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7/7

11歳

春休み。

今日は自宅で過ごす。昼間はかくれんぼやら、鬼ごっこやら、ゴムボールで野球やら外で遊ぶことが多いけど、もう夜も更けてきたので今は、自室でテレビタイム。

特に見たい番組があるわけでもないけど、ゲームも今は特にやりたいものもないし、カードゲームとかやろうにも皆はリビングにたり、風呂はいってたりするから相手もおらん。

仕方なくテレビをつけたものの、チャンネルを変えても面白そうな番組は無いみたい。

「暇だぁー。」

ベットの上でごろごろしながら適当に次の風呂の順番を待って過ごす。


少ししてから、部屋に誰か入ってきた。

「風呂空いたけど、次入る?」

なんとタイミングが悪いことか。今ちょうど気になる番組が始まったところだったのだ。

「えー、このタイミングで?どうしよっかな。今ちょうど面白れー番組ありようけん、後で入るわ。」

「そっ。」

彼女はそれだけ言うと、ベットに腰掛けて一緒にテレビを見始めた。

二人ともしばらく無言でテレビを観賞している。

彼は、誰かと一緒のとき無言の時間が続いても、特段苦にはならないタイプだったので、普段なら何も気にせずにテレビの観賞を続けたことだろう。

だが、このとき彼はなんとなく、自分の横に座っている人が何を考えてるのかが気になって話しかけた。

「どしたん?」

「や、別に。何?いちゃ不味い訳?」

「いや、別に良いっすけど。」

「…向こうの部屋で見たい番組やってなかったから。」

「ふーん、そか。」

そうして短い会話のあと、またしばらく二人は無言のまま一緒に同じ番組を見た。

また、しばらくしてから彼女も「私も、横になりたいけんそっちつめてよ。」と無理やりに彼を端へと、押しのけて二人は横並びになった状態でテレビを観賞していた。

そして、彼女が部屋に来てから1時間位経過した頃、部屋に向かってくる新たな気配を彼は感じた。いや、気配と言うには分かり易過ぎる。それは、さながらサイレンのようにけたたましく音を響かせやってくる。

当然、隣の彼女も誰が近づいてきたのか直ぐにわかった様で、「呼んでるよ。」と話しかけてくる。

そんなこと分かりきっている。

でも、これに反応するわけにいかない。そう自分の中の本能が訴えかけている。危険だと!

すぐさま彼は隠れられる場所を考えたが、とっさのことすぎてとりあえず布団を被った。そして隣の彼女に懇願する。

「居ないって言っといて。」

「いいけど、何かしたんなら直ぐに謝った方がいいよ。」

「いいからいいから。」

「もう。」

と、そう言って布団に包まったはいいものの、直ぐに思い至る。『これ外から見たらバレバレじゃね?』

たぶんだが、いくら小学生の体とはいえ、ベットにもこっと丸まった布団があれば怪しくないはずが無い。めくられてしまえば直ぐにバレる。我ながら何と浅はかな考えかと思い、『仕方ない、今日のところは大人しく怒られておこう。』と、頭を布団から出そうとしたとき、何かが彼を包みこんだ。

「じっとしときよ。」

「…」

彼は返事をしようと試みたが、口…というか、顔全体が何かに覆われている為、声に出すことができない。

仕方なく小さくうなずくことで、同意を示した。

その直後、大きな声とともに部屋の扉が開けられ、奴が入ってくる。

不安と緊張で自分の心音が大きく聞こえ、布団の外の音が少し遮られる。と同時に、自分の目の前を覆っている正体に気づき、彼の心音は益々大きくなった。

彼を包む込んでいる正体は、彼女の腕だった。

彼の正面から向かい合うようにして、彼女は彼を包みこんでいる。

外から見たら布団の中には子ども一人しか居ないのかと見える程度に、しっかりと密着した状態だ。

彼の頭は、彼女の左腕で服越しにでも分かる、やわらかな胸へと埋められ、腰の辺りには彼女の左の足を回され、彼と彼女の間は隙間無くがっちりとホールドされていた。

彼は何故こんなことになっているのか理解できず混乱し、さらに小学生同士とはいえ、明らかに同世代では大きな胸に顔全体を覆われていたため息をすることができず、恥ずかしさと、酸欠で見る見る顔が赤くなっっていった。

今彼に聞こえるのは、自分の大きすぎる心音と、隙間無く密着した彼女の心音だけだった。

二つの心音は別々のリズムを刻み、互いがここに居ることを証明しているようだった。


「あれ?紀美ちゃん一人?」

外で微かに奴の声がする。

「はい。」

「希命人見てない?」

「居ませんでしたけど、トイレとかどっかに隠れてるんじゃないですか?」

「あらそう?どこ隠れたんやろね、あん子は?」

「…」

「ここに居ると思ったんやけどねぇ、まぁいいわ。」

「どうかしたんですか?」

「いや、あん子だけ風呂入ってないけん、水が抜けんのよ。」

「も!ホント、手が掛かるんやけ。」

「あははっ。」

彼女の愛想を振りまく時の笑い声が聞こえて、『なんだよそんな事かよ。ビビらせんなよ。』と、彼は心の中で悪態をつきながら、動いてしまわないようにじっとしていた。

この体勢はいろいろまずい。もし見つかれば、変な誤解をされてしまう。彼もそこまで常識が無いわけではない。

親戚同士とは言え、小学校の高学年ともなれば男女とも目に見えて違いが出てくる。そんな男の子(・・・)女の子(・・・)が布団の中で抱き合って状態でいるのだとしたら流石に、母親でも少しは驚くはずだ。

とにかく早く去ってくれと、彼は願わずにはいられなかった。

「あ、それと紀美ちゃんりんご剥いたんやけど、食べに来ん?」

「あー、今はいらないです。」

「そっ、なら欲しくなったら向こうの部屋においで、また切ってあげるから。」

「はい。」

そう言って、やっと部屋から出て行った。

でも、奴が出て行った後も彼は直ぐに顔を出すことが出来なかった。彼はまだ、がっちりとホールドされた状態のまま、身動きができなかったからだ。

部屋が2人だけになって30秒くらいしてから、ようやく彼女の腕と足は彼を解放した。

彼はそっと顔を胸から離し、布団の中から彼女の顔を見上げるようにして、「もう行った?」と確認し、彼女も「大丈夫。」と彼に返す。そうしてようやく布団の中から顔を出すと、彼は直ぐに起き上がり、ベットに座り込んで顔を手で仰いだ。

「アツー!」

彼は、恥ずかしさのあまり彼女の顔を見ることが出来ず、真っ赤になった顔をごまかすように手で仰ぎながら、テレビと反対の入り口側を見つめて放心していた。

彼女は特に何も言うこと無く同じ姿勢のまま、テレビを見ている。

まるで、全く気にしていないのか?それとも何か別のことを考えているのか?彼には全然分からなかったが、今もまだ耳に残る彼女の心音は、確かに彼の心を騒がせていた。


外はこの時期まだ寒いが、彼は今、身体から蒸気が出そうなほど、火照っており首筋や襟元には少し汗が滲んでいる。

「しゃーね、風呂行ってくるわ。」

母親の呼び出しに応じて立ち上がったという体で、彼は彼女へ振り返ることなくつげると、彼女もそれに答え、

「行ってらっしゃーい。」と送りだした。

部屋を出た瞬間、暖房の入っていない廊下の空気は一瞬、彼の温度を奪っていったが、そのことで少しだけ冷静さを取り戻し、彼は一人風呂場へと向かって歩き始めた。

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