妹
その日僕は風邪で寝込んでいた。
ベッドに横たわり、あぁ…可愛い彼女でもいればナース服姿で看病してくれるんだろうなぁ、なんて考えていると突然乱暴に部屋のドアが開かれた。
なんだ?
刑事が家宅捜索にでも来たのか?
見るとそこには妹の姿があった。
「どうした急に?僕を笑いにきたのか?風邪で寝込んでいるこの哀れな兄を」
「貴方が哀れなのは今に始まったことじゃないわ。風邪をひく以前の話よ。今更笑ったりなんてしないわ」
「そうか。死人に鞭を打つという言葉があるが、僕の妹は病人に平気で酷いことを言う奴だったんだな。で、笑いに来たんじゃないってんなら一体何をしに来たっていうんだ?」
「風邪で寝込んでいるって聞いたからこれを持って来てあげたのよ。己の愚かさと一緒に噛み締めなさい」
「これって…お粥?なんだ?毒でも入ってんじゃないだろうな?」
「馬鹿なことを言わないで頂戴。そんなわけないじゃない。私が貴方を殺す時は撲殺と決めているのだから」
「いや、そこは嘘でもお兄ちゃんを殺そうとするわけないじゃないと否定して欲しかったな。まぁ、何にせよサンキュー。有難く頂戴するぜ」
「感謝の言葉なんていらないわ。私たち家族じゃない。お礼なら現金で頂戴したいものだわ」
「僕たち家族だよな?お金取るの?」
「いちいちうるさいクソムシ…クソ兄貴だわ。皆殺しにするわよ。それより貴方のこの部屋の有り様は何のつもりなの?」
「いや、言い直してもあまり変わってないぞ。それと僕一人のために大袈裟な言葉をつかうな。何のつもりって?」
「なぜ部屋一面に足の踏み場もないくらいにエッチな本が平積みされているのかと聞いているのよ」
「ああ…いや木を隠すには森の中って言うだろ?だからあえてエロ本だらけにして、その中にエロ本を隠しているんだ」
「それじゃ本末転倒じゃない。貴方本当に馬鹿の鑑ね。お願いだから今月中に死んで頂戴。とにかくこのおびただしい量のエッチな本をなんとかしなさいよね」
「お前僕を兄として見てないっていうか、人間として見てないだろ…いや世の中エロ本は隠さなきゃいけないみたいな風潮があるだろ?だが僕はあえてそこにアンチテーゼ的に世間に一石投じてみたってわけだ」
「そう。貴方やっぱり頭が悪かったのね。頭の悪い人間が身体も悪くしたら救いようがないわね。でもこれで馬鹿は風邪をひかないなんて嘘だってことが実証されたわ。学会で発表しましょう」
「お前なんでそんなひどいこと言うんだ!?もう出てけ!失せろ!」
「言われなくても出ていくわ。さすがに息を止めているのも限界だしね」
「僕の部屋が臭いみたいに言うな!お粥サンキュー!おやすみ!」
「ええ。お金は口座に振り込んでおいて貰えると助かるわ。ゆっくり休んで、ついでに馬鹿も治すといいわ」
兄想い?の妹のおかげか、次の日には僕の体調もすっかり良くなっていた。
今度風邪をひいた時は、優しい彼女に看病してほしいものだと思った一日であった…