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後は私が

 ラズルが降伏したことで、戦いはほどなくして収束していった。

 今彼等は、エルフの集落の広場に集められている。

 獣人とドワーフの戦士達は固く縛られて、身動きができないようにされている。


「イルニカ様! ついにやりましたね! これで残る奴等の戦力はほんの僅か……!」

「長年我等を苦しめていた連中も、こうなってしまえば……」


 エルフ達の歓声を聞くイルニカの表情は、勝利を喜んでいるというわけではなさそうだった。

 理由は二つある。

 アシェンはそれがわかっていながら、黙って事の成り行きを見守っていた。


「イルニカ様! 早くこいつらを処刑しましょう! そして残る者達への見せしめとするのです!」

「しょ……!」


 そう声をあげたのは、リーベルだった。彼女はアシェンの後ろで、エリンと一緒に事の成り行きを見守っていた。


「何故ハーフエルフがここにいる? 誰がお前の意見を聞いた?」


 エルフがきつい声でそう尋ねると、リーベルは小さくなってエリンの後ろに引っ込んでいく。


「いいんだ。リーベルは今、あの客人に使える身だ」

「エルフを裏切るということですか? ふん、所詮ハーフエルフなど」


 彼等の会話を聞いて、小さな声でエリンが呟いた。


「……リーベル、大変だったんだね」

「だ、大丈夫、です……。はい、今は……はい」


 口ではそういうが、あまりリーベルは大丈夫ではなさそうだった。

 それからも話し合いは続いていたが、エルフ達の何人かはラズル達を処刑する方向に話を持っていこうとしている。


「彼等は生かしておく必要がある。少なくとも、彼等が暮らす場所へと案内してもらわなければならないからな」


 イルニカがそういうが、一部のエルフは不満そうだった。


「ですが、一名いればいいだけのこと。イルニカ様、俺は奴等に弟を殺されているのです!」

「……それは俺達とて同じことだ。お前達の矢で家族や友人を失った奴は幾らでもいる」

「貴様!」


 口答えしたラズルに、一人のエルフが怒りに任せて剣を振り上げる。

 その間に割って入ったのは、イルニカではなくカイだった。


「やめろよ! 幾らなんでも問答無用で殺すのは……」

「退け、人間! お前達など、イルニカ様のお言葉でここ居られるだけなのだぞ!」

「なんだと! 俺達がいなけちゃ、あんたらは負けてたかも知れないんだぞ!」


 エルフの一人と、カイが喧嘩腰になって睨み合う。

 そんな二人を見ながら、ガルドは低い声でカイに訴えかけた。


「俺はどっちでもいい。いい勝負ができたから、悔いはない。だが、できればあいつに処遇は決めてもらいたいな」


 そういって、顎でカイを指した。


「……俺が決めていいなら、あんたは殺さないよ。どうなんだ、イルニカ?」


 イルニカが話題を振られて、何かを決意した顔でラズルに問いかける。


「ラズル。これまでの戦い、本当にお前が望んだことなのか? 我々は他の誰かの意志で戦わされていただけではないのか?」


 ラズルは視線を地に落とし、心底悔しそうな声で答えた。


「お前の言う通りだ。俺達はとっくの昔に、自分達の意志で戦うことをやめてた。俺の祖父が契約した女、そいつが全ての元凶だ」

「……やはりか」

「まさかそいつは……前族長を殺した……」


 エルフが言いかけて、イルニカの顔を見て慌てて口を噤む。

 イルニカは特に怒る様子もなく、ただ静かに彼の言葉に首肯した。


「確証はなかったがな。ここ数年の戦いはおかしかった。お互いに何のためかもわからない戦いを続けてきたのだ」

「ですが、それでも我等に武器を向け続けてきたのは事実です!」


 そういってエルフ達が、ラズルを睨む。


「何処かで武器を捨てて、協力すればよかったものを!」

「お前が俺と同じ立場なら、それはしなかっただろうな」


 ラズルが吐き捨てるように答える。

 それに更に、ガルドが付け加えた。


「あの女の力は圧倒的だし、同胞も人質になっている。……例え俺達が協力しても無理だろうな」

「ちっ! やはり獣人とドワーフ如きでは、その程度の知恵を回すこともできんか!」

「いい部下を持ったな、イルニカ」


 皮肉を込めてそういいながら、アシェンが彼等に近づいていく。


「そういう考え方をする貴様達だから、こうなったのだろう?」

「……何を……!」


 何かを言い返そうとしたエルフは、アシェンに人睨みされて押し黙った。


「アシェン殿、言いたいことはわかるがそれは外からやってきたものの意見だろう。我等には我等のやり方があった」


 イルニカの言葉に、アシェンは答えない。

 確かに彼等の言うことも間違ってはいない。

 長年の軋轢があったのも事実だし、例え敵ができたからと言って一斉に協力することはできないだろう。

 だからこそ、今の状況はアシェンには都合がよかった。


「わかっている。全てを十全に上手くまとめることなどできはしない。お前達はその中で精一杯やってきた。そしてその結果がこれだ」

「それには返す言葉もない」

「だが、私は褒めてやりたい部分もある。貴様達、よく生き延びる選択をしたな。玉砕することが一番楽であるとわかっていながら、苦汁を舐めながらも今日まで戦い続けてきた」


 ラズルとガルドが顔をあげる。

 アシェンは愉快そうに笑いながら、彼等を見下ろしていた。


「私も決して貴様達と縁遠い存在ではない。その大義の重みを受け取ろう」

「……何が言いたい?」


 ラズルがそう問いかける。

 アシェンのやることは既に決まっていた。

 思わぬ広いものを見過ごす理由はない。


「後は私がやってやる。その女の元に案内しろ」

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