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門の鍵

 戦いが終わった獣人の集落に、主要人物達が集められた。

 輪になって取り囲むその中央には座り込んだフーヤオとその前に彼女を護るようにアシェンが立ちふさがっている。


「つまりお前は……いや、お前もまた母の言いつけを守っていただけということなのか?」


 そう尋ねたのはイルニカだった。

 彼女の母、フーリはかつてアシェンが魔王であったころに部下として引き連れていた特別な獣人だった。

 確か妖狐と呼ばれる種族で、アシェンは彼女以外に同じ姿の獣人を見たことがない。

 その娘がフーヤオ。そして彼女は母から未来にて蘇る魔王ソルのために力を尽くせとの命令を受けていた。


「だが、この森に来てわえは驚いた。誰も彼もがソル様のことなど知らず、こんなちんけな森の覇権を争っておる。大地が古き魔の力に汚染されていることにも気付かずに!」

「……ならばそれを素直にいえばよかったではないか? 何故、回りくどい真似をして同胞達を傷つけた?」


 そう尋ねたのは、ラズルだった。


「い、いや、それは……」


 フーヤオが目を逸らす。

 アシェンは彼女を睨み、全てを白状させることにした。


「そ、その……。何もかもが思い通りになって……楽しくて、つい……。宝石とかも綺麗じゃったし……」

「つい、でお前の行いで奪われた命が納得すると思っているのか!」


 ラズルが短剣を抜き、フーヤオに迫る。

 両手を縛られているとはいえ、フーヤオは怯える様子もなく彼を睨み返した。


「文句は貴様の祖父に言うのじゃな! 奴等こそ、わえを利用して用済みになったら碌な報酬も払わずお払い箱にしようと思っておったのだぞ!」

「そんな過去の話……!」

「その過去の話でいつまでも争っていたのは、何処の馬鹿どもじゃ?」

「静かにしろ」


 アシェンがそういうと、フーヤオは押し黙る。

 ラズルも納得がいっていない顔を見せたが、一先ず短剣を鞘に納めた。


「かか様は人間共が力をつけることを予想しておったようじゃ。だから、わえに力を蓄えよと命じた。あの方向からは嫌な匂いしかせん。古き魔力と、汚れた力じゃ」

「だからと言ってお前が我々にしたことは許されることではない!」


 イルニカも感情的になって叫ぶ。

 彼は両親を彼女に殺されているのだから、そうなるのも当然だった。


「アシェン殿、この者が貴方の部下であるなら話は早い! 即刻処刑を!」


 イルニカがそうアシェンに迫る。

 ラズルも同じように頷き、周りに集まったエルフや獣人達もそれは同意見のようだった。

 フーヤオに視線を向けると、彼女は覚悟を決めたように頭を下げている。


「こやつらに殺されるのはごめんじゃ。だが、わえが先走ったのも事実。それがソル様に不利益を与えたのならば、その代償は命で支払おう」


 フーヤオにとっては、母の命令こそが全てだった。

 それだけのために術を磨き、まだ見ぬ魔王との対面を待ち続けた。

 その途中で方法を間違えたというのならば、それを受け入れる覚悟も彼女にはあるということだった。


「私の友に、エリンという娘がいる。妖精の血を引き、魔法に興味を持ったのだがなにぶん教えられるものがいなくてな」

「……どういうことじゃ?」

「貴様をエリンの教師として使ってやる。精々、奴に魔法を教えてやれ」

「……それはつまり……」

「フーリの遺志を汲むのもまた、私の役目だろう。それに貴様は使えそうだしな」


 フーヤオの表情が明るくなり、しぼんでいた尻尾が元気を取り戻す。もし縛られていなかったら、そのままアシェンに飛びついていたことだろう。


「アシェン殿!」


 アシェンの選択に、イルニカは殺気立って迫ってくる。彼だけではなくエルフや獣人達もこちらを睨みつけていた。


「我等エルフは、貴方の傘下に入ってもいいと考えていた! だが、この女を庇うのならば話は別だ!」

「こちらも同じだ! そいつを殺さない限り、この森の同胞がお前に味方をすることはないぞ!」


 同じようにラズルも叫ぶ。


「ああ、それでいい。この話はこれで終わりだ。私は貴様等エルフに宿を借りた。その恩として、この森で起こっていた事件を解決した。そしてその戦利品として、こいつを手に入れた……それだけの話でいいだろう」

「だが、そのものは私の両親を……!」


 途中までいいかけて、イルニカは言葉を止めた。

 彼自身も、愚かなことを言っていることはわかっていた。

 敵を討ちたいのなら、自分がそうすればよかっただけのことだ。それが出来なかったから、アシェンを頼ったのだ。


「……わか……った……。アシェン殿は恩人だ、貴方がそうするのなら文句は言わん。……だが、貴方との関係はここまでだ」

「俺達もそうだ。あんたなら俺達をまとめて率いてくれるかも知れないと、そう思ったんだがな」


 イルニカに続いて、ラズルもそう吐き捨てる。

 それまで腕を組んで座り込み、むっつりと黙っていたガルドが口を開いた。


「俺達ドワーフはあんたらの傘下に入りたいね、魔王様」

「ガルド、正気か?」


 ラズルの問いと、イルニカの批判的な視線。

 その両方を受けてもガルドは全く怯まず言葉を続けた。


「元々俺達は逸れのドワーフだ。後ろ盾があった方が色々と助かる。それにな」


 ガルドが周りに視線を向ける。

 そこにいるエルフと、獣人達に。


「そいつが来てから状況は変わった。それは確かにその通りだ。だが、俺達の同胞の命を一番多く奪ったのはその女じゃない」


 その場の誰もが気まずそうに目を逸らす。

 ドワーフはこの森の勢力の中でも、最も小さな集団。獣人達との戦いでなんとな持ちこたえていたところを、フーヤオの参戦で押し込まれ敗北した過去を持つ。


「負けて奪われた、それだけの話だ。恨んじゃいないよ、そういう感情があるとすれば他の誰かにじゃない、自分の馬鹿さ加減にだ」


 自嘲するようにガルドが笑う。


「それに、魔王様の部下にはいい戦士がいた。俺達ドワーフは頭が悪いからな。そういう連中とは友誼を結びたくなるんだ」


 ガルドが視線を離れたところに向ける。

 当の本人であるカイはこういった話し合いにはあまり興味がないのか、ぼうっと成り行きを見守っているだけだった。

 カイとの戦いがなければ、ガルドがこうして考え方を変えることはなかったかも知れない。本人は気付いていないが、紛れもなくカイの戦士としての誇りが生んだ結果だった。

 納得がいかないながらもある程度話し合いがまとまろうとしたところで、突如何者かがこの場に走り込んできた。

 どうやらそれはまだ年若い獣人のようで、遠くから来たのか息を切らせている。


「どうした?」


 相手が獣人ということもあって、ラズルが尋ねる。当然だが、二人は顔馴染みの様子だった。


「ら、ラズルさん! ……って、あれ? これ、どういう……?」

「話せば長くなる。それより、何かあったのか?」


 敵であったエルフがいて、元凶の女が縛られている。若い獣人はその状況に混乱しつつも、話を続けた。


「た、大変なんだ……! 遺跡から宝物が出たと思ったら、人間がきて……! しかも鎧まで着てて、俺達じゃどうにもできなくて……!」

「人間だと? それで、どうなった?」

「宝物は、全部持ってかれた……! 死人はでてないけど、怪我人が多くて近くに隠れてる……! 俺はまだ元気だったから……」

「宝物じゃと!」


 急に叫んだのはフーヤオだった。

 両手を縛られたまま立ち上がり、その若い獣人に詰め寄る。


「何故それをわえに報告しなかった! 見知らぬものが出たら教えろと言っておったじゃろうが!」

「あ、う……」

「よせ!」


 若い獣人は混乱し、間にラズルが入ってフーヤオを止める。

 無理もない話だった。恐らくフーヤオが倒された事実をまだ知らない彼にとっては、彼女は恐怖の象徴でしかない。


「フーヤオ、貴様はこの森で何をさせていた?」

「――門の鍵じゃ」


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