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 母とのお話も終わり、ユリィ様のお迎えをするためにディアと男子寮に入る。女子禁制なのだが、生徒会役員が許可を出せば一時的に入れるそうだ。

 ユリィ様はアラン殿下のお部屋にいるからと連れられた。


「ユリィ様、お迎えに来ました…よ…?」

「表へ出ようミラベル」


 アラン殿下の部屋の扉を開けてすぐ、ディアに両手で目隠しをされて外に出された。気のせいでなければ、縛られたユリィ様がぐったりして頬ずりをされていたのが見えた。

 私をおいてしばらく、部屋に一人で入ったディアが失神したユリィ様の首根っこを持って連れてきてくれた。王子殿下にさすがにそれはよくないですよ。言おうとしたら部屋の仲に床に倒れるアラン殿下が見えた気がして色々とつっこんだら負けなことは理解した。

 うなされるユリィ様をうけとって、少し左右に揺らすと意識を取り戻した。


「ミラ……」

「おはようございます」

「ミラなんて、クビだ!!大嫌いだ!!」

「まぁ…酷い。私は大好きですよ」

「悲しい顔をするな!本当は俺も愛しているぞ!!」


 私の申し訳程度しかない胸に顔を埋めたユリィ様は、何か怖いことを思い出したようにブルブルと震えている。


「どうして置いて行った!ミラ!ミラ!!」


 ああいけない。愛しているにきゅんときていた。


「はい」

「もう片時も離れるな。絶対だ!何があってもだ!絶対の絶対だ!!」

「ええ。わかりました。ユリィ様が望まない限り離れません」


 お兄様を恋しく思うこともあるだろう。そういう時に限りアラン殿下に預けるという方針で。


「お前の母に会いに行くのもそこのボンクラではなく俺にしろ!」


 ボンクラ呼ばわりされたディアは、皮肉っぽく笑っている。


「俺も是非そうしてもらいたいね」

「あら、まだ母に虐められたのを気にしているんですか?」

「笑って見ていた君にはわからないだろうね。あの人の言葉は剣より鋭利だよ」


 母は決してディアを嫌っているのではない。むしろお気に入りだ。ディアのお母様が亡くなられていることで子供の頃から本当の母親のように接していたのもあり、父と違ってディアに遠慮もない。

 その容姿で女性にはちやほやされがちのディアは、しかしうちの母に女の恐ろしさを早くから教えられたおかげで女性に夢を見れなくなってしまった様子。いいことなのか、駄目なのか。


 脅すような笑みで近づくディアに、ユリィ様は少し眉間に皺をよせた。


「会うのなら覚悟したほうがよろしい。スウェイン夫人は殿下が未だ体験したことのないような恐怖を教えてくれますので」

「脅さないでください。母は少しばかりお茶目なだけですよ」


 あと少し正直で少しうっとうし……口やかまし……面倒見がいいだけで。


「では母にユリィ様を連れていくことを伝えておきますね」

「俺と二人だぞ!ユーディアスはいらない」

「いらない、なんて、意地悪いけませんよ」


 ディアの乾いた笑いが数秒響く。


「置いてけぼりにされてもむしろありがたいくらいですね」

「怖がらなくて大丈夫ですよユリィ様。ディアは大げさなんです」


 最後にもう一度アラン殿下の様子を確認しようと扉に手をかけたらディアにそっと下ろされた。


「時間も時間だ。女子寮まで送るよ」

「ではアラン殿下にご挨拶を…」

「送るよ」


 はい、以外言えなかった。




***




 ベッドに入ったユリィ様に、今日は楽しかったですか、と尋ねると怒られた。


「楽しいわけがあるか!あんな気色の悪いのと置き去りにされたんだぞ!」

「素敵なお兄様ではないですか。ユリィ様を大切になさっているようですし、私は兄弟がいないので羨ましいです」


 お城の中でユリィ様を守ってくれる人は誰もいなかったのかと、心配していた。ロメオ殿下も感じが悪いし、ギルバート殿下は学年が離れていて二、三度見かけた程度なのでどんな人かは知らないが、正妃の子と侍女の子では相性もいいはずはないだろう。

 出生のこともあり国王陛下は目立ってユリィ様を可愛がれないだろうし、お城の人間関係というのは女性がまとめるのがふつう。使用人にもユリィ様はいい扱いを受けなかったはず。

 まだかろうじて子供らしさのある子供でいられたのはアラン殿下がいたおかげなのかもしれない。


「あいつが大切にしているのは俺じゃない。単に俺が手頃なんだ」

「あらぁ…また自嘲癖が…」


 普段自身たっぷりなのにふとしたとき自信をなくす。この子をこうさせた理由が何かあるのだろうか。


「あいつは期待されていたからな。外にも中々出ずに話し相手は家族だけだったんだ。けどロメオは腹の中が真っ黒で、ギルバートも母上のせいで兄弟を毛嫌いしているからな。馬鹿で邪魔ものもいない俺が、暇つぶしに選ばれただけだ」

「私よりもユリィ様の方が賢いと思いますが…」

「俺やミラよりロメオの方が悪知恵は働く」


 それはそんな感じがしますね。


「アランは俺を、犬か猫と勘違いしている。俺は人間だ」

「んん……。ただユリィ様が大好きなように見えましたけれど…」


 まあ行き過ぎた愛情も逆に伝わらないということか。


「もう眠るぞミラ!」

「まだ八時ですけれど…」


 ユリィ様の就寝時刻は九時のはず。五歳なら八時くらいが丁度いいかもしれないけれど。


「早く眠らないとうるさいのが来るだろう!!」

「ああ…そうですね」


 順番でいくと今夜はエリカあたりが訪ねてくるはず。

 律儀なユリィ様は居留守を使うという発想もないので、ならば眠っていたという言い訳を作ろうとしているらしい。

 私も一緒にベッドに入ると、ユリィ様はぎゅっと抱き付いてきた。


「……疲れた」

「そうですねぇ…」

「ミラ、もうどこも痛くないか?ユーディアスに打たれたところは平気か?」


 私の首を後ろをさすりながら、ユリィ様が少し怒ったような声を出す。


「大丈夫ですよ。ディアのことも、ちゃーんと叱っておきましたから」

「今度同じことをしようとしたら返り討ちにしてやる」

「歯ぎしりは癖になるから駄目ですよー」


 子供のうちに癖になったら直りませんよー。




***




「何故そいつらがいるんだ」

「俺にも何故ここに自分がいるのかわからない状況です」

「まぁ。珍しく意見が合いましたねえ」


 不服そうに顔を見合わせて、ディアもユリィ様も一緒に私を睨む。


「アラン殿下も同行したいとのことでしたので。そういうことならディアもと思いまして」


 私の隣では勝ち誇った笑みのアラン殿下が腕を組んでいる。


「お前は俺から逃げてばかりだからな、ユリエル。外堀から埋めてやろう」

「いつから女子寮の下で待っていたんだ変態」

「昨夜からだ」

「寮の警備を強めるべきだ」


 強めても王子殿下を確保する警備員はいないでしょうけど。

 今日は約束通り私の母の家を訪ねる予定の日曜日なのだが、母に連絡を取る際アラン殿下に捕まり、自分も連れて行ってほしいと頼まれた。

 ユリィ様には黙っていてほしいとのことだったので言わなかったけれど、かなりご立腹なようで私の背中をぽかすか殴っている。痛くない。かーわーいい。


「俺が行く必要性がわからないよ。先日お邪魔したばかりだし。三人で行っておいで」

「もう母にディアも連れていくと言ってしまいました」

「貴様俺とミラにこの危険物を押し付けるつもりか」


 ユリィ様はたびたびアラン殿下を危険物と呼ぶ。


「たまに会うくらいが丁度いい人だし」

「それ、貴方、本人を前にして絶対に言えないでしょう」


 親不孝者と言われてビンタされますよ。いえ親ではないですけど。


「ほら早く行きましょう」


 アラン殿下に抱っこされたユリィ様は暴れに暴れ、十メートルほど進んだところで私のところに戻って来た。


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