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フォトギャラリー

 気がつけば6月に入った。


 新学期から早々に写真部へ入部し、天使の側を被った悪魔から脅迫紛いの協力関係を迫られ、ゴールデンウィークには合宿だったり姉の我儘に付き合ったりと目まぐるしい日々を送っていたらこれだ。正直、当初予定していた新学期とは一味も二味も違うものになったがまあこれはこれで青春らしいと言えばらしい……


「まだ6月かよ……」


 なんて達観できるほど僕はまだ大人ではなっかった。


 もう半年分くらいはイベントを消化してきたような感覚すら覚えるが、これが中学生と高校生の質の違いと言ったところか。ここ直近で一番の罪悪感を覚えていた僕の精神(メンタル)体力(ヒットポイント)は瀕死寸前であった。


 ようやくそのしこりも解消して、さあここから本格的に雨無(クライアント)が和泉先輩にアタックしに行くのかと思えば……ここまで特質して彼女と彼の間に何かが起こることはなっかた。なんなら雨無(クライアント)は今までよりも消極的になってしまい、僕とは対照的にじりじりと代わり映えのしない学校生活を送っていた。


 敢えて話題を挙げるとすれば中間試験があったぐらいで、最初はこのお誂え向きなイベントを利用して雨無は先輩を「勉強会」というこれまた定番イベントに誘おうとした。しかし前述したとおり、何故かここ最近の彼女は消極的であり、ごくごく普通の恋愛チキン少女になりかけている彼女にそんなイベントが起こせるはずもなかった。


 もちろんこちらにも協力要請が出たが、完全に無視。僕はは僕でそれどころではなく、自分の勉強のことで頭がいっぱいであった。


 ────今回は何とか試験をやり遂げたが、直ぐにやってくる期末試験はどうなる事やら……。


 今から先が思いやられる未来に溜息を吐いて、今僕は部室棟を歩いていた。外の陽はまだ高く、ギラギラと照り付けるその様子から、ともすれば蝉の鳴き声が聞こえてきても不思議ではないくらいだ。


「あっつ……」


 額にじんわりと滲む汗を拭って、恨めし気に空を見上げるが暑さなんて和らぎはしない。今日は試験が明けて久しぶりの部活動。一時とは言え、試験からの開放感で僕の機嫌は良かった。


 慣れた足取りで写真部の部室前までたどり着き、そのまま中に入ればそこには既に先客────雨無がつまらなさそうにスマホをいじっていつもの席にいた。


「おつかれ」


「……」


 試験期間もあり彼女とも屋上で「会議」という名のお喋り会は開催されておらず、こうして顔を合わせるのは久しぶりであった。だが今の無視とどこか不貞腐れているような眉間の皺を見るに僕はなんとなく察する。


 ────久しぶりだってのに相当ご機嫌斜めだなこれは……。


 ギロリと鋭い眼光が飛んでくればそれは確信に変わる。


「一番下っ端のくせに随分と来るのが遅かったじゃない。久しぶりの部活だってのに……なに? ちょっと弛んでるんじゃない? 舐めてんじゃない?」


「気に入らない新人をいびる会社の嫌味な上司かよ……」


 碌な挨拶も無しに開口一番これである。この辛辣な口撃でどれだけ彼女の機嫌が悪いか分かってもらえることだろう。


 ────これは関わったら面倒なやつだ。


 そう判断し脳内は警鐘を鳴らすがそれも虚しく、この状況からは逃れることなど出来ない。雨無は相当ストレスを貯めこんでいたのかその小さな口は饒舌に顔に似つかわしくない言葉をまき散らす。


「テスト期間は本当に最悪だったわ……先輩には会えないし、部活がない所為で放課後も変な男どもに絡まれるし……」


「それは雨無が普通に先輩を勉強会に誘ってれば回避できただろ……」


「あ?」


「ナンデモナイデス」


 正論を言えば睨みを利かせて黙らせてくるとか理不尽過ぎませんか? なんて言い返すとさらに面倒なのでここは素直に口にチャックをする。こういう時は変に口を挟まずに、「うんうん、そうだね」と全肯定BOTになるのが安牌である。


 先輩に構って貰えなかった腹いせに俺に八つ当たりして、仕舞いにはやはり自分はダメなんだと彼女はネガティブな方に弱気になってしまう。


「このままじゃあ私、先輩に愛想をつかされて将来は一人寂しく死んでいくんだ……」


 ほらやっぱりこうなった。……しかも拗らせ方が典型的すぎる。


 予想通りの結果に天を仰ぐ。さすがに放置という訳にも行かないので適当に励ましつつ、グチグチと雨無(クライアント)の久方ぶりの愚痴に付き合っていると不意に部室の扉が開け放たれた。


「遅れてごめんね~。ちょっとホームルームが長引いちゃって……」


「ッ……! お疲れ様です、縁先輩!!」


 瞬間、今までの弱気が嘘だったかのように雨無は陰気な気配を消し去って先輩に笑顔を向けた。


「お疲れ~。久しぶりの部活頑張ろう」


「はい!!」


 ────情緒どうなってんだよ。


 余りの身代わりの速さに軽く引いていると、先輩はは入ってきてそうそうこんなことを言った。


「いきなりだけど、そろそろフォトギャラリーを更新しようと思います!」


「本当に急ですね」


 いつになくハイテンションな先輩に僕は苦笑を浮かべる。反して雨無は少し大げさに賛同して見せた。


「いいですね! 私もそろそろ更新した方がいいと思ってたんです!!」


「へっ……」


 なんともまあわざとらしい彼女の言葉に俺は思わず渇いた笑みが零れる。それを暴君の鋭い眼光によって黙殺され、俺は肩を竦める。


「6月に入ったし、一年生もだいぶ学校に慣れてきたころでしょ? ここらで第二弾を打ち出せばまたいろんな生徒の目に留まるかなって」


「ですね!!」


 さすがは先輩全肯定BOTな彼女だけはある……レスポンスの速さが段違いだ。


「夕夜くんはどうかな?」


 なんだか久しぶりな光景に呆れていると先輩が意見を求めてくる。いつの間にか先輩の隣に陣取っている雨無はこちらにしか見えない角度で「先輩待たせんな。はよ答えろや」と鬼の形相だ。それに少しゲンナリとしながらも僕の答えはすでに決まっていた。


「いいと思います。それじゃあ今日はそのフォトギャラリーの写真を撮るんですね?」


「そのとおり」


 こちらの質問に先輩は頷く。久しぶりすぎる写真部らしい活動に僕のテンションは上がる。試験の所為でプライベートでも写真を撮れていなかった僕にとって先輩の提案は渡りに船だった。


「それじゃあ簡単にフォトギャラリーの概要を説明するね」


 今回新たに掲載する写真は一人3枚の計9枚。倫理観を守っていれば特に掲載する写真に決まりはないとのこと。締切は週末で来週には掲載、今日は試しに校舎を回って写真を撮ろうと言うことと相成った。


「それじゃあ行こうか」


「「はい」」


 先輩の説明を聞き終えて、僕たちは各々のカメラを持って部室を後にした。

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