海陵王の謀臣・蕭裕(下)
暴虐な帝王として知られる海陵王。彼がどのような人物だったのか、知られざる一面を『金史』より読み解いていこうと思います。
前回、蕭裕の謀叛の計画が発覚しましたが、『金史』巻百二十九 列伝六十七蕭裕伝からその続きを見ていきましょう。
海陵王は宰相を遣わして蕭裕を詰問させると、蕭裕が即座に罪を認めた。海陵王は甚だ驚愕し、なおも全面的に信じ切れずに、蕭裕を引見し直接聞くことにした。
蕭裕は言った。
「一人前の男が成したこと。事ここに至っては隠すこともありません。」
海陵王は再び尋ねた。
「お前は何を怨んでこのようなことをしたのか。」
蕭裕は言った。
「陛下はあらゆることを臣と協議してきましたが、我が弟を地方に左遷する際に臣は何も知らされていませんでした。
皇弟は事あるごとに臣を牽制しますが、これは陛下の意向によるものと考えました。
陛下は唐括弁と臣と生死を共にすると約束しましたが、唐括弁は残忍な性格であったため、結局死ぬ羽目になりました。
臣はこれらのことを見て、自分も殺されるであろうと恐れ、ここに謀叛を企てました。
今まで生き永らえてきたのは、ただ幸運だったからです。太宗の子孫は罪も無いのに、全員、臣の手に掛かって死にました。臣が死ぬのも遅かったくらいです。」
海陵王は再び蕭裕に言った。
「朕は天子である。もしお前を排除しようと思えば、お前の弟たちが朝廷に居ても実行できた。あの件で私を疑ったのはお前の誤解だ。太宗の諸子のことはお前一人の責任ではなく、朕が国家のためを思いしたことである。」
更に言った。
「昔からお前とは互いに好意を持っていた。お前は罪を犯したが、一旦はその命を預けよう、ただ宰相にしておくことはできないので、終生自分の先祖の墓守となるように。」
蕭裕は言った。
「臣は既に大逆の罪を犯しました。何の面目があって天下の人々に顔を合わせられましょうか。ただ願うのは、絞殺されて他の不忠者への戒めとなることです。」
海陵王は刀を抜いて自分の左臂を刺すと、血を取って蕭裕の顔に塗り、言った。
「お前は死して後、朕が本心からお前を疑っていなかったことを知るであろう。」
蕭裕は言った。
「永い間、陛下から他に類を見ない寵遇を受け、ひたすら仰ぎ慕ってきました。自らの思い違いを知り、どれほど後悔してもしきれません。」
海陵王は蕭裕が門を出るの泣いて見送り、処刑した。