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プロローグ

 それは確かに魔法の瞬間を切り取ったかのような写真だった。


「あっ……」


 何の気なしに眺めた職員室前横の掲示板に視線が惹かれた。掲示板に張り出されているのは往々にして学校に関する真面目な側面を持った連絡事項や情報だ。


 例えば、大学のオープンキャンパス情報や資格試験の応募ポスター、少し砕けたもので生徒会だよりや新聞部が毎月発行している新聞だったり。足を止めてそれらの雑多な掲示物群を流し見していくと隅っこにそのコーナーはあった。


〈写真部フォトギャラリー〉


 その文言の後には数枚の写真が控えめに貼り付けられている。


「へぇ……」


 校内にこんなの建物やオブジェがあるんだなとか。この学校に写真部なんてのがあるんだなとか。他愛無い感想を抱きながら、本当に何の気なしにそれら数枚────正確には九枚の写真を順番に見ていく。


 どうやらそのフォトギャラリーには毎回テーマが存在するようで、今回見た写真群のテーマは「新入生へ向けた学校風景」だった。


「校内の写真に、体育館や校庭のグラウンド、それに格技場……ね」


 まだ校内全ての教室や施設を把握している訳じゃないし、意外と為になる風景写真に見入る。


 三枚横並びで一列、写真は計九枚なのでそれが三列でその中の一番最後、右角に貼られた風景写真に目を向けたところで息を呑んだ。


「……」


 写真の題名は「私の一番好きな景色」と付けられている。


 それは夕焼けのような、朝焼けのような、それとも夜明けのような、はたまた夜更けのような……そのどれとも言えない曖昧な時間帯に撮られた風景写真。幻想的な雰囲気を放つソレに端的に言えば、心奪われた。写真に添えられた一言コメント的なモノには「この学校の屋上で撮影しました」とある。


 ────意外と近場で取れるものなんだな。


 それもそうだろう。このフォトギャラリーのテーマは「新入生に向けた学校風景」なのだ。全ての写真がこの校内または近辺で撮られたものになる。


 そうして不意に思った。


「こんな綺麗な写真、撮ってみたいな……」


 それは本当に無意識に、心の底からポロリとこぼれ落ちるかのような言葉で、自分で口にしたはずなのに自分で今の発言に驚いてしまう。


 それでもその思いは妙に腑に落ちて、不思議なやる気に満ち溢れていた。


 それが、写真部への入部を決めた理由である。


 ・


 ・


 ・


 春。それは出会いと別れの季節であり、新しい環境へと飛び込む季節でもある。

 僕────真中夕夜もこの春、晴れて高校一年生となった。今日はその入学式であり、登校初日である。


 桜並木、八分咲きの花びらがひらりと舞い散る歩き慣れない街道。真新しい制服はまだ着心地が悪く、おろしたてのスニーカーも硬い。新しい門出に期待と不安を胸に抱きながらも通学路を歩いていた。


「……」


 控えめに周りを見渡せばそこには同じ制服に身を包んだ生徒。その様子は僕と同じようにどこか不慣れでぎこちない歩みであり、新入生なのだということは容易に推測できた。


 ────独りでも、周りに同じような人が居ると安心するよなぁ。


 先程まで不安感増し増しの気弱な面持ちであったが、それが自分だけではないのだと分かり少しだけ気が楽になる。


「おい、あれ! めちゃくちゃ可愛くね!!」


「同じ制服ってことは先輩? それとも同じ新入生か!?」


「スタイルヤバくない?」


「パッと見、芸能人だよね!」


 勝手に周りに親近感を覚えていると、妙にその周りがザワついていることに気がつく。近くにいる誰もがとある一点に注目してヒソヒソと密談をしていた。


 「……なんだ?」


 つられてそちらに視線を流してみる。そして飛び込んできた光景に思わず目を見開いた。


「っ────!!」


 視線の先に居たのは一人の少女。


 桜舞い散る中、柔らかい朝陽に照らされた色素の薄い長髪がキラキラと白く光る。一言でその光景を言い表すならば幻想的で、近くにいる新入生、通り過ぎる人は例外なく彼女に目を奪われていく。

 なるほど確かに噂をするわけだ。僕はその少女を見て納得する。これから通う高校にはこんな綺麗な女の子もいるのだと思うと、周囲が注目して浮き足立つのも分かる。


 特に男子からの熱い視線は顕著だ。実際に関わることが限りなく無いと予想できても、謎に期待をしてしまうのが思春期の男子というものであった。願わくば一度くらいお近付きに……なんて淡い下心が芽生え、不躾に見つめてしまっても仕方の無い事だろう。


 ────高校にもなるとこんな綺麗な人もいるんだな。


 例に漏れず僕も少女に視線を吸い込まれていた訳だが、流石に足を止めて見惚れるのはどうかと思い至る。


「っと」


 周囲の視線を全く気にした様子の無い女生徒に妙な風格と慣れを感じながらも、僕は彼女から視線を外して再び歩きだす。


 後にその少女がなかなかの曲者であることを僕含めて同じ学校に通う殆どの生徒が知ることになるのだが詳しくは……まあここでは割愛させてもらおう。

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