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校内徘徊(2)

 制限時間が近づいてくる。大方、学校中を回り終えてそれなりに写真も撮って満足もしていた。


「にしてもすれ違いもしないな」


 ここまで一度も和泉先輩と雨無には出くわさなかった。校内広しと言えど、すれ違うぐらいはするだろうと思っていたが全くそんなことはない。


 ────2人はどこで写真を撮ってるんだ?


 まさか避けられてるわけじゃあるまいし、余りの遭遇率の低さに首を傾げる。


「……もしかしたらあそこか?」


 そろそろ部室に戻ろうかと考えるが僕は不意に歩く方向を変える。


 ────まだ時間はある。


 今から向かう場所はそこそこ部室から離れていて距離はあるが、パッと写真を撮って直ぐに戻れば問題なく制限時間には間に合う距離だ。そう算段を立てて僕は小走りで階段を駆け上がる。目的地は一つ、何故か解放されている屋上だ。予想がただしければ二人はそこにいるかもしれない。


 別に二人の同行が気になるとかそういうわけではない……いや、正直に言えば少しは気になるがそれを抜きにしても、最後に屋上からの景色を撮りたくなったのもまた事実である。

 2階から一気に4階まで駆け上り、そのさらに上にその扉はある。


「エレベーターとか設置しないかな……するわけないか」


 バカげたことを口走りながら少し古ぼけた扉、ドアノブを回せばやはり簡単に扉は空いてしまう。扉を開けた瞬間、夕陽の眩い光が僕の視界を照らす。


「うぉ……」


 目を細め、光に慣れるのに暫しの時間を要しながらも中へ入れば心地よい風が頬を撫ぜる。


「ッ……!!」


 ようやく視力が戻ってきて、改めて辺りを見渡せば思わず息を呑む。小高い丘の上にある校舎は廊下を歩くたびに簡単に街を一望できてしまう。しかし、ことこの場所に置いては何処よりも壮観に街を見渡すことが出来た。当然と言えば当然な話である。なぜなら屋上(ココ)が学校の中で一番高い場所なのだから。


「なにげにこの時間に来るのは初めてだな」


 いつもここを訪れるのは昼時、太陽が真上にある時間帯だけだ。少し訪れる時間が違うだけで目の前の景色というのはがらりと変貌して別物に変わってしまう。


 脳裏に映し出されるのは一枚の写真。それは僕が初めて感動を覚えて、写真を撮りたいと思った一枚であり、心奪われて最高の一枚。その写真と今眼前に映る光景は決して全ての条件が一致している訳では無いが、とても似通った風景が視界一面に広がっている。


「……」


 言葉で言い表せぬ感動に僕は無意識にカメラを構えていた。そのまま夢中になって写真を撮る。


「あ……」


 シャッターの音が響く中、ファインダー越しに僕は一人の女生徒を見つけた。


 風に靡く色素の薄い長髪は夕陽に照らされて淡く輝き、とても幻想的だ。その女生徒は確かに噂に違わぬ天使のような容姿で、思わず魅入ってしまう魔力を内包している。


 ────なぜ彼女が?


 予想に反して、彼女はそこに一人でいて僕は疑問を抱くが、その疑問を解消するよりも僕の視線は自然とそちらへ引き寄せられ、指は勝手にシャッターを切ろうとする。


 「やば……」


 どうして動揺してしまったのか、自分でもよくわからない。それでも何故かこの瞬間にシャッターを切ってはいけないような気がして……そんな葛藤と同時に、夕陽に照らされる街下をバックに女生徒は徐にこちらへ振り向いた。瞬間、僕はなんの迷いもなくシャッターを切った。


「あ」


 か細いシャッターの音を聞いて思わず我に返る。「カシャ」と簡素の音がやけに鼓膜に響いて、その存在を主張するかのように屋上に波及していく。ファインダーから目を離して、肉眼で女生徒を見ると彼女はとても不機嫌そうな顔で僕の方へと歩いてきていた。


 流石に何も言わずに写真を撮るのは不躾すぎる。常識的に考えて、悪いことをしてしまった自覚があった僕は直ぐに女生徒……雨無朝日に謝罪をしようとした。


「ごめ────」


「見せて」


「え?」


「今撮った写真を見せなさいって言ってるの」


「は、はい」


 だが、その前に雨無は今しがた僕が撮った写真を見せろと要求してきた。依然として険しい眉間、声音も明らかに不機嫌で、そんな彼女に言われるがままに僕は液晶モニターに映った写真を見せる。じっと自分の写真を数秒見つめた雨無の次の言葉は何か? 僕は内心で緊張していると彼女はぶっきらぼうに言った。


「よく撮れてるじゃない」


「……え?」


 また罵倒の一つでも飛んでくると思っていた。しかしそんな予想に反して雨無の思わぬ言葉に虚を突かれる。そんな僕を彼女は「何よ?」と訝しむ。


「いや……てっきり何の許可もなく撮ったことを怒られるかと……」


「……私だって良いと思ったものは素直に褒めるわよ」


「あ、ありがとうございます……?」


 雨無のぶっきらぼうな物言いに、僕は依然として困惑しながらもそう言った。そんな僕の反応にやはり彼女はつまらなさそうに鼻を鳴らして「行くわよ」と言う。


 何処に? とは聞くまでもない。僕は最後に今一度屋上を見渡し、そして雨無の後を追った。図らずも、そこで今日一番のベストショットが撮れた。


 ・

 ・

 ・


 部室に戻ってしまえば雨無はいつも通りの様子に戻った。


「この写真、素敵です!」


「ありがとう。朝日ちゃんもこの写真よく撮れてるよ」


「ほ、ほんとですか!?」


 和泉先輩の撮った写真を見てはべた褒めし、逆に褒められれば嬉しそうに雨無は笑う。全く普段通り、先輩と写真の感想を語り合っている。


 そんな彼女を見て、僕はまるで狐に化かされたような気分であった。先ほどのいつもとは全然違う彼女の雰囲気は何だったのか、そもそもなんであそこに一人でいたのか、わざわざ先輩と別れた理由は何だったのか……。


「……」


 本人に直接聞けるわけもなくて、僕は変な違和感を覚えながらもそんな気を紛らわせるかのように今日撮った写真を見返していた。


 特にどの写真をフォトギャリーに載せるかを重視して、一枚一枚しっかりと精査をしていく。雨無が依然として先輩の写真に夢中になっている中、逆に先輩は僕の撮った写真を見に来る。


「見せてもらってもいいかな?」


「あ、はい、大丈夫です」


「ありがとうね」


 先輩にカメラごと渡して流しで撮った写真を見てもらっていると、不意に一枚の写真で先輩の動きが止まる。何かおかしなものでも映っていただろうかと首をかしげていると、先輩はうれしそうに笑った。


「夕夜くん、随分と撮るのが上手くなったね」


「そうですかね?」


「うん。最初の時と比べたら見違えるようだよ」


 裏表なく言ってくれる和泉先輩。例えお世辞だったとしても先輩の言葉はとても嬉しくて、それと同時に照れ臭かった。


「え、えーと……今後の参考に先輩の写真見せてもらいますね!!」


「うん、俺のでよければたくさん見てよ」


「は、はい」


 性格までイケメン過ぎる先輩の光のオーラから逃れる為に、僕は雨無の方へと行く。依然として彼女が先輩のカメラを独占して、その写真をのめり込むようにして眺めていた。というかいつまで見てんだよ……。


「それ、僕にも見せてくれない?」


「あぁ?」


 呆れながらも雨無へ声を掛けると、返ってきたのは底冷えするよう低音と鋭い眼光だった。何て顔をしてるんだとツッコミたかったがぐっと飲み込む。ここで無駄なこと言おうものなら更なる追撃がやってくる。


「何を?」


「何をって……写真に決まってるだろ……」


 逆に何を見せてくれると言うのか、気になるところではあるが聞いた次の瞬間にはやはり罵詈雑言が飛んでくるのだろう。この女と普通に会話するのは至難の業である。


「ちっ……早くしなさいよ。あと30分は堪能しないと気が済まないから」


「はいはい。分かったよ……」


 僕が雨無の持っているカメラを指さすと、彼女は心底嫌そうな顔をしてカメラをこちらに差し出してくる。こいつはどれだけ先輩ジャンキーだというのだろうか。ここまでくると普通に怖い。


 今にも噛みついてきそうな雨無の迫力にドン引きしながら、僕は先輩の撮った写真を流しで見ていく。


 教室の写真に花壇の写真、柔道の練習風景など……なんてことのない写真なのだがやはり焦点を当てているポイントが上手なのか、先輩の写真は今にも動き出しそうな迫力がある。まるでその瞬間を今まさに観測しているかのような感覚だ。


「すご……」


 和泉先輩は僕の写真を見て「上手になった」と褒めてくれたが、彼の撮った写真と比べれば僕の写真なんてのはまだまだ詰めが甘い。どれを見ても写真が生き生きとしており、映えている。雨無が大袈裟にべた褒めして、夢中になって見入るのもあながちバカには出来ない程だ。


「くっそ~」


 実力差に少しの悔しさと、魅入ってしまう写真の数々に夢中になっていると、すぐ横で恨めしそうに僕を見ていた雨無が何かを呟く。


「私が褒めたときもアレくらい喜びなさよ……」


「え? なにか言ったか?」


 うまく聞き取れずに難聴系主人公みたいなセリフを吐いてしまった。それが雨無は気に入らなかったのか不機嫌そうにそっぽを向く。


「何でもないわよ! もういいでしょ、変わりなさよ」


「はぁ? まだ一分も見てないだろ、もう少し待てよ」


「うるさい、早く変われ」


「お、横暴だ……」


 そんなやり取りをしつつも、お互いの写真を見せあっているといつの間にか完全下校の時間となる。


「それじゃあ帰ろうか」


 先輩の一言で僕たちは帰る準備を整えて部室を出る。


 今日は僕が鍵の返却を買って出て、先輩と雨無とはそこで別れる。そうして本日の部活は終了した。

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