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つっかえぼう

作者: 羽月

 さあさ、夜更かしもほどほどにして、そろそろおやすみなさいな。

 まだ、寝るのには早い時間、ですって? あなたたちの住んでいる町の暮らしではそうかもしれませんけれどね、ここにはここの、時間の流れ、決まりというものがあるのですよ。

 いけませんよ、ゲームなんて。目がさえて、余計眠れなくなってしまうでしょう? こんな時間に眠くならない、なんておっしゃらずに、電気を消して横になってしまいなさいな。そうすれば、勝手に眠くなってくるでしょうよ。

 おはなし、ですか。昔の、私があなたたちくらいの年だった頃のおはなし。まあ、何を驚くの。そりゃ、そうですよ、今はこんなおばあちゃんでも、私にだって子どもの時代ってものがあったのですよ。

 どんなお話がいいかしら。あら、怖いはなしが聞きたいの? 言っておきますけれどね、この屋敷のお便所は、暗い、長い廊下をずっと行った先ですよ。夜中にもよおして目が覚めて、怖くなっても知りませんからね。

 学校の七不思議、あらあら、今でもそういうの、あるの。今風の、コンクリートでできた、新しくて明るい学校にも、ねえ。ええ、もちろん、おばあちゃんの通っていた学校にだってありましたとも。

 はいはい、わかりました。じゃ、そのおはなしをしましょうね。けれど、そう怖いおはなしではありませんよ、作ったお話なら、良くできているでしょうけれど、なにせ、本当にあったお話なんですから。

 このおはなしが終わったら、すぐに寝ること。約束ですからね。


 おばあちゃんが通っていた学校は、古い木造の二階建てで、校舎の西の端に、地下室に降りる階段があったの。瓦の屋根でね、校舎の後ろ側は、建物が倒れないように、丸太でつっかえ棒がしてあったっけ。おかしいでしょう? けれども、それくらいボロかったのですよ。

 あれは、おばあちゃんが、小学六年生の時だったわね。夏祭りの晩、お友だち数人で会ったの。おばあちゃんでしょ、トモヨさんとチエコさんと、あと、男の子が四人、カイちゃんとイサちゃん、キンちゃんに、カイちゃんの弟のショウキチ。あれやこれや話しているうちに、男の子たちが、学校に忍び込もう、って言いだしたの。

 おばあちゃんの学校の七不思議はね、夜、暗くなって、学校に誰もいなくなった後、子どもだけ七人で六つの不思議を順番に見ていって、最後に地下室に降りると、座敷童に会える、っていうものだったのね。これが、七番目の不思議っていうわけ。

 座敷童を知らない? おうちを守ってくれる、子どもの格好をした妖怪、っていえばいいのかしら。幸せを運んでくれる、小さな神様みたいなものよ。座敷童に会えたら、幸せになれる、っていわれていてね。男の子たちは、会いに行こうっていうのよ。

 女の子たちはね、とても怖がって、きゃあきゃあ言ったわ。それに、学校に忍び込むなんて、よくない事だと思ったし。けれど、なんだかんだで、結局、行ってみよう、って事になってしまったのね。

 思い出すわ。

 お祭りをしていた、神社の森から離れるごとに、だんだん暗く、静かになっていって、田んぼでは蛙が鳴いていて、みんなの足音が、ジャリ、ジャリって、やたらと響いて。

 イサちゃんが、懐中電灯を持ってきていて、みんな、びくびくとどきどきが混ざった気持ちで、道々、一人ひとつずつ、小石を拾いながら、その灯りを頼りに、学校へ行ったの。

 ああ、言っていなかったわね、おばあちゃん、ぼけちゃったのかしら。

 七不思議をまわるとき、一人ひとつずつ、小石を置いていく決まりがあったの。それで、小石を拾って、誰から小石を置いていくか、じゃんけんしながら夜道を歩いたのですよ。

 一つめの不思議は、校庭の銅像が動くっていうもので、学校の門をくぐったとたん、ショウキチが、動いた、って騒ぎだして。けれども、他のみんなで近寄ってみても、いつもと変わらない銅像だったわ。ちょうど、一番目に小石を置く役目は、ショウキチの番だったから、銅像の台の上に、小石を置いて次に進んだの。

 さっきも話したけれど、学校はボロだったから、カギのかからない窓があったのね。そこから、こっそり学校の中に入ったわ。

 二つめが、一段増える階段。ここは、おばあちゃんが小石を置く番になっていてね。みんなで数えながら昇ったのだけれど、おばあちゃん、緊張していたせいか、数え間違えちゃったみたいで、一段多くなっちゃって、みんなに笑われちゃったのよ。

 三つめ、四つめも、どういうわけか、当番になっていた子、一人だけが気が付いてね、けれども、他の子たちには何も見えないから、気のせいじゃないかって話しながら六つめの不思議の場所まで済ませたの。

 いよいよ最後の不思議、地下室に行けば、座敷童に会えるっていうところまできて、みんな、心臓が破けてしまうのじゃないかっていうくらいドキドキしていたの。次に小石を置く番だったトモヨさんは、もう、泣きそうなくらい怯えていたわ。

 暗い階段を下りて、古くてしっかりしている木戸のノブをカイちゃんが廻して。ギイギイって、ドアが軋む音が、学校中に響いたんじゃないかってくらい、大きく聞こえたっけ。

 はじめて入る地下室は、真っ暗で、湿っぽくて、ヒンヤリしていて、ホコリの匂いがして、そりゃあ不気味で怖かったわ。イサちゃんが、懐中電灯で照らしたら、少しずつ景色が見えて、地下室は、先生方が、物置代わりに使っていらしたのね、入学式の時の看板やら、段ボール箱やらが置いてあったの。

 みんなが進んで行くから、なんとかちょっとずつ進んで行ったけれど、もう、いつ気を失って倒れてしまうかっていうくらい、ビクビクして。目を開けられずに、誰かの手を繋いでやっと歩いていたの。

 そうしたらねえ、ノリコさんが、急に、キャア、って悲鳴を上げて、みんな、弾かれるように地下室から逃げ出して、階段を駆け上がって、一気に廊下を走って校舎の外に出たの。

 校庭で、みんな、ハアハアいって、なんとか息を整えて、キンちゃんが、どうしたんだよ、って聞いたのね。そうしたら、ノリコさん、座敷童、みたかも、って言い出して。おかっぱ頭の、古い着物を着た女の子が、いたような気がする、って。

 なんだかみんな、ゾッとして、もう一度戻って確かめてみようなんて気には、どうしてもなれなくて、何も言えずに、早足で家に帰ったのですよ。

 お祭りの晩だったから、少しくらい帰りが遅くても、親は何にも言わなかったの。他の子たちも、きっと同じね。学校に忍び込んだのは七人だけの秘密っていうことにして、なにごともなかったように、誰にも話さずに、いま、あなたたちに聞かれるまで、七不思議のことなんて、すっかり忘れていたわ。


 これで、七不思議のおはなしは、おしまい。

 え、ノリコさんって、誰か、って? ノリコさんは、お嫁に行くのに村を出て、何年か前に亡くなってしまったのだけれど、小学生の頃は、おばあちゃんの家の隣に住んでいたのですよ。年を取るとね、お友だちもおばあちゃんになって、そういうお別れができてしまうものなの。さみしいけれど、仕方がないわね。

 おはなしの最初にはいなかった? そんなはずはないけれど。おばあちゃんと、ノリコさんと、チエコさんと、カイちゃん、キンちゃん、イサちゃん、それと、ショウキチ。ほら、七人でしょう?

 トモヨさん? あら、そういえば。いた、気がするわね、トモヨさんってお友だち。おばあちゃんのおうちの隣に住んでいて、お祭りのとき、誘いに行ったのよ。一緒にいきましょう、って。いえいえ、それは、ノリコさんだったのかしら。

 いやねえ、おばあちゃん、ぼけちゃったみたい。

 学校? あなたたちのお父さんが通う頃には、廃校になって、いつ壊れてもおかしくないくらい古い建物だったからねえ、壊してしまったわよ。なにせ、学校になる前は病院だったっていうし、お年寄りなんかは、土地自体が、あまり良くないところなんだ、人が住めるような場所じゃない、なんて、言っていましたっけ。

 そんな良くない場所に建物を建てるのなら、だれかが守ってくれていてもおかしくはないかもしれないわね。座敷童というより、そういうものだったのでしょうよ。まあまあ、つっかえ棒みたい、なんて、それは言い過ぎじゃないかしら。今はね、ほら、山の上に公民館があるでしょう? あそこが、元の学校。

 本当に座敷童だったのかどうかは、おばあちゃんにもわからないわ。普通、座敷童って、家を守るものだもの。それに、ノリコさんだって、見た気がするって言っていただけだし、あんな真っ暗だったのだもの、きっと見間違えなのでしょう。学校にいるのだったら、学校わらしだろうって? お上手ねえ、確かにそうだわ。

 座敷――学校わらしは、どこに行ったのかしら。ずっと一人ぼっちで悪いおばけから学校を守るなんて、あなたが言うように、大変なことね。ときどき、誰かが交代してあげられればいいけれど。まあ、おばあちゃんはいやよう、学校の地下に、ずっと閉じ込められているなんて。

 今でも、公民館の地下で、あの場所を守っているのかもしれないわね。七不思議はなくなっちゃったから、もう誰も会いに行けないけれど。


 さあさあ、お話はもうおしまい。お話が終わったら、すぐに寝る約束だったでしょう。もう、おやすみなさい。


    挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[一言]  拝読しました。  牧歌的なおばあちゃんの昔語りかと思いきや、でした。  一人消えて一人増えるのみならず、そんな役割まで無理矢理に背負わされるなんて。  そして何より、「七不思議はなくなっち…
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