白フクロウ
白フクロウの前につくと、やっぱり意味深な顔をしていた。
何か考え事をしてるよーな雰囲気。首をかしげてるからだろうか?
「なんか質問してみれば?」と彼女。
「何でも答えてくれるよw」と彼女。僕の目を見つめながら。そしてちょっといじわるそうに。
しばらくして、彼女がちょっと僕のもとを離れ、ゆっくりしゃがみ込み、カメラのシャッターを押し始めた。フクロウを熱心に眺める男の子の後ろ姿。その姿をカメラに納めているようだ。
指先が微妙に動く。さっきまでのふわふわした感じとはまるで違う。指先で微妙な調整をしているのだろうか?
いわゆるガールズフォトのような撮り方とはちょっと違うように感じた。
何かを捕らえよう、その気持ちが伝わってくるような撮り方だった。
神経が指先まで走る。一瞬だが、矢の先端のような鋭さが見えた。
ただ、その鋭さはほんの一瞬で、すぐにまたふわふわした彼女に戻っていた。
男の子が、とことこというか、ふらふらっというか、彼女に元に近づいてきたのだ。カメラに興味を示したみたい。
子供が何か質問してきたが、もちろん彼女はわからない。
そこで彼女は、なにやらカードのようなものを取り出し、それを見せた。
"おねぇちゃんはね、おくちがきけないの。"
一枚目のカードにはそう書いてあった。不思議そうな顔をする男の子。
"そして、おみみもきこえないの。"
二枚目のカード。まだ理解できてないみたいだ。
"けど、おしゃしんはとれるんだよ!"
三枚目のカードにはそう書いてあった。
男の子は最後まで不思議そうな顔をしてたけど、彼女は笑いながらカバンから携帯用小型プリンタを取り出し、手際よくさっきの写真をプリントアウトし、男の子に手渡した。かわいい名刺ぐらいのサイズ。男の子の手にもちょうどいいサイズ。
その写真、
フクロウとその少年が会話しているように見えた。僕には子供がオリの前に立ってる姿にしか見えなかった。そんなごくごくありきたりな光景にしか僕には見えなかったのだが、彼女の切り取ったその一瞬は、立派な作品となっていた。
力を持っていた。
子供は無邪気にそれに喜び、母親の元に駆けていった。
すぐに母親は申し訳なさそうに、「なんだかすみません!ありがとうございます!」と、いやに恐縮していたが、僕が代わりに「いいんです!彼女、写真科の学生で写真の勉強してるんです!」と言ったら、なんだかいやに納得してくれいていた。
男の子は母親に促され、お礼を言わされていた。子供は素直に、「ありがとうおねぇちゃん!」と。彼女はそれに笑顔で答えていた。
子供はその写真をしっかと手に握って、トコトコ歩き出して行った。
「子供の背中が好きなの。」と彼女。メールが届く。
「この先、どんな背中になるんだろって想像するのが好きなの。」と再びメール。
ふーん。
僕はしばらく何も答えずに、そのまま彼女の顔を見つめていた。
そういう事を考えてシャッターを押してるのか。どうなんだろう?
「ところで質問した?白フクロウに?」と彼女から届く。
僕がうんとうなずくと、
「どうせ前の彼女とヨリを戻したいとか、そんなところでしょ?w」といじわるそうな笑顔と共にメールが届いた。
「ま、そんなトコ!」と僕は返した。
「で、答えは?」と彼女。
「"とにかく待ちなさい"…とか、そんな感じw」僕は適当に答えた。
「哲学者の発言なんて、そんなモンだからw」と彼女は笑って答えた。
「役立ちそうで、実はまるで役になんか立たない!」再び彼女。
全く同感だ。
たぶん、答えなんていつの時代もどの状況でも同じなんだと思う。それをもったいぶって言うのが、哲学者なんだ。意味深なだけ。答えは常に一緒。
ただ、僕らは最強の哲学者、カメに向かって歩いて行こうとしてるのだがw
別方向に向かおうとしてる僕達の背中から、さっきの男の子の声が聞こえた。
「ありがとーう!しゃしんのおねぇぢゃーん!!!!」
彼女は振り返って、にっこり笑って答えた。
あれ?なんで分るの?
僕は彼女に質問してみた。
「気配?」そんなメールが返ってきた。
そんなモンか。
(続きます!)