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僕はその現実を受け容れられずにいた。

写真の彼女は再び子供達にかこまれ、身動きが取れなくなっていた。この子には子供を引き寄せる何かがあるような気がする。ただ子供は容赦ないので、カメラを取ろうとしたり髪の毛を引っぱろうとしたりする。それでも幸せそう。この子は子供が本当に好きなんだろうなぁと思う。



僕は少し離れたベンチに座って、その光景を眺めていた。



その時、視線の少し先、僕はまるで予想していなかったものを目にしたんだ。





前の彼女がそこにいた。





間違いなく、前の彼女だ。僕はしばらく状況を把握する事が出来なかった。信じたくなかった。理解したくなかった。



ただ、現実は間違いなくそこにあるんだ。



間違える筈がない。別れた彼女だ。



横には今の彼氏を思われる男がいた。手をつないでいた。そして彼女の表情は、昔僕に注いでいた時の表情と同じものだった。幸せそうな表情を今は僕以外の他の誰かに向けていた。微笑んでいた。



これが現実だ。



僕が止まっていても、回りの時は確実に進む。変わる。別れてから今に至るまでの時の経過。この目の前の状況が彼女の今なのだ。


僕はその現実を目の前につきつけられ、さあどうする?と問いかけられているような気分がした。



二人は園内の売店で何か選んでいた。



彼女が手にしたのは、パンダの小さいぬいぐるみ。それは以前、僕が彼女に買ってあげたのと同じものだった。そして二人はそれを持ってレジに向い、男が金を払っていた。そして嬉しそうに彼女はそれを携帯につけていた。


昔僕の前でそうしていたのと同じように。



久しぶりに晴れた日曜。ただ、まさかこんなとこでバッティングするとは想像もしなかった。彼女も青空に釣られてやってきたのだろうか?


そして今の彼氏に「外へ連れてって!」とねだったのだろうか。



昔僕にしていたのと同じように。



僕は今の彼氏の顔をよく見れなかった。見れる筈がなかった。見たくなかった。

知りたくもない。背けたい。理解なんかしたくなかった。



僕は再び現実に叩き込まれたような気がした。



君はもう過去だ。君はもう不要だ。



彼女の中では、僕はもう過去の物として消し去られてしまっているのだ。もう憶えてすらいないかもしれない。



そして視線の先にいる彼女こちら側に顔を向けようとした瞬間、



僕は逃げた。その場から逃げた。



顔を下に向けて。




そして園内を後にした。逃げるしかなかった。走るしかなかった。園内にしたら再び顔を合わせてしまう可能性があるかと思ったからだ。



逃げる僕の姿を彼女は目撃していたかもしれない。ただ、そんな事どうでもよかった。僕はその場から立ち去りたかった。現実から目を背けたかった。



僕は園を後にし、そのまま池の方に向かった。不忍池だ。



どこかに腰を下ろして落ち着きたかった。そして状況を整理したかった。



ようやく開いているベンチを見つけ、僕はそこに腰を下ろした。



その時携帯が鳴った。




「コラ!」…写真の彼女だ。




「勝手に消えるなw」←二通目。




そうだ、オレは写真の子にひとことも告げずにその場を立ち去ってしまったんだ。「ごめん、ちょっと急用が…」と返信した。



「ウソつけ!」と三通目。



もちろんウソだ。そんな急用に追われるヤツが動物園になんかいる筈が無い。




「昔の彼女?」と写真の彼女からメールが届いた。




あの子にも見られていたんだ。




「突然下向いて身を隠すよーに逃げ去るのなんて、昔の彼女に遭遇した時ぐらいだよw というか、全部見てたしw」と五通目のメール。分かってたんだ。




「まだカメ見てないよ」と六通目のメール。




そうだ、カメを見てなかった・・




「ごめん…」と僕は返信した。




そしてメールが止まった。




写真の彼女からの返信はなかった。





(続きます!)

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