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カイトのど~き《3》

「ぶうぇっ、くしゅん!」


 盛大なクシャミと共にカイトは目を覚ました。


「ここは・・・・・・あれ?確か、落ちたはずじゃなかったっけ」


 そう言いながら頭をさする。ひりひりした痛みがある。落ちたのは間違いない。

 何より、右手の中にはアスカのペンダントがある。


「じゃ、ここは?」


 周りを見回すとここはあの建築現場だった。すぐ側に自転車も立て掛けてある。

 と言うことは結界の中から放り出されたって事か。

 こう言うことに関しては妙に鋭いカイトだった。

 幾つものRPGで鍛えた直感は伊達じゃない。


「そうだ、アスカは。アスカを迎えに行かないと」


 だけど、ここは結界の外。彼女がいるのは結界の中。

 しかも、入り口だった建築現場の扉も今は堅く閉ざされている。

 押しても引いても横スライドしても動かない。


「・・・・・・もしかして」


 カイトは一縷の望みを掛けて自転車に跨った。

 もう、家に帰ってるかも知れない。

 その可能性は凄まじく低い。0に近いと言っても良い。

 だけど、カイトはその0に近い数字に掛けた。

 目指す先はマンション町中702号室。つまり、カイトの自宅だ。

 普段滅多に見られない高速移動で瞬時に自宅到着。

 玄関のドアを開けるのも、もどかしく苛立ってしまう。

 ドアを開けるとすぐに部屋の中に飛び込んだ。


「アスカ! ・・・・・・アスカ!!」


 返事はない。彼女はまだ、帰ってきてはいない。


「・・・・・・やっぱり」


 カイトは腰が抜けたように座り込んでしまった。

 右手にはアスカから預かったペンダントがある。

 カイトはペンダントの光輝石を見つめた。始めてみたとき同じ変わらない光を宿している。この光を見ているだけで何となく、どうにかなるような気がしてきた。

 不思議だけど、何とかなるような気がしてきた。

 カイトは立ち上がった。


「アスカ、絶対に迎えに行くからな!!」


 手には強く、強くペンダントが握りしめられていた。

 その時、いきなり電話のベルが鳴った。


「アスカ!」


 飛び付くようにカイトは受話器を取った。


「・・・・・・もしもし」

「・・・・・・・・・・・・」

「アスカ、アスカなんだろ」

「残念ながらそうではない」

「!!」


 低い男の声だ。こもっていて聞き取り難い。

 知らない声だと言うことだけは確かだ。


「誰?」


 普段、絶対に含まれない険悪な色がカイトの声にはあった。


「我が誰かは分かっているはずだ」


 魔物だ。そう直感した。

 自然と緊張が走る。

「光輝石を持って、林海学園第一校舎の屋上に来い」

「アスカは、アスカは無事なんだろうな!」

「安心しろ。無事だ。大人しく、貴様が来るのを待っている」

「アスカの声を聞かせろ」

「無事だと言ってるだろう、心配するな。ちゃんと、光輝石を持って来るんだ」

「ちょっと、待て・・・・・・あっ」

「トゥ~トゥ~トゥ~・・・・・・」


 受話器を耳から外し、再び強くペンダントを握りしめる。


「アスカ」


 受話器を乱暴に置き、コートを片手に外に飛び出そうと襖に手をやろうとした瞬間、向こうから勝手に開いた。そこには。


「父さん、じっちゃん」


 腕を組み、直立不動で立つ二人がいた。

 二人とも顔が真っ赤だ。ウワバミの二人がこれだけ赤くなっているのだ、かなりの量を呑んでいるはずだ。やけ酒だろう。

 二人とも少し意味合いが違うけど、放火に対してである事は間違いない。


「話しは聞いたぞ。カイト」

「お前もとうとう、そう言う年頃になったんじゃなぁ」


 感慨深げに頷く有馬とじっちゃん。


「二度目の失敗を恐れずリベンジじゃ」

「そうだ。おじさんの言うとおりだ。安心しろ、カイト。一度や二度の失敗は当然の事だ。そう思って恐れず突き進むんだ」

「うむうむ、有馬の言うとおりじゃ。漢には突進有るのみじゃ」


 熱っぽく語る二人はかなり酒臭い。

 こんな二人に構ってる暇はない。すぐにアスカを迎えに行かないと。


「ボク、ちょっと出かけてくるから」


 と、二人の側を横切ろうとするが、服の襟を掴まれ、引き戻されてしまう。


「ちょっと待てと言ってるだろ」


 そう言って酒臭い顔を近づけてくる有馬。

 かなり虚ろな目をしているくせに話し口調だけは妙にはっきりとしている。

 しかも、とんでもない力で引き戻された。もしかして、酔拳の達人?


「お前、武器も持たずに戦うつもりだったのか?」

「うっ」


 痛いところをつかれた。

 敵は魔物だ。確かに丸腰で戦って勝てるはずがない。


「やはりな。だったら、これを持っていけ」

そう言って有馬は鍵の束を取り出し、そのうちの二つをカイトに渡した。

「・・・・・・これは?」

「こっちが宝物殿の鍵で、これが左隅にある宝箱の鍵だ」

「父さん?」

「双樹神社秘蔵の必殺の武器だ。持ってけ」


 カイトはこの時、生まれて始めて父を頼もしいと思った。

 カイトの有馬に対する尊敬度が1ポイント上昇。キラリ~ン。


「行け、カイト。漢の夜明けが待っとるぞ」


 良く分からないじっちゃんの励ましもこの時ばかりは心強く感じた。


「うん。父さん、じっちゃん」


 カイトは受け取った鍵を握りしめ、外に飛び出していった。


「万感の思いを込めて、少年は再び戦場へと向かう。

 さらば、少年の日々よ。

 そして、少年は大人になる」


 じっちゃんは滂沱しながらカイトを見送った。


「カイト。見事、アスカさんを満足させてやるんだぞ」


 ・・・・・・やっぱり、ずれてた。




 宝物殿は本殿の真後ろに位置している。

 宮司である有馬以外に入ることを許されない双樹神社唯一の聖域。

 定期的に行われる神社の掃除に駆り出されるカイトも宝物殿だけは一度も足を踏み入れたことがない。

 昔、何で入っちゃいけないの?と聞いたカイトに、有馬は大事なものが入ってるからだ。お前が大人になったら入れてやると答えていた。

 武器なんて物を置いていたら子どもには危なくてとてもじゃないけど入れられないな。でも、武器って一体?


 そんな事を考えている間に双樹神社に着いた。

 この時間帯になると神社にお参りに来る人はいない。

 神社に寝泊まりしている有馬も今は家にいる。だから、誰一人としていない。

 そんな神社は近寄りがたく、神聖で侵しがたい雰囲気を生み出しているようにカイトは感じた。

 御神木の大樹が何かに反応してざわめく。

 何時も感じる和やかな色はなく緊張を持っているように聞こえる。

 そう言えば、夜の神社に一人で来るのって初めてかも知れない。

 祭りの時ぐらいだもんな。その時も優と沙耶が一緒だし。

 掃除に来る時でも遅くても夕方には家に帰るし。


 カイトは大樹の声を聞きながらそんな事を思い出した。

 冬の空気で冷やされた廊下は非常に冷たい。靴下を履いているのにこれだけ冷たいのだ。相当冷えているはずだ。カイトは指先が冷たさで痺れるように感じた。

 宝物殿の扉は厚い木で出来ていて、その縁は鋼で覆われている。

 中の物を封じ込めるように扉には紙の封印が貼られ、大きな錠がされている。

 カイトは預かった鍵を使って錠を外すと、扉に手を掛けた。

 封印の紙が破られ、宝物殿は開かれた。

 中は思っていた以上に暗く、何があるのか良く分からない。


 だが、カイトはすぐに扉の右隣に懐中電灯が掛けられているのに気付いた。

 灯りに照らされた宝物殿は古めかしい箱が所狭しと置かれていた。

 一見すると物置と勘違いしそうな乱雑な置き方をしている。

 とても宝物を置いているとは思えない。


「宝物殿って言っても家はこんなもんだよね」


 カイトは苦笑混じりにそう言った。


「確か、左端の宝箱だったよね」


 自分で言った宝箱と言う言葉にカイトの胸は少しだけ高鳴った。

 財宝を求めて迷宮に入った冒険者が目的の物を目の前にしたときの気分と似ているのかも知れない。そんな不思議な高揚感みたいなものをカイトは感じた。

 左端の箱も他と同じで木箱で出来ている。だけど、比較的新しく見える。

 古くなって作り直したのだろう。

 カイトはその木箱を比較的広い宝物殿の真ん中に持っていき、鍵を開けた。

 何故だか分からないけど緊張で唾を飲み込む。

 一体、どんな武器が。父さんのことだから銃器とか入ってたりして。

 もし、入っていても不思議じゃないのが怖いところだ。

 緊張しながら、ゆっくりと蓋を開ける。


「!?」


 確かに箱の中には武器が満載されていた。素晴らしい武器の数々だ。

 ピンクや黄色、果ては紫色と妙に派手で毒々しい色の武器の数々が納められていた。見ているだけで目が痛くなるほどだ。


「何なんだよ、これ。・・・・・・父さんのバカ!」


 カイトの有馬に対する尊敬度が三ポイント低下。とぅるるるん♪

 武器の名は大人のおもちゃ。

 いわゆるナニする時に使う必殺のアイテムだ。

 武器と言えばこれも立派な武器と言える。


「これでどうやって、魔物と戦えって言うんだよ。Hゲームじゃないんだぞ!」


 思いっ切り憤慨するカイト。

 緊張しながら鍵を開けた自分が馬鹿馬鹿しくなる。


「何でこれがこんな所にこんなにいっぱい有るんだよ!」


 あまりの怒りにそれを向ける方向が変わってしまう。

 それはそうと、何故、この必殺の武器の数々が双樹神社にあるのかと言うと。実はここで婚礼を執り行った夫婦が置いていった物だった。

 処分するのに困った有馬が仕方なくこの宝物殿に隠していたのだ。


「はっ、まさか、父さん。これを母さんに使って」


 怒りを通り越して、いけない方向に突き進み始める。

 カイトはピンクの武器を手に取り、マジマジと見ながらそう言った。

 いけない想像をして、動揺したカイトはその拍子にスイッチオン!

 手の中で微振動しながらせわしなく動く必殺の武器。


「わっ、わっ、わっ!!」


 突然の作動に驚いたカイトは武器を手放してしまった。

 それはカラフルな武器の中で蠢く。その時、数々の武器がわずかに動き、作動中の武器が埋もれてしまった。

 カイトは必死に作動中の武器を手で探ったが見つからない。

 見つからない代わりにカイトは妙な感触を感じた。

 卑猥な感触じゃない。

 何か、何か大きくて平たい物だ。


「何、これ?」


 必殺の武器の山を退けた。


「箱の中にもう一つ箱?」


 カイトは武器の中からそれを引き出し、木箱のすぐ横に置いた。

 木箱には鍵はされていない。蓋には『十拳之剣』と筆字で書かれている。


「じゅっけんのけん?変なの」


 そう言いながらもカイトは木箱の蓋を開けた。

 鞘に納められた一振りの剣と二つ折りにされた紙がそこにはあった。

 カイトは剣と一緒に納められている紙に手を取り、広げた。

 それを見たカイトの目は点になった。


『この剣には魔物を倒す力が宿っています。

 持ち主であるあなたが強い意志を持ってこの剣を振るえば、

 それは力となって、魔物をうち倒すでしょう

 ただし、力を発動できるのは八回だけ(残り三回)』


 はっきり言って、何かのおもちゃの子供だましな説明書の一文と言っても良い。

 それにかっこの中の、残り三回、と言うところが怪しさに拍車を掛けている。

 誰が見ても、胡散臭さ爆発である。信用するのはじっちゃんぐらいだろう。


 しかし、力が発動しようがしまいカイトには関係ない。

 あの数多の必殺の武器全部と比べても天と地ほどの違いがある。

 カイトは説明書?を木箱に入れると気を取り直して、剣に手をやった。

 手を触れた瞬間、奮えが来た。全身に鳥肌が立つ。

 一つ呼吸をしてから、彼はゆっくりと剣を抜いた。

 暗がりの中にあるにも関わらず刀身は白銀の輝きを放ち、柄は華美な装飾はされていないが何か力強い何かを感じさせる。唯一、装飾らしいのは柄の端に埋め込まれたほおずきのような色をした球。


「凄い。・・・・・・もしかしたら、本当に」


 感嘆の声を上げる。

 カイトは剣を青眼に構え、一度振ってみる。

 不思議な感じがした。剣が自分の身体の一部になったような感じする。

 剣は1メートルほどあり、見た目はかなり重そうな感じがするにも関わらず、余り重いとは感じない。いや、重いとも感じない。

 おもちゃの剣を振っている、そんな感じがした。


「何なんだよ、この剣は」


 驚きながらマジマジと剣を見るカイト。

 刀身も柄も金属の光沢を放っている。だけど、重さは感じられない。


「う~ん・・・・・・まっ、いいか。考えても分からないし。うん、これでよしっ」


 何がよしっ、なのか分からないが、結局、行き着く先はこれ、分からないものは仕方ない、だ。カイトらしいと言えばカイトらしいかな。

 思うように剣を振るう。本物の剣を手にして少し高揚しているのだ。

 そんなカイトだが、一つだけどうしても気になることがあった。


「それにしても、じゅっけんのけんってカッコ悪いよなぁ」


 これである。

 やはり、カイトもおたくの端くれ、自分の持つ武器の名前はカッコいい方が良い。

 刀身を見ながら思案するその表情は真剣そのものだ。

 ここで変な名前にしたらセンスを疑われてしまう。真剣になるも当然だ。


「・・・・・・そうだ!」


 カイトは高らかに剣を掲げると大声で宣言した。


「今日から、この剣は闘龍剣だ!!」


 宝物殿にカイトの宣言とピンクの必殺武器の微動音が響いた。

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