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第1話:僕の幸福

 長編になる予定です。

 寒さが増し、秋の色合いが濃くなっていく日々の中、僕は空を眺めて白を吐き出すことを主にして生活していた。

「はぁ」

 溜めて吐き出した息は白く曇り、宙に混じり消えた。

 誰も居なくなった放課後の教室は寒さが異常だと思った。

 用意された古い型のストーブは、組み立てすらされておらず教室の隅に固められていた。

「はぁ」

 ため息をすると幸福が逃げると誰かが言っていた気がする。

 僕は今日で何度目のため息を吐いただろうか?僕の中に残っている幸福は、きっと些細なものだろう。

 例えば、百円拾ったとか、くじ引きで五等の洗剤が当たったとか、家に着いてから雨が降り出したとか、その程度のものだろう。

 そしてこれもその一つだろうな。

 僕は鞄の中を漁ると、昨日買ったばかりの文庫本を取り出した。

 この本は僕が好きな作家さんの新刊で、何日も前から捜していた本だ。

 あまり人気の無い作家さんなのだが、独特の表現と色鮮やかな言葉が好きで、新刊が出るたびに買っていた。

 今回も新刊が出たとの情報が耳に入り、早速行きつけの本屋に向かった。

「えっ? 入荷してないんですか?」

「申し訳ございません。 問屋の方には在庫が有るようですが、注文されても一週間以上かかってしまいますね」

 どうなさいますか?と本当に申し訳なさそうな声を今でも覚えている。

 その店で注文せずに僕は家路に着いた。

 次の日から学校終わりのその脚で本屋巡りが始まった。

 学校から近い本屋を中心に捜し回ったが一向に見付からない。

 遠いところでは学校から歩いて一時間はかかる場所にまで赴いたが、どこの店の答えも

「入荷していません」、

「うちの店では取り扱っていません」と、本屋自体に品物が置いていない状態だった。

 本屋からの帰り道は後悔ばかりしていた。

 やはり最初の店で注文しておくべきだったのかと。

 でも一週間以上かかってしまうのはあまりに長い気がした。 しかし、あのとき頼んでおけば自分の手元になどと考え過ごし、もう一週間は過ぎてしまっていた。

 一週間と三日過ぎた放課後、今日は最後の本屋を捜す予定だった。

 けれども、日直の仕事があり今日は捜しに行けないなぁーと、ぼんやり考えていた。

 黒板を消して、教室を掃除し、机を綺麗に並べ直す。その後、日誌に今日の出来事を洗いざらい嘘偽り無く書き出していく。

「今日は朝から日直の相方が居ないことに不安で仕方なかった。 先生が入って来てからの、クラス全員で発する

「お願いします」の先陣を切るのは胃が痛むものがあった。 いつもは相方に、そちら方面をやってもらい、自分は目立たないことをやるのが楽だったし、好きだった。 何故こんな日が訪れてしまったのだろうか? とことん日直が嫌いになりました。 ため息も何度目か分からなくなりました。 とにかく今日が無事に終わってくれて良かったです。 欠席、松月和音、早退、なし、日直、 瀬川秋。

「はぁ」

 日誌を書き終えると共に、ため息が溢れた。

 そのことを日誌の隅に書き足し、今日の学校で行う全てを終了した。

 

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