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4話 同業者

東京から帰ってきてしばらく経った。俺はまだ神崎琴葉さんとは会ってすらいない。正直言って俺がいなくても今までできていたのだから放っておいても良いと考えたのだ。


「はい、えーおはよう。今日の授業はいつも通りで特に伝達事項はないです。非常に暑いので熱中症に気をつけるように。」


朝のホームルームが終わり今日もいつも通りの日常が始まった。友達と話しながら暇を潰し授業を受ける。


ただ1つ異なる点は、俺の席にピッタリと神崎琴葉さんがくっついていることだ。俺が神崎さんを探そうとも関わろうともしなかった腹いせか、みちるさんたちから何か言われたのか分からない。だからと言って俺の席の真横でジーッと俺を見てくることはないだろう。クラスメイトもその状況を不思議そうに見つめている。俺はその状況に耐えられなくなり教室を飛び出した。


「ちょっとどこに行くんですか?」


「誰もいないところ!」


後ろから神崎さんが話しかけてくる。今廊下を早歩きで歩いているこの状況も周りから見たら異常な光景だろう。俺はしばらく歩き屋上に行った。


「ここなら良いでしょうか?」


「何の用?」


「あなたは夜野さんから聞いていないんですか?」


「聞いてるけど…別に俺がいなくても大丈夫だろ?」


「正直言うと大丈夫なのですが、夜野さんが2人で活動しなさいと仰っていますので。」


「別に俺はみちるさんみたいに強くないし、一成さんみたいにサポートもできない。俺はただ魂が見えるだけなんだ。みちるさんの仕事について行った時俺がしたことは魂の確認だけだよ。そんな俺がいたって何も変わらないでしょ?」


俺はなるべく一緒に活動しない路線に持っていこうと必死だった。そんな俺とは裏腹に神崎さんは目をキラキラさせていた。


「あなた本当に魂が見えるんですね!あなたがいれば仕事の成功率がグッと、いや100%にまで上がるわ!そうすれば報酬はウッハウハ毎日お弁当を作らなくても良くなる!こうしちゃ居られない!今すぐ行くわよ!」


「へ?」


俺の視界は90度傾いた。何が起こっているのかさっぱり理解できなかった。神崎さんに手を取られ気がついたらなぜか空を飛んでいた。


「うわあああ!!!へ!?あ?うぇ?と、飛んでるううう!!!???」


「ちょっと暴れないで!落ちるでしょ!」


「お、落ちる…?」


俺は下を見て今自分がどれだけ高いところにいるのか理解した。家の大きなは指先ぐらい小さく山の上から市街地を見下ろした感じだった。俺はその高さに絶句し気を失った。


「…きて!起きて!」


「はっ!」


神崎さんの大きな声で目を覚ました。目を覚ましたは良いものの辺りの光景に違和感を感じた。今まで見たことない海岸が広がっていた。


「ここどこ?」


「丹後よ。」


「え?えーーーー!?」


「何をそんなに驚いてるのよ。今日は鎮魂よ。早く来て。」


「ちょ、ちょっと説明してよ。さっきから何が何だかさっぱりわからなんだけど…」


「夜野さんから聞いてないの?」


「何も聞いてない。」


「私のことも?」


「いやあなたが神崎琴葉さんだってことは理解させられたけど、神崎さんが飛べる理由とか鎮魂とか分からないことが多いんだ。」


「分かったわ。きちんと説明するわね。」


改めて聞くと神崎さんはみちるさんに影響されてそうな喋り方だなと思った。


「まず、魂魄師は聞いてるわよね?」


「それは聞いたよ。魂魄科に所属してる人でしょ?」


「そう。私もあなたの魂魄師。そして魂魄師には戦闘員と非戦闘員がいるのは知ってる?」


「みちるさんが戦闘員で一成さんが非戦闘員って感じ?」


「少し違うわ。白風さんは戦闘員よりの非戦闘員って感じ。人によってできること、やれることが違うから大まかに区分してるだけよ。」


「何となく理解した。」


「なら次ね。私が飛べる理由は人によってできること、やれることが違うのに関係してるの。あなたは魂が見える。私は魂を利用して飛んでいる。1人ひとり能力が違うのよ。それが私が飛べる理由。」


「みちるさんと一成さんの能力は何だろ?」


「私も知りたいけどあの2人は基礎しか使ってないから分からないのよ。」


「基礎?」


俺は頭の中で空手の正拳突きのように誰もが使う、習う技術を連想した。


「それも教えてもらってないのね。私たち魂魄師は基本的に魂魄師の家系から選出されるの。だから小さい頃からそういう訓練を受けているのよ。家系ごとに異なる点は色々あるけど、大元は同じよ。その訓練で習う基礎、まぁ正拳突きみたいな本当に初期の技術しか使ってないの。理由は分からないけどね。」


「えっとじゃあ俺はイレギュラーってこと?」


「そうなるわね。最後は鎮魂よ。言葉は聞いたことあるでしょ?」


「うん。」


「鎮魂は荒ぶった魂や負の感情に囚われた魂、理由は分からないけど凶暴化した魂を強制的に普通の魂の状態に戻す又は成仏させることを言うの。ちなみに返魂って言うのもあるけど知ってる?」


「漂ってる魂を成仏させることだっけ?」


「そう。成仏できなかった、されなかった魂を天界に返すって意味で返魂なの。鎮魂は言葉通り魂を鎮める。そして鎮めた魂を成仏させる。だから返魂より大変なのよ。」


「その魂を鎮めるにはどうやるんですか?」


「今から私がやるから見てて。」


神崎さんが海に向かって歩き始めた。俺は何も言わずについて行った。しばらく歩くと赤と黒を混ぜ合わせた色の魂が1つだけあった。その魂から痛い、辛い、悲しい、憎いなど負の感情が流れ込んできた。この前の黒い魂と似ているが少し違った。


「こういう強い力を持ってる魂は私たち普通の魂魄師にも見えるのよ。一般人には見えないけどね。」


神崎さんは魂に近づき何かを唱えた。それはお経のようだった。しばらく魂に手を添えながらお経のようなものを唱えていると、徐々に魂から負の感情が消えて行った。もうしばらくすると負の感情は完全に消え去り、みちるさんがやった青白い光を添えた手のひらから放ち魂を成仏させた。


「終わったわ、今回は周りに被害を与える感じのやつじゃなくて…って何で泣いてるの?」


「え?」


俺はなぜか泣いていた。さっきの魂から流れ込んできた負の感情のせいか分からないがとにかく泣いていた。自分が痛いわけでも悲しいわけでもないのにさっきの魂と共鳴して泣いてしまったのかも知れない。


「ご、ごめん。カッコ悪いよね…」


「私の方こそごめんさない。あなたを傷つけるためにやったんじゃないの。」


「だ、大丈夫。平気だから…」


神崎さんはそっと手を握ってくれた。神崎さんの手は暖かくて落ち着いた。少ししたら涙も出なくなった。


「さっき言ってた強い力を持った魂は普通の魂魄師にも見えるってどういうこと?」


「そのことね。普通の魂は何の力も持ってない真っ白な状態でしょ?でも負の感情や恨みとか特定の要素が重なるとああいう風に魂が力を持つの。今回の魂は元の性格が良かったのか周りに被害を与えるタイプじゃなかったけど、魂によっては人を傷つけたり環境に悪影響を与えたりするの。そんな魂を浄化させる術も習うの。」


「大変なんですね。」


「そうよ。本当に大変なんだから…」


そう言う神崎さんの顔に少し疲れが出ていた。俺は神崎さんを労う意味と色々教えてくれた感謝も込めてご飯を奢った。神崎さんはかなり体力使うのよと言いながらたくさんご飯を頬張っていた。俺はそんなに急がなくて良いよと諭しつつ今日教えてもらったことを頭の中で整理した。


1人ひとり能力が異なること、鎮魂、魂によっては普通の魂魄師にも見えること、魂が被害を加えることがあること、みちるさんと一成さんが能力を隠していること。本当に多くのことを知り魂魄師のことを少しでも学べたと実感できた。

次回もお楽しみに


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