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合流

 救世主……和泉先輩の登場によって、僕は何とかランジェリーショップ突撃を回避することが出来た。


「本当に助かりました……」


「あはは……何があったのかは深く聞かないけど、良かったよ」


 ところ変わって活気溢れるファミレス店内。僕は対面に座る先輩に深く頭を下げて、今世紀最大の感謝をしていた。


 姉の盛大なセクハラと言う危機から、何とか脱せたのは対面している彼のお陰でしかなかった。たまたま声を掛けてくれた先輩が居なければ僕は今頃地獄を見ていたことであろう。全然有り得た未来に、ゾッとしながら僕は先輩に気になったことを尋ねてみる。


「先輩も買い物ですか?」


「うん。母に頼まれてお使いをね」


 僕の質問に先輩は化粧品ショップの紙袋を見せてくれる。それを見て僕は頷いた。


「なるほど」


 男である先輩が一人で4階を訪れる理由が分からなかったが納得だ。


「……というか、男一人だけであの階を買い物とかそうとう度胸ありますね」


「最初のうちは俺も気後れしてたけど、何回も行ってたらなれるものだよ。それに、最近は男でも化粧をするって言うだろ?」


「それはそうですけど……まさか、先輩も?」


「あはは! 俺にそういう趣味はないよ」


「で、ですよね……」


 分かりきってた返答ではあるが妙に身構えてしまった。

 そんな軽い談笑で盛り上がっていると、今まで御手洗に行って席を外していた姉が席に戻ってくる。


「楽しそうね、なんの話し?」


「お、おかえり! 真中さん!」


「和泉先輩が4階で何を買ってたのか聞いてた」


「へぇ……和泉くん、なに買ってたの?」


 先程のセクハラ大魔神は何処へやら……。僕の隣に座った姉は完全に外面モードで話に交じってきた。


「は、母のお使いで化粧品をね!」


「あ、そこ私も良く行くお店だよ」


「そ、そうなんだ……!!」


 対する和泉先輩も先程の朗らかな雰囲気は消え去り、緊張している様子だ。まあ休日にいきなり好きな人と遭遇すればドギマギするよな……。


 ドリンクバーから取ってきていたメロンソーダで喉を潤し、僕は思案する。


 そんな僕を他所に2人は楽しく化粧品談義に話を咲かせていた。男である先輩に化粧品の話をして通じるのか疑問であったが、意外にも先輩は姉の話に相槌を打って、なんなら話題を振っている。


 ────どういう知識量なんだ……?


 何としても姉のセクハラから逃れる為に、少し無理やり先輩をお茶に誘ったが場の雰囲気は和やかだ。それに加えて、この状況は先輩にとっても渡りに船だったろう。なし崩し的ではあるが、休日に好きな人とお茶のセッティングをしてもらったようなたものだ。


 ────我ながらナイスな提案ではあったが……。


 その実、この状況に何処か複雑な心境でもあった。きっとこの状況を雨無に目撃されれば僕は極刑ものだな。


 頭の片隅に浮かぶのは同じ部活の少女。巷では「天使」なんて呼ばれているが、その中身は暴君だ。


『お前、覚悟できてんだろうな?』


 今も脳内のイマジナリー暴君はこちらに罵詈雑言を浴びせていた。


 背筋にうすら寒いものを感じつつ、弟にセクハラをしている場合ではなくなった姉は依然として先輩と楽しげに談笑している。愛想はいいんだよなぁ。


 僕はそのまま二人きりの状況を作るために空になったコップを持ってドリンクバーコーナーに向かおうとする。


「あっ、私が取ってくるよ。和泉くんは何がいい?」


「あっ、じゃ、じゃあ烏龍茶で……」


「オッケー、ゆうくんは同じのだよね?」


「うん……」


 しかしそれを姉に止められて、僕は席に座らされる。いつもはしない姉の気遣いに困惑していると、姉はそのまま席を外す。こんな時ばかりいいカッコしいだ。


 呆れていると、好きな人が席を立ち少し落ち着きを取り戻した先輩が今度は頭を下げた。


「はぁ……ありがとうね、夕夜くん」


「え? 何がですか?」


「お茶に誘ってくれてだよ。2人で出かけてる最中だったのに……邪魔だったよね?」


「そんなことないですよ。さっきも言いましたけど僕の方こそ先輩に感謝してるんです。正直、一人で姉の相手をするのは限界でして……」


「あはは、贅沢な悩みだなぁ〜」


 先輩はいつものようにカラカラ笑う。その屈託のない笑顔にやはり僕の胸中はざわつく。理由なんてのはわかっている。


 僕は誰かにこんな真っ直ぐに感謝されるような人間なんかでは無い。寧ろ、イマジナリー暴君のように罵られて当然の……。


「夕夜くん?」


「え?」


 先輩に呼ばれて我に返る。


「どうしたの急に静かになって……?」


「い、いえ……それより、先輩はこれから何か予定はあるんですか?」


「特にないけど……?」


 話の要領を掴みきれてない先輩は少し戸惑いつつもそう言った。僕は今も脳裏にざわつく思考を誤魔化すかのようにこんな提案をする。


「それじゃあ良かったら一緒に姉の買い物に付き合って貰えませんか?」


「えっ! い、いいのかい!?」


 予想だにしない提案だったのか、先輩は身を乗り出して聞いてくる。僕はそれに大きく頷いた。


「正直、今日の姉は普段よりテンションが高くて僕一人じゃあどうにもならないんです。なので先輩が居れば少しはマシになるかなと……」


「俺でいいのかな?」


「是非、お願いします」


 結構切実な願いだ。今日の姉はかなり様子がおかしい。それこそ外部の助けが必要なレベルでだ。


「わ、分かった! それじゃあ御一緒させてもらおうかな……本当にありがとうね、夕夜くん」


「こちらこそですよ」


 話は纏まり、先輩は快く了承するどころか感謝までしてくる。それに頭を降って僕は席から立ち上がる。姉には何も相談はしていないがゴリ押しで納得させればいい。そうと決まれば即行動開始だ。


「姉ちゃん、行くよ」


「えっ? ゆうくん、何処に?」


 ドリンクバーコーナーから帰ってくる途中の姉を回収して僕達はファミレスを後にした。

 先輩が一緒に買い物に来ると説明した時は少し不満げであったが僕は無視をする。


 そろそろ、本気で弟離れをしてもらいたいのも本心であった。

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