第3話:僕の色合い
近寄りがたいオーラを全身に纏っている。
「その小説面白い?」
何を聞くかと思えばそんな事?
「面白いですよ」
何が気になる訳でもないだろうに…。
僕は明らかに暇潰しの相手をさせられている気がした。
「そんな文字の多い本よく読めるね、俺すぐ飽きちゃうよ」
声は少し低めで高校生にしたら落ち着いた綺麗な声に僕は聞こえた。
「声は落ち着いてるね?」
「褒めてんの?」
彼は、教室の中をキョロキョロと見回しながら、一歩また一歩と歩みを進めた。
「俺、明日から通うんだよね。 この学校に」
「転校してきたの?」
「まあね」
通りで知らない顔だと思った。 こんなに、不自然な存在なら僕の脳裏にこびりついているはずだ。
彼は机に触れたり、窓の景色をぼんやり眺めたりと、落ち着いているのかいないのか分からない。 突然動き出したかと思うと僕の隣に座り、またぼんやり外を眺めた。
「はぁ」
吐いた息は白く消えた。
なかなか集中出来ない。
知らない人が一人いるだけで、こんなにも集中力が削がれるとは気付かなかった。
鞄に本をしまい込み、立ち上がった。
「あれ? 帰るの?」
「帰るよ」
彼は意外そうな顔をして、何故か僕と同じく立ち上がった。
椅子を机に押し込み、教室の明かりを消して廊下に出た。 その間、彼は僕の後ろでのらりくらりと着いてまわった。
「何?」
「いや、俺も帰ろうかなって」
階段下り、一階の保健室前を歩いていると、だんだんと寒さを感じる。
忘れていたマフラーを取り出し首に巻く。
「はぁ」
そして吸い込む。
玄関に付くと、出したままの真新しいスニーカーが転がっていた。
緑を基調としていて、地味な僕は明るいその色を見て少し感動した。
彼はそれに足を通し、何故か僕が履き変えるのを待った。
「何?」
「いや、何となく」
意外にとは失礼かも知れないが、優しい人みたいだ。
それぞれの行動に意味があって、僕が意味もなく空に吐き出す白とは違い、何かを意味する動作だったり、それの伏線になるように動いている気がするのは僕の気のせいだろうか?
それでも、今この状態は赤の他人にしては
「優しい行動」
として僕は受け取ってしまう。
「ありがとう」
「うん」
口にして、何を言ってるんだろう?恥ずかしくなりながらも立ち上がり、僕等は玄関を後にした。