少女の心境
最近はやたらと充実している気がする。
依然として憧れの人にこの想いは伝わらず、勇気も出ずに伝えることができていないけれど、それでも妙な充足感があった。
学校に行くのが苦では無くなって、むしろ楽しみにすら思えてしまう。その理由がなんでなのか、私はよく理解していた。
好きな人に会えることがこれほど嬉しく、喜ばしいこととは時間が経てば経つほどに、際立つように、染み入る。それとついでに言えば、思いがけずにできた協力者? 同期? 友人? ……まあ定義付ける言葉などなんでもいいが何の気兼ねなく愚痴を零して、本音をぶつけられる相手ができた。
まあ、ここまで高校生活が充実していると思えるのは、そいつのお陰もほんの少しはあるかもしれない。こんなこと言えばアイツは「熱でもあるじゃないの?」と猜疑心を抱くだろうから言わないけれど。それでもやはり、あの男は予想外の拾い物だったと思う。この学校に来て本当に良かった。
暗く、苦しい去年までのことを思えば、今のこの環境はまさに奇跡としか思えなかった。……まあ、依然として私を取り巻く環境の殆どは煩わしいものではあるのだが、それでもやはり心の底から本当にそう思えた。
ココ最近は変な噂の所為で色々と誤解を招き、腹の立つことも多かったが、それでも考え方を変えれば私にとって、それは覚悟を決め、一歩飛び出す良いキッカケにもなった。
ずうっと想っていた好きな人……和泉縁先輩に猛アタック、猛アピールをしてきたつもりだが、あの朴念仁を落とすには、女として意識してもらうには私がしてきたこれまでの努力は、悲しいかな全く実を結ばなかった。
加えて、肝心の本人の前となると変に緊張して、ヘタレで臆病な性根がいつも顔を覗かせたのも、この結果に大きく影響していた。
だから腹を括るには、この噂はやはり私を駆り立てるには十分な理由であった。
もともと最初にアイツにした宣言通り、夏休み前には先輩にこの思いを伝えるつもりではあった。私と彼とでは学年の差もあって、恋人同士に慣れても同じ高校生活を共有し、思い出を作るにはいささか時間が足りない。
だから本当ならばこうして二の足を踏むのすら勿体なくて、惜しむものなのだ。ならばこの目標設定はあながち良い判断だったと言えよう。ヘタレな我ながら思い切ったと言える。
そうだ。私は慎重派、策略家、堅実なのだ。功を急いて、勝算が無いのに突撃して、後戻り出来なくなるのは嫌だった。だから、私は敢えて足踏みを踏んでいたとも言える。というかそうだ。そういうことにしておこう。
その証拠として、これまでわずか3ヶ月弱と短くはあるが関係値はそれなりに築いてきたつもりではある。これならば、何処の馬の骨かも知れない女と完璧に差別化が図れる。無策の告白よりも勝算もあるだろう。
だから私は明日、好きな人に告白をする。
機は熟したということである。これまで色々と協力してくれたアイツとの作戦会議で立てた計画とは少しばかり段取りが違うが、もううだうだとするのは辞めようと私は決心した。
ここでまだ時間があると甘えてしまえば、何時までも先送りにしてしまいそうな気がするのだ。ならば、明日だ。
明日────
「告白しよう」
幸いと言うべきか事前のアポ取りは難なく成功した。
明日の試験最終日、その放課後に私、雨無朝日は和泉縁に告白をする。
場所は全校生徒の目に留まる中庭で、色々と因縁のある場所で決行予定だ。殆どの教室から一望できるこの場所ならば、色々とアイツに迷惑をかけてしまった噂も一発で払拭できる。
いつもはされる側だが、今回、私は初めてする側に回る。アイツも当日、必ず私のこの計画を予期せず目の当たりにすることだろう。
────アイツはどんな顔をするだろうか?
きっと驚くことだろう。あんぐりと口を開けて、間抜け面を引っさげながらこう言うんだ。「何してんだあいつ!?」と。
「簡単に想像できるわね」
不意に笑みがこぼれる。確実に間抜けズラで驚いて、そして私その後にの事を褒め称えることになるだろう。いつもヘタレとバカにされるが、明日は違う。
「今に見てなさい……!」
アイツに一泡吹かせられると思うとやる気が湧くし、不思議と勇気も湧いてくる。
だから明日は公開告白の日だ。