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予想外の報せ

 期末試験は計4日間かけて行われる。1〜3日までは各2教科、最終日に3教科のテストで計9科目を受けることになる。夏の長期休暇前の試験と言うこともあり、その内容はとても膨大で難解だと言うのが諸先輩方のありがたい経験談だ。そんな期末試験も気がつけば最終日となっていた。


「最終日にこの日程を組むのは鬼畜だろ……」


 最終日は美術、英語、数学のこれまた最後に難敵二連続。この鬼畜な試験日程に殆どの生徒が苦言を呈し、教師陣を呪った。10分休み、最後の追い込み時の今もクラスメイト達は悲鳴を上げながら、ぶつぶつと公式を頭に叩き込んでいた。


「最後の悪あがきはその辺にしろ~。テスト始めるぞ~」


 例に漏れず僕もそのひとりではあったのだが、いざ試験を受けてみると意外にも手応えがあった。試験期間中、ほぼ毎日、僕にしては珍しく遊び惚けることもなく机に向かっていたお陰か、その努力は遺憾無く発揮されたと言えよう。


 それは初日がら最終日まで同様であり。期末試験最後に受けた教科は大抵の生徒の難敵である数学も初めてなんの不安もなく答案を埋められた。僕のクラスの試験監督をしていたおじいちゃん教諭は「はい、おわり〜」と間延びした声で終わりを告げて、答案用紙を回収してそそくさと教室を後にする。


「どうだった?」


「意外とできた」


「マジ? オレ全滅……」


 教諭が居なくなった途端に教室の雰囲気は弛緩し、至る所から安堵の溜息やはたまた絶望の絶叫が鳴る。試験の出来が良かった者が入ればその逆もまた然り。しかしその結果がどうあれ、殆どの生徒がとりあえずの全試験日程の終了に喜ぶ。


 後に待ち受けるのは学生にとってのお楽しみである夏休みのみ。高校生活に於いてそれがどれだけ重要で、何不自由なく謳歌できるかは今しがたの試験の内容次第である。


「はぁ……終わったぁ」


 依然として周りのクラスメイトが騒ぐ中、僕は深く椅子にもたれ掛かり息を吐く。出来は上々、間違いなく赤点は無いと確信できる程度には自信があった。それもこれもこれまでの努力……もとい、師事を仰いだ先生がたの手腕が大きかった。


 ────お礼ぐらいはしとかないとバチがあたるな。


 脳裏に浮かぶのは仏頂面を下げて根気強く勉強を教えてくれた少女と、それとは正反対に優しく本当の先生化のように導いてくれた先輩。僕は過度の集中と数式を解くために酷使してぼんやりとする頭で考える。


 ────何か甘いお菓子でも差し入れれば二人は喜ぶだろうか?


 ・

 ・

 ・


 テストは終わってもまたすぐに学ぶことが舞い込んでくる。学生の本文とは勉学であり、それは当然の事象と言えるのだが……何もテストが終わった後に普通に授業があるのはどうかと思う。一難去ってまた一難だ


「終わったーーー!!」


「地獄からの解放だ!!」


「自由だーーー!!」


 6限目の授業が終わり、クラスメイト達はようやく拘束から解き放たれた囚人のように騒ぐ。未だ忙しなく騒ぐ生徒を諌めながら担任教師が教室に入ってくる。


「沈まれアホども! ホームルームだ!!」


 今日はこれ以上の授業は無く、後は帰るだけ。殆どの部活が休みなので生徒は少しばかり早く放課後の自由を享受できる。逆に、これから大量の答案用紙の丸付け作業が待っているだろう担任教諭の鮫島殿は偉く憂鬱そうだ。そんな彼女はすぐにでも仕事に赴くべく、端的に連絡事項を共有すればHRは終わり、


「きぃーつけて帰れよ〜」


 気の抜けた一言で生徒は真に開放される。


「────はどうする? おい────」


 ぼんやりとお礼のお菓子を何にするか考えているうちにHRが終わり、僕は前から振り返った大智によって思考の海から浮上する。よく大智の話を聞いていなかった僕は「なに?」ともう一度聞き返す。我ながらボケらっと自分を見て、大智は呆れながらも再度要件を言った。


「打ち上げだ、打ち上げ。どうする? 夕夜は参加するか?」


 なんでもこれからクラスで期末試験終了を祝って打ち上げと言うの名のどんちゃん騒ぎが催されるのだとか。それに参加するか大智は尋ねてきたのだ。


 どうりでまだこんなに人が残ってるわけだ。異様に統率の取れたクラスメイト達を一瞥して、僕は納得する。


「大智はどうするの?」


「俺はどっちでもいいかな」


 聞き返すと大智はこれまた適当な返事をする。それは暗に「僕が行くなら行くかな」と言ってるようなもので、僕としては正直打ち上げに興味はなかった。


 別にクラスメイト達との関係が悪いという訳では無い。今日がたまたまそういう気分ではないと言う話だ。大勢でいるよりかは、何となく今日は一人でぼんやりと写真でも取りたい気分だった。


「……そうだ、写真だ」


「は?」


 自分の口から無意識に出た言葉に僕はハッとする。ここ暫く試験の所為で碌にカメラを触れていない。そう思い返すと無性に撮影欲求が湧き上がってくる。幸い……と言うべきか、家で趣味に現を抜かさないようにカメラはずっと教室のロッカーに置いてあった。ならば、今日はそのまま思う存分写真を撮ってやろう。


「僕はいいかな」


「なんか予定でもあるのか?」


「写真を撮りに行く」


「それ、俺も付いてっていいか?」


 急に様子の変わった僕を不審に見ていた大智にそう言うと、彼は意外にもそんなことを聞いてくる。別に僕としては構わなかったが、付いてきても面白いものは何も無いとも思った。何せ、素人が趣味で好き勝手に写真撮るためにその辺を彷徨くだけなのだ。そう断りを入れると「そう言うのも青春っぽいだろ」と彼はまあむず痒いことを宣う。


「よくもまあそんな恥ずかしいセリフを平然と……」


 聞いてるこっちが恥ずかしくなってくる。けれど、それと同時に大智の言葉に漠然と納得もしていた。そして腐れ縁である僕は知っている。こういうノリの時の彼は必ず有言実行すると。


「……まあいいや。じゃあさっさと行こう」


「そうこなくちゃ」


 席から立ち上がって、カメラをロッカーから取り出し、教室を後にしようする。すると一人のお調子者のクラスメイトが慌てた様子で騒ぐ。


「お、おい! 毒舌天使ちゃんが中庭で3年の先輩に告白するらしいぞ!!」


 急に飛び込んできたビックニュースに教室のクラスメイトは騒然、途端に中庭を一望できる窓際へと群がった。それも仕方のないことだった。何せ件の人物は学校で既に知らない人はいない学年一の美少女、毒舌天使ちゃんこと雨無朝日のことだから。


「……は?」


 そして例に漏れず僕もこの報せに驚く。


 しかし、その驚きは他の生徒達とは全くの別感情から来るものだ。これはいったいどういうことだ?

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