完璧な地震予測
数年前、世界を揺るがす技術革新が発表された。
地震予測システム「EQ-Oracle」。
震源・発生時刻・マグニチュードを秒単位で予測できるという。
発表から半年後、国内で発生した直下型地震を完璧に的中させ、精度は証明された。
その後、EQ-Oracleは「都市T」における今後400年間の地震スケジュールを公開。
最初の発生は6年後。その後も100年ごとに大地震が繰り返されると予測された。
地価は暴落し、企業は撤退。住民は街を離れ、再開発は凍結された。
都市Tは“死の予告”を受けたゴーストタウンになった。
しかし、そんな中で一人の男が都市Tの土地を買い漁り始めた。
そして、誰もいない土地に次々と高層ビルやモデルハウスを建てていく。
人々は彼を笑い、馬鹿にした。
「次の地震で全部崩れるだけだ」
「何を建てても無意味だろうに」
記者が問いただすと、男はただ笑って言った。
「地震が来るのは、確かでしょう。でもね……“全部が無駄になる”とは限らないんです」
そして6年後。
EQ-Oracleの予測通り、午後3時17分にマグニチュード7.9の地震が都市Tを襲った。
男が建てた建物の約八割が倒壊した。
報道は「壮大な失敗」と切り捨てた。
──しかし、残った二割の建物に専門家たちは目を見張った。
耐震性能が極めて高く、ほとんど無傷で立っていたからだ。
入居は始まっておらず、けが人もゼロ。
さらに驚いたのは、それらの建物がすべて異なる構造・素材・設計思想で建てられていたことだった。
男は記者会見を開き、こう語った。
「地震が“いつ来るか”が分かるなら──“何が残るか”を確かめる準備もできる。
私はこの都市を、実物大の実験場にしただけです。
それができたのは、予測が完璧だったからこそですよ」
彼は予測された地震を“実地耐震試験”として利用し、残った建物から「本当に強い構造」を選別していたのだ。
生き残った設計は“Type-T”と名付けられ、全国の自治体や企業が導入を始めた。
皮肉にも、滅びかけた都市Tは最先端の耐震都市モデルとして再び注目を集めた。
当時、土地を買い集めていた頃、男がぽつりと漏らしたひと言が記録に残っている。
「地震が来ると分かってる世界で、試せることが一つだけあるんですよ。
“何なら壊れないか”ってことです」
──完璧な予測は、人々に「逃げる理由」を与えた。
一人の男にだけ、「試す価値」を与えたのだった。