生きることにする決意
アシェンはフーヤオを連れてその場を去った。恐らくはその『門』を探しに行ったのだろう。
後に残された者達は、それぞれ沈痛な面持ちでそこに立ち尽くしていた。
今更アシェンの言葉が嘘だとは思えない。それでも、彼等はすぐに動くことができないでいた。
「……アシェン殿は、一人でも戦うつもりなのだろうか?」
イルニカがそう零した。
各部族の長達は本当に彼女がそんなことをするかがわかるほど、アシェンとの付き合いがない。
答えあぐねている彼に変わって頷いたのは、エリンだった。
「アシェンは、戦う。一人でも……。ずっと昔から、そうしてたみたいに」
アシェンの言葉を聞いて、エリンの胸の中で何かが脈動していた。
それは恐らく、彼女が語った妖精族としての血脈に刻まれた記憶。
遥か昔に魔王に救われた祖先の血が、エリンに何かを訴えかけていた。
「わたしは、アシェンの手伝いに行く。何ができるかはわからないけど」
「わ、わたしも……! ひょっとしたら、門に対して何か役に立つ本とか、あるかも知れないし……」
アシェンに続いたのは、意外にもリーゼルだった。
そんな彼女に、イルニカが声をかける。
「リーゼル」
「は、はひっ……!」
普段は会話をする機会もない族長に急に名前を呼ばれ、リーゼルは反射的に背筋を伸ばす。
「……君は本当にそれでいいのか? 先程はああいったが、今ならまだエルフに戻ることができる」
「……それは……」
リーゼルは一瞬躊躇ったものの、顔をあげてイルニカを見つめなおす。
「……あの場所は、わたしの居場所じゃなかったんだと思います。ハーフエルフであるわたしを、今日までおいてくれてありがとうございました」
ぺこりと、リーゼルが頭を下げた。
それだけで彼女の想いは伝わったのだろう。イルニカがそれ以上何を言うこともなかった。
「エリン、俺も行くぞ」
「……兄さん」
エリン達の前に、カイが立つ。
こうやって兄の顔を見るのは久しぶりかも知れない。不思議と、晴れ晴れとした表情をしているようにエリンには見えた。
「あいつに救われた命だからな」
「理由としちゃ充分だな」
カイに隣り合うように、ガルドが立った。
「さっき言った通りだ。数は少ないが、俺達逸れドワーフは全面的にあいつに協力する」
この場に集まったドワーフ達も、考えは同じだった。
ガルドに同調するように、彼等は武器を持ち立ち上がる。
「――で、お前達はどうする?」
そう、ガルドが尋ねる。
その対象はイルニカとラズル。
彼ら二人は先ほど、フーヤオの件でアシェンには協力しないことを宣言したが、今となっては状況は別だった。
このままここにいれば、恐らく今度こそ彼等は全滅する。
古き魔力が大地に満ちれば、どちらにせよここで生きていくことは難しいだろう。
「……俺達にはもう、戦う力は残っていない。これ以上戦いを続ければ、部族の存続が危うくなる」
「まぁ、そうだな。お互い、馬鹿な祖先の所為で痛い目を見た」
「俺達もだよ。俺の親父が馬鹿なことをしたら、部族はほぼ全滅した」
合わせるように、カイが付け加える。その表情には悲壮感はなく、カイなりに何かしらの結論を見つけ出したようでもあった。
「でも、じゃあどうするかってずっと考えてた。ほんの僅かな生き残りを連れて、俺が何をするべきかって」
「……結論はでたのか?」
ラズルの問いに、カイは首を横に振る。
「いいや。俺には何もできないってことがわかった。弱いからな。だから、取り敢えず生きることにするって決めた」
「だが、君は今自ら死地に向かおうとしている」
「かも知れない。でも死にに行くわけじゃない。自分達が生きる場所を勝ち取りに行くんだ」
「……生きる場所を……勝ち取りに……」
「俺は弱いし未熟だ。でも、あいつに生かされてるだけの存在にはなりたくない」
はっきりと、カイはそう言い切った。
「兄さん、わたしも」
それにエリンも同調する。
アシェンはエリンを護るといってくれた。
だからといって、彼女だけに全てを任せているわけにはいかない。
今のエリンにできることはあまりにも少なく、直接アシェンの力になることはできないかも知れない。
「わたしには何もできないかも知れないけど……。でも、少しでも役に立てるなら」
戦場で死ぬ恐怖はない。
きっとアシェンが護ってくれるから。
仮にアシェンが敗北するというのなら、そこにエリンが生きている理由も意味もなくなってしまうだろう。
子供達は決意も固く、アシェンの元へと向かっていく。
その後ろにリーゼルと、ガルド達ドワーフが続いた。
イルニカとラズル達は何も言わず、その姿を見送ることしかできなかった。




