他の奴らは、マシなやつでまだベットの上で意識が曖昧だ。おそらく、半数は今後も正気を取り戻せないだろうな。」


 フードの上司はそう言うと、私の右後ろでことの成り行きを立って見ていたシンを睨んだ。


「お前・・本当に人間か・・!?」


 フードの上司は探り入れるような意地悪な笑みを浮かべた。それに対して、シンは嫌そうに眉間に皺がよった。


 この言葉には頭にきて、上司といえども叫んだ。


「人として言っていいことと悪いことが・・!!」

「・・いいぜ、リース。ここまで言われちゃこっちも黙っておけねぇ・・・。」


 不穏な空気が右後ろからして、振り返った。

 シン・・かなり怒っている!?


「審査を受けようじゃねーか。

 ただ、こっちも病み上がりだ。相手がどうなろうと文句言うなよ・・。」







「あら、あなたたちは・・・。」


 審査会場に向かう途中の廊下で、昨日助けてくれた先輩ペアに出会った。栗色髪の魔法師は嬉しそうに駆け寄ってきた。その後ろを黒髪の騎士が歩いてきた。栗色髪の魔法師はシンに対して上目でうっとりとして見つめていた。・・ん?

そんな視線を気にせずに、シンは不思議そうにこっちに尋ねた。


「誰?」

「昨日シンのことを助けてくれた人たちだよ。こちらの先輩にはシンの体の回復をお願いしたの。」

「こんにちは。リランと申しますの。」


 リランと言った栗色髪の魔法師は満面の笑顔でシンに寄った。シンは手を差し出して、


「そうだったのか。ありがとうな。えっと、シンって言います。」


 と握手した。リランは嬉しそうに両手で握手していた。そんな様子を黒髪の騎士はため息まじりに半目で見ている。


 ・・何?この三角関係は?私は入ってないけど・・。とりあえず、黒髪の騎士の紹介をしなきゃっ。


「それで、こちらの騎士には、シンをおんぶしてもらって運んでもらったの。」

「本当か?ありがとうな。シンと呼んでくれ。おれ、重かっただろ?」


 シンはすり寄っているリランから離れて、黒髪の騎士に笑顔で握手を求めた。黒髪の騎士はシンに少し驚いた様子だったが、微笑して握手に応じた。男同士らしい力強い握手だ・・。


「・・いや、鍛えているから平気だ。俺はエドワールだ。 それよりも歩き回って大丈夫なのか・・?昨日の様子からは、まだ休養が必要じゃないのか?」


 少し心配そうに尋ねた。優しい騎士さんだな・・。

 

「ああ、まだ休みたいが、これから審査だから、そうも言えないらしい。・・あのくそフード。」


シンの最後の舌打ちの言葉に、リランは少し驚いたが、エドワールさんは吹き出した。誰を指したか分かったらしい。

 ・・まあ、非人間扱いされてたから、シンの反応も仕方ない。


「・・審査?これから?審査って、騎士との対戦でしょ? シンさんにはまだ安静が必要でしょ!?”責任者”は何を考えているの!?」


 リラン先輩はシンに心配そうに尋ねた。同じ意見だ・・。聞かれたシンは答える気はないらしい。なら、私か。


「・・聞き入れてくれませんでした。これから、中庭の第2広場で騎士団との審査です。」

「俺が審査の対戦の相手になってあげたら良かったが・・。」


 エドワールさんが悔しそうに言った。

もし対戦相手になったら、配慮して戦ってくれたらしい。本当に優しいな、この人。

 シンはエドワールさんの言葉に首を振った。


「いや、助けてもらった恩人が相手じゃなくて良かったよ。加減してやれないから、相手は重症だろうからな・・・。」


 シンはニヤリと悪そうな笑顔を浮かべた・・。ん?




**



 中庭の第2広場に着いた。この広場は、騎士の審査や練習のために使用する広場の一つだ。


 フードの上司と手続き担当者の魔法師、騎士団長、騎士団副団長2人、対戦相手の騎士、それと数人の騎士が観客に来ている。

「今日は書類書きの仕事だから、その合間の休憩に。」と言ってリラン先輩とエドワールさんもついてきた。正直不安だったから、ありがたかった。この人たちならシンに何かあったら私と同じく止めに入ってくれそうで、心強い・・。


 手続き担当者のびくびくした魔法師が声を出した。


「この審査は、リース魔法師の非騎士ペアの認定の審査のために行う。審査員は・・」

「そこの5人だろ? いいから、早く始めようぜ。

 こっちは病み上がりだから、早くしたいし、手加減できねーから。最初に悪いと言っておく。」


 シンは気だるそうに木剣を肩に当てて、対戦相手に言った。

木剣と木盾を持った対戦相手の騎士は了解したという感じで頷いた。

シンの反応に手続き担当者の魔法師は涙ぐんだ。


「・・一応、仕事なのですが・・。」

「まぁ、確かにそうだな。始めよう。」


 威厳のある騎士団長の一声で、対戦に進んだ。


「では、この審査は、どちらが負けを認めるまで、または、こちらが止めに入るまでです。試合開始!!」


 対戦相手の騎士が剣を構えた。

シンは剣を持ったまま、対戦相手を見ていた。


 しばらく様子見するように、そのまま2人は動かなかった。

 

 対戦相手は確か、騎士団でもベテランに入る騎士で、パワーがある剣さばきで有名で、そのスピードも速いと言われている。


 シンよりも筋肉質である騎士との対戦に心配しかない・・。


隣で見ているリラン先輩も手を組んで祈っている。エドワールさんは静かに2人を見ている。


 ・・今更やめてって言えないし、2人の剣士としての力量の差がわからない。


「エドワール、どうなの・・?」


 リラン先輩も同じことを思ったらしい。ペアのエドワールさんに小声で聞いた。私も回答を求める。


「うん・・・対戦相手のことは知っているからいいとして、問題はシンの力量だな。とりあえず、シンも結構強いらしいな。簡単には負けそうにないけど。ただ、病み上がりがどうでるか・・。」 


 エドワールさんの言葉に、どう思えばいいのか悩んだ。

 エドワールさんも認める力量だから安心してみていればいいのか、この審査を何が何でも延期すればいいのか・・・。


「対戦相手は病み上がりの人に考慮するタイプですか?」


 答えてくれそうなエドワールさんに聞いた。


「いや、それはしないだろうな。何事にも全力で、がモットーの奴だから。

 新人騎士を全力で鍛えるから重傷者が絶えなくて、新人達からは不評だし。」

 

 ・・・心配がさらに増した。


 対戦相手の騎士が動いた。

真正面から剣を振り下げた。


 すごいスピードと迫力だ。思わず手を口に当てた。


 ・・・こんな対戦相手てき、嫌だ!!


 けれど、シンは受けた。

力が拮抗して、動作が止まった。・・あれを受け止めれるんだ。


「・・なぜ、受ける!?」


 対戦相手はシンに聞いた。


「・・真正面から攻撃するやつに、まずはそれを受けてやりたくなるだろう・・がっ!!」


 シンは相手の剣を流して、剣を相手の胴に向けて振った。対戦相手は体を反らせたが、ある程度は食らった。対戦相手は剣を食らいながら、シンに向かって剣を振る。シンの右頬をかすめて、血がにじむ。


 それからスピードの戦いだった。剣さばきがどちらも速くて動きがわからない。


 私とリラン先輩はハラハラと見ていたが、エドワールさんや周りの騎士たちは楽しそうだった。しまいには「いけ!」「そこだ!」「青髪もいけ!」と声を出し始めていた。・・・って、エドワールさん!


 対戦相手も苦戦の中、楽しそうだった。笑みがある。シンにも笑みがあった。ただ、シンの汗のかき方がすごかった・・。



「やっぱり、体がまだ無理なんだな・・。」


 エドワールさんが呟いた。・・っ!


「エドワールさん!もう十分結果は出していますよね!?」

「ああ、力量としては、騎士の認定を満たしている。十分だな。でも、あの人はそう思っていないらしい・・・。」


 エドワールさんが見た方向は、フードの上司だ。ジっと試合を見ている。手続き担当者の魔法師はおろおろとしているし、騎士団のえらい人たちは目を輝かしながら楽しそうに試合を見ていた。


 ・・・だめだ。誰も試合を止める気がない・・・。


 頭を抱えた。


 ペアのシンのことを配慮してあげらえる人は自分しかいないが、試合の決定権がないというジレンマ・・・。



 けれど、シンとはまだ短時間しか一緒にいないが、シンはこの試合を楽しむぐらいやんちゃらしく、そして、表情が豊かだ・・。最初に会った獣のような目とその後の苦しんでいた表情は置いておいて、気さくな兄ちゃんのような表情、握手を求めてきた温かい笑顔、先の上司への嫌味まじりの表情、そして目の前のやんちゃな笑み。今じゃ騎士たちの声援を受けるぐらい好印象を与えているし、私にはない愛嬌があるな・・・。今の状況を考えないと、ちょっと羨ましい。








 試合に動きがあった。

それまで交戦していたが、シンの木剣が折れた。シンも対戦相手も目を見開いたが、試合は止められていない。対戦相手はそのまま攻撃を続け、剣を振り落とした。シンの頭にもろに食らった。私とリラン先輩に悲鳴が上がる。それでも試合が止められない。シンの頭から血が出ていた。シンの舌打ちが聞こえ、そのまま足蹴りをくりだしていた。対戦相手は木盾で防ごうとしたが、木盾ごと10mぐらい吹き飛ばされた。


 ・・対戦相手って、どう見てもシンより重いよね・・・?


 シンより10kg以上はあるだろう筋肉質の対戦相手を蹴り飛ばしたことによる驚きで、会場に静かになった。

シンは頭から流れた血と汗を袖で拭った。


「・・・・ああっ、もうっ、めんどくさいっ・・・。」


 ・・・・・・伯爵と同じこと言っている・・・って、シン!!


 シンの目を見たとき、驚いた。

最初にあった時と似た獣みたいな目つきになっていた。


 ・・・正直、少し怖い。

 エドワールさんからも、キレたのか?、と呟きが聞こえた。


 対戦相手が飛ばされたところからなんとか起き上がろうとしていた。シンは対戦相手に走っていて、右拳を放った。対戦相手は慌てて木盾で防ごうとしたが、シンは木盾を拳で壊した。そのまま右手で対戦相手の首元を掴んだところで、


「試合中止っ!!」


 と若手の騎士団副団長が叫んだ。シンの動きが止まった。


「・・・誰が止めろと言った・・?」


 フードの上司がそう言った。それに対して年配の騎士団副団長が、


「いや、もう終わりでしょう。実力は十分わかった。」


 年配の騎士団副団長が見た先は、嫌な汗をかいているものの好戦的で獣のような目のシンと、そのシンの右手に首元を掴まれて恐怖が浮かび始めた目をしている対戦相手だった。

騎士団長も頷いた。


 その光景に、フードの上司は舌打ちをした。


「・・・まだ、わからねーって。」

「なんなら、お前が戦うか・・? この前は途中で、おれが逃げたからな。」


 シンはフードの上司の方を見て言った。


 周りの人は何の話か気になってざわめいたが、私には理解できた。


 ・・たぶん、この2人、フェリン男爵のところで何かあったのか・・。だから、睨み合っていたのか・・。


 フードの上司が意地悪そうに微笑んで言った。


「いや、あの時は、被害者を保護・・しようとしたんだが、

 まさか逃げるとは思わなくてな・・。」

「魔法で無差別的に攻撃してくれば、とりあえず逃げるだろっ!!」


 シンが舌打ちまじりでフードの上司に対して怒鳴った。

・・それは逃げるよ。シンの方が当たっている。


 フードの上司は意地悪そうに微笑んだままだ。


「被害者の君にはすぐに止めたでしょう?

 保護しようと追いかけたが、君には撒かれたけど。

 ただ、あの時、魔法で追いかけたから、時速100kmは出ていたはずなんだが・・・。

 なぁ、そちらは魔法も使っていないのに、なぜ、撒かれたんだろうな・・・。」

「・・・・・・・。」


 ・・・え?!時速100kmを撒いたっ!? シン、どんなスピードを出せるの!?


 シンはフードの上司を睨んだ。そして、フッと笑顔で答えた。


「わりーな。男がすっごいスピードで追いかけてくるもんだから、怖くてこっちも全力で逃げた。

 男に追いかけ回されるの、こっちの趣味じゃないからな。」


 ・・・・・。


 エドワールさんを含めた何人かの騎士が吹き出した。シンがフードの上司をまるでストーカーのようにいったからだ。嫌いな相手でも怖すぎて、魔法師の”最高責任者”をそういう扱いする人は他にいない。騎士にとっては、シンの発言は痛快なのだろう。


 フードの上司はしばらく黙っていた。


 ・・・沈黙が怖い。








「・・明日に審査結果を報告する。帰ってよし。」


 フードの上司はその場を去った。騎士団長や副団長たちもシンを一瞥して去っていった。


 審査は終わった。ふぅー。


 対戦相手は仲間の騎士にわいわい騒がれながら連れられていった。


 シンが笑顔でこっちに駆け寄ってきた。まったく・・。


 一息をついて迎えようとしたが、その手前で、シンがふらついて倒れそうになった。慌てて私とリラン先輩は支えようとしたが、長身の男のシンを支えきれるわけでもなく、結局エドワールさんがシンを支えた。


「エドワール。わりー・・・・力尽きた・・。」

「この体であれほど動けばそうなる。・・よく耐えたな。とりあえず、医療室に行こう。」

「いや・・・その前に食堂に頼む。」


 その言葉と同時に、シンの腹の音が強くなった。

 ・・・怪我よりも空腹の方が重症らしい。あれほど食べたのに・・。


 エドワールさんは苦笑してシンをおんぶした。シンはぐったりしている。リラン先輩もシンを心配そうにその横を歩いていた。


 ・・ちょっと取り残され気味に私も歩いて行った。





 エドワールさんがカフェテリアのソファエリアの一組のソファにシンを下ろした。リラン先輩はすぐにシンの横に座ったがエドワールさんに少し睨まれた。


「俺は食事を注文してくるから、リランは書類をとってきて。心配だから付き添いをしよう。ここで仕事をやってしまおう。」

「・・・わかったわ。」


 リラン先輩は頷いて小走りに行った。エドワールさんはリラン先輩が去った先を少し見たあと、シンを見た。


「ここで、俺らも昼食にしよう。シンはどのぐらい食べたい?」

「3人分ぐらい。」

「わかった。」

「私も運びます。」


 皆の分だと6人前になるから、1人では大変だから、私も食事運びを手伝おうとしたが、


「いいよ。君はシンについていて。ペアだろ?」


 と言って去っていった。


 ・・こういうのクールっていうのかな?男気?



「くそっ・・あの男、むかつく。」


 シンは寝ながら呟くように言った。


「”最高責任者”のこと?フェリン男爵のところであの後にそんなことがあったんだね。知らなかった。」

「ああ。まあな。・・・・まったく、結局、伯爵の言う通りの展開になったしな。」

「え?」

「ああ、伯爵がな、フードが審査を無理矢理しかけるだろうから、あのいけ好かない男をコテンパンにしてよし!、って言っていた。」




 ・・・・伯爵は何を考えている?






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