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悔いはない

 目の前に現れた人間の子供に対して、ガルドの動きは鈍っていた。

 決闘、とは言ったものの適当に戦って追い払うつもりだった。

 所詮人間の子供、こちらが本気と見れば尻尾を撒いて逃げ出すだろう。

 ガルドのその思惑は、カイが思いのほか喰いついてきたことで崩れることになった。

 槌を振るう。

 今でこそあの女の元で不本意に振るっているが、何人もの戦士を打ちのめしてきた愛用の武器だ。

 人間の子供はそれを懸命に弾き返しながら、反撃の隙を待っている。

 それがわからないガルドではない。

 だが、それでもがむしゃらに槌を振るう。

 そうしなければ、頭の中に浮かんでいる一つの考えに支配されてしまいそうになるからだ。


「救う、だと……?」


 そう零す。

 その声は戦いの音に掻き消されて、カイには届かなかったようだった。

 槌と剣が、交差する。

 カイは器用に距離を取って、ガルドの必殺の一撃を避け続けていた。

 ドワーフは至近距離での踏み込みには長けるが、距離を問われれば相手を追いかけるしかできなくなる。

 正面へと突撃ならまだマシだが、側面に回り込まれると途端に対応が難しい。僅かな戦いでカイはそれを見抜いたのか、ガルドの攻撃をいなし続けている。


「素質がある戦士だ、殺したくはない!」

「死ぬ気はないよ!」


 カイの剣を槌で受け止める。

 既に何度も吹き飛ばし、直撃こそないものの相応のダメージは与えるはずだった。

 そもそもガルドの攻撃を剣で防ぐだけでも、相当な衝撃が何度も身体を貫いている。

 恐らく目の前の子供に特別な力はない。

 だとすれば、何かが彼を支えている。

 既に誇れる名を失った少年を支える、何かが。


「……救い……!」


 ぎり、と。

 ガルドが奥歯を噛みしめる。

 そんなものがあるわけがない。子供の妄言だと切り捨てたかった。

 もしそれが本当なのだとしたら。

 何故、今になって現れた。

 何故、エルフにだけ訪れた。

 何故、それが自分達ではないのだ。

 そんな理不尽な感情が、ガルドの中で燃える。

 少年は語らない。

 ただ無心で剣を振るうのみ。

 その背後にある何かを、ガルドは幻視した。

 この少年に戦士の気風を纏わせた何者かを。


「そんな奴が……!」


 踏み込む。

 槌を全力で振りかぶった。

 次の一撃で、ガルドは全てを決めるつもりだった。

 例え動きが鈍っていたとしても、これを受ければ少年の身体は無事では済まないだろう。


「そんな奴が……!」


 言い聞かせるように叫ぶ。

 今日、楽になるつもりだった。

 エルフに殺されるならそれでもいい。

 もしエルフを仕留めても解放されないのならば、あの女に挑んで死のうと。

 そこまでの覚悟を持ってガルドはここにやってきたのだ。


「いるわけねえだろうが!」


 ドゴンッ!


 大地と大気が震え、木々が騒めく。

 戦いの気配に身を顰めて逃れていた動物達が、たまらず一斉に飛び出した。

 地面がへこみ、大量の土煙が上空へと舞い上がる。

 それは一瞬、周囲の視界すら奪うほどの量だった。

 飛び散った石礫すらも武器となり、木々の枝にぶつかりそれらを叩き折った。

 だが、そこに少年の姿はない。


「おおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 上空から、気合を込めた声がする。

 カイはガルドの渾身の一撃を、上空へと飛ぶことで避けていた。

 両手で握られた剣が、全体重を込めて振り下ろされた。

 流石に自慢の兜でもそれは防げない。ガルドはそのままそれを受けて死ぬならばそれでいいと、そう思えるほどの気迫がある。

 ガギンと。

 鈍い音がする。

 死を覚悟したガルドだったが、頭部に凄まじい衝撃があるだけだった。

 普通ならそれだけでも体勢を崩し倒れるか、下手をすれば衝撃だけで気絶しそうなほどだったが、ドワーフ元来の頑強さに加えてガルドは鍛え方が違う。


「なん、でだ?」


 顔をあげる。

 目の前には剣を振り下ろした少年。

 その手にある剣は、ガルドに叩きつけた中ほどからぽっきりと綺麗に折れ飛んでいた。

 少し遅れて、地面に折れた先端が突き刺さる音が聞こえてくる。

 カイもまた、思わぬ結果に呆けた顔をしている。

 彼が正気に戻るまでのほんの一瞬、ガルドがその気ならば槌を振り上げて命を奪うこともできる。


「く、ははははっ……。やはりなまくらを使ってるとこうなる!」


 ガルドが槌を持ち上げる。

 カイは折れた剣でそれに立ち向かおうとするが、彼が想像していた事態は起こらなかった。

 ガルドは槌を天高く放り投げ、両手を挙げた。


「俺の負けだ」


 迷いを持ちながら戦い、偶然に助けられた。

 救われるかも知れないという期待と、救われることに対しての怒りをぶつけようとした。

 その全てが、戦士としての矜持に反する。


「降参する。俺達逸れドワーフは、あんた達に命をやろう」


 ドカッとその場に座り込む。

 獣人達はまだ戦っているが、ガルドがそうなってはドワーフ達はもう戦えない。

 元より望んだ戦いではない。


「いい戦いができた。殺されても悔いはない」


 敗北したというのに、ガルドの表情は晴れ晴れとしていた。

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