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メガネ女子は萌える

 まあ、あの流れで縁の誘いを断れるほど僕の肝は太くなく、据わっていなかった。加えて何故か雨無(クライアント)殿からも何故か「お前も来い」とアイコンタクトが送られてきたので、僕は今回の勉強会に参加することになった。


「雨無のやつ、最後の最後でチキりやがったな……」


 今までの図々しさはどこへ行ったのか? と思わないでもないが、人間そう簡単に変われるものではないし、今更うだうだと言っても仕方がない。それに正直に言えば、この勉強会は僕にとっても渡りに船であった。


 中間試験は何とか平均的な成績で乗り切ることが出来たが、今回の期末試験はそれが少し怪しかった。赤点を叩くことはないと考えていたが、一歩間違えればそれも危うい程度に今回の試験内容は膨大でそれなりの難易度であった。特に理数系が絶望的だった。


「一年の序盤でこの体たらくなら二、三年はどうなるってんだ……」


 学年一の才女である雨無は言うまでもないが、和泉先輩も成績優秀者で聞いた話によれば国公立の推薦もほぼ内定しているのだとか。そんな面子と勉強会をするとなれば、気負いしそうにも思えるが、逆に実力差が天と地ほど違えばそんな心配も起きなくなる。この際、とことんその明晰な頭脳に肖ろうではないか。


「それぐらいの役得はあってもいいはずだ」


 ポジティブに思考を肯定しながら、部室へと向かう。道程、相も変わらずすれ違う生徒からの不躾な視線は絶えず、噂はまだ根深いのだと再認識する。なんだかここ数日で起きた出来事を考えると、たかが視線程度を過剰に気にするのもアホらしく思えてくる、良く言えばそれなりに耐性ができていた。悪く言えばそこら辺の感覚がおかしくなり始めていた。


 ────まあ、こんなのもあと少しで終わる。


 そんな確信を胸中に、部室の横戸を開けば、そこにはテーブルに勉強道具を広げて雨無朝日がつまらなさそうにしていた。見るに和泉先輩はまだ来ていないようだ。


「おつかれ」


 適当に挨拶をしていつもの定位置へと陣取れば、ふと違和感に気がつく。


 ────メガネ?


「何見てんのよ」


 思わず反射的に視線を雨無の方へと向けると、彼女の方からギロリと鋭い視線が飛んでくる。その双眸はやはり薄いレンズを隔てていて、あまりの衝撃に彼女をガン見していたことに遅れて気がつく。僕は取り繕うように慌てて言葉を紡いだ。


「いや……メガネするほど視力が悪かったのか?」


「外では基本コンタクトにしてるのよ。家とかでは面倒くさいからメガネ。それに似合わないし……」


 なんてこと無く語られる彼女のプライベート情報に、これを知った雨無信者はどうなるのだろうかと考えながら僕は浮かんだ疑問を更に口にする。


「じゃあなんで今メガネ?」


 その疑問に彼女は何故か得意げに答えた。


「秘策よ」


「ひさく?」


 慎ましい胸を張ってふんぞり返る雨無に僕は首を傾げる。なんの話だ。そして詳しく話を聞けばこれは和泉先輩に意識してもらうための作戦なんだとか。


「普段見せない一面を不意に見せると男の人はグッとくるんでしょ? ギャップ萌え? って言うの? 昨日ネットで調べて、これだ! って思ったのよ!」


 妙に熱の篭った弁に僕は素直に納得する。なるほど確かに、とても有効なアプローチだと思う。現に、無関心の僕ですら彼女の変化を不思議に思いつつも、普段とは違う様相に男心を擽られた。彼女の程の用紙の持ち主ならばその効果も絶大と言うものだ。これほどのインパクトがあれば鈍い先輩でも流石に気がつくし、それなりに心境に変化をもたらすだろう。


「雨無にしては考えたなぁ」


「「しては」ってなによ。その上から目線、腹立つわね……」


「二人ともおつかれぇ~」


 いつにないく力の入った雨無の作戦に僕は関心していると、件のターゲットがやってくる。いつも通り朗らかな挨拶で中に入ってきた先輩は流れるように彼女の隣に座る。


 さあ、ここだ!! と僕が先輩と雨無の反応を伺えば────


「さあ、今日もは試験勉強を頑張ろう!」


「……」


 何故か仕掛ける筈の雨無は首がねじ切れるのではと、心配になりそうな速さで先輩から顔を逸らしていた。その所為で先輩は彼女の変化に気づいてない。


「ヘタレめ……」


「うぐっ……」


 思わず口からそんな言葉が出してしまったのは仕方がないだろう。やはり先輩は鈍感に勉強道具の準備を始めて、それに倣って僕もカバンから筆記用具などを取り出す。そうしてさあ始めようかと本腰を入れようとしたところで、漸く彼は彼女の変化に気がつく。


「あれ? 朝日ちゃん、メガネ? なんだか新鮮で良いね、すごく似合ってるよ」


「ぴっ……!!?」


 眩しい先輩のはにかんだ笑みを真正面から直接喰らった雨無は砂に成って消え入りそうな声を出す。気づけて貰えたことの嬉しさ、褒めて貰えたことの嬉しさ、その他もろもろの嬉しさに彼女は瀕死寸前だ。


 ────これを素でやって退けるんだからほんとにホンモノだよなぁ。


 僕は僕で先輩の天然主人公ムーブに関心と呆れの感情を覚えつつ。


「そりゃあこんなことされたら惚れますわ」と他人事のように勉強を始めた。そこから雨無が復帰したのは30分後のことである。……いや、ちょっと停止しすぎだろ。

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