ブルーライト・ハッカーズ
普段こういう系統の作品はあまり馴染みがなく、思いついた事を片っ端から詰め込んでみた闇鍋スタイルです。
整合性云々ガン無視で『書き切る』事に重点を置いた作品となっております。
途中からアイデアが広がりに広がりまくり、纏めようと思ったら短編のはずがここまで長い文章になってしまいました(笑)。
良ければ読んでいってください。
※今の所連載作品に昇華させる予定はありません(気分次第ではするかも……?)
夜空に浮かぶ、無数の空走タクシーやバス。
数多の企業のホログラム広告や今日のニュースムービーが忙しなく浮かび上がり、星の光をかき消す。
機械技術の爆速的な発達により、コンピュータネットワークと人間社会が融合して六十年。
この『アキバシティー』は今日も、繁栄の光と欲望の影を抱擁しながら、ギラギラと輝いている。
最波刀夜は高層ビルの屋上に佇み、人工物の光にあふれた街並みを見下ろしていた。
はるか足元で繰り広げられている警官隊とチンピラによるドンパチ騒ぎも、目に嵌め込んだ中古品ナビゲートレンズで丸わかりだ。
闇市で適当に扱われていた粗悪品でも、ちゃんと整えてやればこう役にも立つ。
いい拾い物をしたと、瞬きでズームアップしながら刀夜はぼんやり考えた。
『派手にやってんな。それだけサイバネティックポリスも連中を嗅ぎ回ってたって事か』
刀夜が耳に付けているヘッドフォンから、仲間の呆れたような、もしくは変に感心するような声が聞こえてきた。
否、正確には共犯者、と言ったところだ。
刀夜にもこの男にも、仲間意識というものはない。
ただ利害が一致しただけで、共通の敵を追っているだけ。
それ以上でもそれ以下でもない。
刀夜たち『三人』は、そういう集まりなのだ。
「解斗。向こうの無線傍受できるか?」
『とっくにやってんよ。どうやら限定的なジャミング電波が流されてて、サイバネティックポリスの装備が封じられたらしい。そんで、あんなに手こずってるって訳だなぁ』
足元の大通りで繰り広げられる銃撃戦は、二人の悪党にサイバネティックスポリスが七人。
サイバネティックスポリスは数で優っているのにも関わらず、苦戦を強いられている様子。
レンズを拡大して見てみると、確かに警官隊の装備が機能せず、悪党たちの攻撃に対処しきれていない様子だ。
「なるほどな。あえて通信手段を潰さないのは、前線を混乱させて司令部の指揮系統を麻痺させる為か」
『だろうなぁ。パニクって情報伝達が出来ない現場に、現場の正確な情報を掴めない司令部。これじゃ、大規模な捕獲作戦も機能しねえぜ』
「連中があんなんだから、いつまで経っても治安が安定しねえんだ」
『違いねえ!ま、そのお陰でオレらも動きやすいけどな!』
ギャハハと豪快な笑い声が、ヘッドフォンから鼓膜を刺激する。
不快感に顔を歪めながら、刀夜は転落防止の柵に足を置いた。
指揮系統が麻痺した警官隊を背に、悪党達がバイクに跨って逃げていく。
頃合いだ。
「綺羅」
『かしこまりッ!ウチのアートに酔いしれろーッ!』
無線でもう一人の仲間に指示を出すと、今度は無駄にハイテンションな少女の声がヘッドフォンから返って来る。
直後、先程まで銃撃戦の舞台となっていた大通りが、デジタルペイントによって鮮やかに染まった。
もう一人の共犯者による陽動で、悪党たちの追跡をしていた警官隊は更なる混乱に陥る。
これで当面、刀夜たちの邪魔に入る事は無いだろう。
「俺も動く。バックアップ頼んだ」
『あいよ!付近の監視デバイスはオレに任せろ!』
『ウチももーちょい、お巡りさんの注意ひいとくよーん☆』
「ちゃんと頃合い見て退けよ」
共犯者たちに指示を出し、刀夜は身を乗り出して夜空に身を投げた。
重力に従い、刀夜の体は硬いアスファルトに向かって落ちていく。
黒のパーカーと青色のシャツ、前髪にだけライトブルーに染まった髪を風になびかせて。
『トーヤ、終わったらメシにしようぜ!いい店取ってあるから、勘定は任せたぞ!』
「いい大人が年下にタカんなよ。つーか何勝手に決めてんだ」
『えー、いいじゃん!たまにはゼータクしよーよー!』
『そーだそーだ!』
「うっせえ奴らだな」
共犯者二人の軽口に呆れつつ、空中で身を捩り、ビルの壁に足を向けて膝を丸める。
「脚力増加」
重力に身を預けたまま、自身の声帯でコマンドを入力。
それに応じるかのように、履いていた白のスニーカーに光の線が走る。
そのまま曲げた膝を一気に伸ばし、足裏でビルの壁を蹴る。
——瞬間、刀夜は横一直線に加速した。
定めた方角は、悪党たちが逃げた場所。
ホログラムの商品広告を突っ切り、夜空を横断する。
運動能力拡張機能を取り付けた特性スニーカーにより、一度の跳躍で驚異的な距離を進んだ刀夜だが、そのスピードは徐々に落ち、ついでに高度も落ちていく。
そんな刀夜の前に、小さな白い円盤型の飛行物体が複数。
治安維持組織が所有する監視ドローンだ。
しかし、それらのドローンは刀夜に危害を加える様子はなく、数メートルほどの間隔をあけて応列に並んだ。
彼等の主導権は今、治安維持組織の手元を離れている。
「いいタイミングだ」
『言ったろ?バックアップしろって』
刀夜の短い賞賛に、ヘッドフォンから得意げな声が返ってくる。
サイバネティックポリスが保有するデバイスの頑丈なセキュリティも、彼等のシステムを熟知した天才ハッカー、箔解斗の腕に掛かれば数秒で突破できる。
このドローン達は、解斗の手によってハッキングされ、操作権を奪われた、一時的なこちらの手駒だ。
さらに言えば、今は刀夜の足場である。
一定間隔で規則的に並んだドローン達に足を乗せ、刀夜は空を跳んでいく。
刀夜が跳躍の限界を迎えるタイミングで、解斗がこのドローン達を足場代わりに寄越す。
お陰で刀夜はアスファルトに叩きつけられる事なく、悪党達を空から追跡する事が可能だ。
ドローンからドローンへ飛び移りながら、刀夜は逃げた悪党達に迫っていく。
あっという間に、彼等の上空まで追いついた。
『にしてもよぉ、空から生身で追跡する意味なんてあんのか?普通に脚力増加で地上から追い掛けた方が手っ取り早いんじゃねえの?』
「何言ってんだお前」
目下に逃げる男達を見下ろし不敵な笑みを見せた。
「奇襲は頭上からが効果的って、相場が決まってんだよ!」
近くにあったドローンを、バイクに目掛けて蹴り飛ばす。
補助機能により増加した脚力で放たれたドローンは、回転しながらバイクの後輪に激突。
バランスを崩し、悪党たちは地面に投げ出された。
「一勢力から逃げてる相手には、特にな」
『はっは~、なるほどな』
近くの屋上に飛び移った刀夜は、非常用の梯子を下ろして路地に降り立つ。
「サイバネティックスポリス相手には上手くやってるかもしれないが、俺たちからは逃げらんねえぞ」
地面に投げ出されてうめき声を上げる悪党たちを、刀夜は冷酷に睥睨する。
悪党の一人が起き上がり、刀夜を睨み返した。
「なんだテメェ!奴らの回し者か!」
「ちげぇよ。コッチの素性なんざどうでも良いだろ。どうせテメェらに大した用はねえんだから」
「だったら何でオレ達を追い回す!用が無えならとっとと失せやがれ!」
悪党の怒鳴るような問い掛けに、刀夜は真っ直ぐ指を伸ばした。
その先にあるのは、悪党達がここまで必死に運んできたアタッシュケース。
警官隊との銃撃戦が起きて尚、手放そうとしなかった代物だ。
「ソイツを寄越せ。そしたら大人しく消えてやるよ」
鋭く細められた目に、年齢不相応な低い声で、刀夜は男に要求した。
まるで自分が主導権を握ったような高圧的な物言い。
その態度に、男は腹を立てたらしい。
「ふざけるなッ!テメェみたいに親に甘えて苦労を知らねえガキに!コイツの価値が分かるかよ!これはなぁ!オレ達がオマンマ食う為に必死こいて作り上げた、金のなる木だ!コイツを作る為にどれだけ労力を注いだと思ってやがる!」
男は憤りの声を上げる。
大金を得るために汗水流して作り上げた、努力の結晶。
それを見ず知らずの小僧に引き渡すほど、男も甘くはない。
たとえ、自らの命が危ぶまれていても。
その程度の事は、この道に入ってから覚悟している。
そう言いたげに猛り立つ男の声を、空から降りた少年は鼻で笑った。
「だから何だよ。サイバネティックポリスの検問、捜査、摘発を掻い潜ってセコセコ動いてる小悪党の努力なんざ、俺が汲み取るとでも思ってんのか?」
「なんだと?」
「その違法プログラムデータ一つで、どれだけの善良な市民って奴らが害を被る?どれだけの警官が激務に追われる?どれだけの税金が無駄に使われる?それを汲み取らずに自分の利益だけ考えて行動するような奴が、偉そうに説教垂れる資格なんざ無えんだよ」
ヘラッと口元を歪めながら、男を睥睨する刀夜。
口元だけは嫌味ったらしく笑っているが、その目に宿るのは決して正義感などと言う生優しいものではない。
もっと黒く重々しく、胸の奥で激しく燃え上がるものだ。
瞳の奥で静かに燃える復讐の炎が、男を震え上がらせた。
「ッッッの、クソガキがぁ!」
男はアタッシュケースを開き、中に入った携帯端末を取り出した。
携帯端末を起動させ、中にインストールされていたプログラムを立ち上げる。
バチバチと紫色の光を撒き散らし、端末の画面から何かが組み立てられるように現れた。
それは、実体化するプログラム。
現実に顕現し、影響を及ぼすデータの集合体。
リアルグラム。
ある特別な才能を持った技術者、リアルグラマーによって生み出された、実体を形成するプログラムデータだ。
悪党たちは、リアルグラムデータの売人だった。
危険なリアルグラムを高値で裏市場にばら撒き、大金を得ようとする違法リアルグラムの密売人。
今立ち上げたリアルグラムも、商品の一つだ。
本来なら今頃顧客の手に渡っていたのだろうが、サイバネティックスポリスの捜査により現場を特定され、取引は中止となった訳だ。
「丁度いい!実戦形式でのデータを手に入れておきたいと思っていたところだ!」
売人の男は形成されたリアルグラムを掴み、刀夜へ向けて構える。
全体的に黒を基調とした銃身に、レーザーポイント式誘弾システムと一体化した長方形のバレル、六発の弾丸を装填可能なスイングアウト式シリンダー。
所々に浮き出たモールドから、紫色の光が漏れている。
最近この界隈で出回り始めた、拳銃式リアルグラム『マッド・パイソン』。
民間護身用拳銃に義務化された脅威検知機能は搭載されておらず、いつ何時誰に向けても発砲する事が出来るよう設計された、裏稼業専門のリアルグラムだ。
年下の追跡者を相手取るには些かオーバースペックが過ぎるその銃を構えて、売人は勝ち誇ったような笑みを見せる。
「そんなに欲しけりゃくれてやるよ!弾丸の方だけな!」
対する刀夜は、その場から動かず携帯デバイスを片手で操作。
あるプログラムを呼び出す。
「渡す気無えなら勝手にしろ。ぶっ壊すだけだ」
刀夜の持つデバイスの液晶が、ライトブルーの光を放つ。
そこかな伸びた黒色の柄のような物を、刀夜は右手で掴んだ。
──ダン!ダン!ダン!
鈍く重い銃声が立て続けに三回、鳴り響いた。
素人によって放たれた標準ブレブレの亜音速9ミリ電子弾は、弾道アシストシステムによって軌道修正され、刀夜に向かって伸びていく。
刀夜は目をカッ!と開き、手に持った柄を振り抜く。
──カラン、カラン、カラン。
刀夜に向かって伸びていた凶弾は、空中で真っ二つに引き裂かれて地面を転がった。
彼が手に持つ、刀身が鮮やかな青色に染まった電光刀の刃によって。
三発全ての弾丸を叩き落とした刀夜が売人に迫る。
「な、な、馬鹿な……!」
動揺を露わにしながら、売人はもう三発引き金を引いた。
しかし、迫り来る刀夜に対してその弾丸は無意味。
彼の目に装着されたナビゲートレンズは弾丸の軌道を解析し、彼が振るう電光刀はその尽くを弾き落とす。
ついに、売人の目の前まで肉薄した。
「そらよっ!!」
刀夜は売人の手に向けて、青色の刃を振るう。
電光色を放つ刀身は、寸分違わず売人が握っていた銃を捉え、切り裂いた。
プログラムの実体を保てなくなった銃は、粒子となって砕け散る。
「な、クソッ!」
売人はもう一度リアルグラムを立ち上げようと、デバイスを操作する。
「来い!『マッドパイソン』!」
不可解な光をまき散らすデバイスに手を伸ばし、売人は虚空を掴んだ。
「なにっ……!」
「コイツはリアルグラムをデータごと叩き斬る。テメエのチンケな玩具はもう使えねえよ」
刀夜が振るう刃は、対リアルグラム用に設計された刀剣型リアルグラム、『蒼月』。
その特性は機能強制消去。
刃に捉えたリアルグラムを元のデータごと叩き斬る、リアルグラムの天敵だ。
困惑する売人の鳩尾に、刀夜は渾身の蹴りを叩きこむ。
軍用強化骨格にも採用されている運動能力拡張システムの恩恵は、十六歳の少年が放つ蹴りを大人一人数メートル吹っ飛ばせる凶悪な衝撃に昇華させる。
売人の男は背中を壁に叩き付けられ、肺の空気を一気に吐き出した。
そのまま地面にずり落ち、ぐったりと項垂れる。
刀夜は売人の胸倉を掴み、起き上がらせた。
この男には、まだしゃべってもらう事が残っている。
「オイ、小悪党。テメエらの雇い主は誰だ。さっきのリアルグラムは誰が作り、誰がばら撒いてる」
「……ホワイト・ホークス」
「確かだな?」
「この業界を嗅ぎまわってるなら知ってるだろ……!奴の名を騙ってビジネスをしようなんて馬鹿は居ねえ……目を付けられたら、終わりだからな……」
「だろうな。ヤツは生粋のサイコ野郎だ」
「はは……なら話は早い……奴のビジネスを潰したオマエも、じきに奴の凶刃に倒れるだろうぜ……ムショの中で、その報道を楽しみにしといてやる……ハハハ……ハハハハハハッ……!」
「楽しみを奪うようで悪いが、そうはならない。俺が先に、奴を地獄に送ってやるからな」
面白おかしく笑う売人を、刀夜は近くのゴミ収集コンテナに投げ入れた。
もう一人、バイクが横転した際に気絶し、未だ起きる気配のない売人の仲間もコンテナにぶち込む。
「オマエらはムショじゃなく、ゴミ捨て場に行け。拘置されるだけ税金の無駄だ」
売人達にそう言い放ち、コンテナを閉める。
ホームレス侵入防止用の自動的にロックシステムが作動し、外側から施錠される。
運が良ければ、明日の朝ゴミ出しに来た近所の者が気付いて通報されるだろう。
悪党たちを処理した所に、地走用の白いバンがやって来る。
刀夜の前で停車し、後部座席のドアが開いた。
相変わらずいいタイミングだと、刀夜は感心しながら乗り込む。
「お疲れさーん!サッサと綺羅拾ってズラかろうぜ!」
運転席に座る緑ジャケットを羽織った茶髪の男──箔解斗が人懐っこい笑みを浮かべながら言った。
このバンは、解斗の大型コンピュータデバイスを外で運用する為の移動部屋兼刀夜たちの逃走車両だ。
「だな。アイツ、ちゃんと身隠してりゃいいが」
スーパーコンピュータの機材で満たされながらも、人一人分は乗れるスペースがギリギリ確保された狭い車内に座りながら、刀夜は答える。
座席は撤去されているので、シートベルトなどという贅沢品は無い。
もう一人の共犯者──諸星綺羅が派手に注意を引いたとはいえ、じきにサイバネティックスポリスの大規模捜査が始まる。
密売人たちからの情報収集とリアルグラムの奪取、もしくは破壊が目的と言えども、刀夜たち三人もまたお尋ね者。
こんな所でサイバネティックスポリスに出くわせば、三人仲良く刑務所行きだ。
「とりあえず、連絡飛ばしてみるか。おーい綺羅、今何処に居るー?」
左身に着けたヘッドセットから、綺羅に呼びかける解斗。
すると──
「逃げてぇぇぇぇぇ!!早く車出してぇぇぇ!!」
足にターボスケーターを履いて地面を滑りながら、金髪サイドテールの少女──綺羅が涙目でこちらに向かってくる。
ギュイィィィィィィィィン!
その後ろの路地から、黒色のバイクが一台、耳障りな摩擦音と共に猛スピードで曲がって来た。
サイバネティックスポリスが所有する二輪車だ。
それに跨る人物は──見なくても分かる。
「あー、くっそ。厄介なのが気やがった」
うんざりした様子でため息を吐く刀夜。
多分運転席に座る解斗も似たような顔をしている事だろう。
「み・つ・け・た・ぞぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!最波刀夜とその一派ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
親の仇への咆哮が如く怒声を上げ、追跡してくる緑髪の女。
塩瀬真紀乃。
サイバネティックスポリスの隊員にして、ある一件以来執拗に刀夜たちを追う警官だ。
「けっ、お熱いラブコールだコトで。オレらはオマケ扱いかよ」
げんなりした様子で解斗はエンジンボタンを押す。
「綺羅!悪いが死に物狂いで振り切れ!ちと飛ばすぞ!」
ハンドルを握りしめながら、未だ車の後方を滑る綺羅に無線で伝え、車を出す。
合流を待っていたら、三人共々あの女に捕まって仕舞いだ。
「うへぇ〜ん!薄情者ぉぉ〜!」
泣きべそをかきながら、綺羅は左腕に付けたウォッチフォンを起動する。
液晶がバチバチと光を放ち、リアルグラムを吐き出す。
丸い形状のそれを掴み、上部にあったピンを引き抜いた。
「おねーさん!ちょっと乱暴するけど許してねッ!」
「なにッ!?」
すぐ側まで肉薄してきた女警官に、その丸い物体を放り投げた。
瞬間、それは弾け飛び、鮮やかな色の光を四方八方に撒き散らす。
目の前で炸裂した光をまともに浴びた真紀乃は、たまらず横転する。
自称デジタルアーティスト、諸星綺羅のリアルグラムの一つ、『グレネードペイント』だ。
あたり一体に飛び散った光は、絵の具のようにその場に張り付き、除去しない限り周囲を鮮やかに染め続ける。
「やりぃ!名付けて、『エスケープ・スプラッシュ』!ウチのアートに酔いしれろー!」
ガッツポーズを決め、ただペンキをぶちまけただけだろうその場に、タイトルまで付ける綺羅。
そのまま50キロ程度で走るバンのすぐ横まで並走して、助手席に飛び乗った。
「ふぃ〜、危なかったぁ〜。っていうか、なんであのおねーさん現場に出てるの!?前の件でキンシンチューじゃなかったの!?」
「あれだけ大規模な作戦だ!持てる戦力総動員って事で、一時的に駆り出されたんだろうよ!」
「連中も泣ける人手不足だな」
三人があれこれ言っている間にも、真紀乃はバイクを起こして修羅の如き眼差しで追ってくる。
「違法デバイスの所持使用、違法プログラムの行使作成、様々なサーバーへの不正アクセス、特定企業へのサイバー攻撃行為、不法侵入、落書きによる迷惑行為の数々!おまけに今日含めて七件以上の公務執行妨害!今日という今日は!絶対に逃さないぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
三人の罪状を述べながら、物凄い速さと形相でバンに迫り来る、サイバネティックポリス最年少就任のエリート警官。
その執念は、一体どこから湧いてくるものなのか。
「解斗、綺羅。メシはお預けだ。さっさと撒くぞ」
「おうよ!」
「りょーかいッ!」
刀夜の合図に、二人は頷いた。
同じ敵、同じ目的を持って、この街を走り回る共犯者達。
誰が呼んだか、『ブルーライト・ハッカーズ』。
ある一大企業とその裏に蠢く犯罪組織、そしてサイバネティックポリスを相手に、世間を騒がせる技術者集団。
そんな三人と一人の警官による逃走撃も、このアキバシティーは無関心に煌めいている。