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戦士ガルド

「今のうちに体勢を立て直せ! 真面目にやれよ!」


 ラズルの短剣からイルニカを庇ったカイは、彼に向かってそう叫ぶ。


「幾ら力をつけたってさ! あんた達は自分の得意なことをやればいいんだ!」


 その言葉にイルニカはハッとして、ラズルと距離をとる。

 カイの一喝が響いたのか、他のエルフ達も無理な白兵戦を避けて一斉に獣人達と距離を取り始めた。


「逃がすか! 手の空いてるものは集落を!」


 動きの素早い数名の獣人が、エルフ達の守りを突破してその奥へと駆けていく。


「しまった!」


 慌てて追いかけようとするイルニカ達を、カイの声が制した。


「大丈夫だ。向こうにはあいつがいる! それより俺達はこいつを!」

「あいつ? あいつとは誰だ?」


 イルニカに問われて、カイは躊躇いながらその名前を口にした。


「アシェンだ。アシェンが向かってる、だから大丈夫」

「……アシェン殿……。だが、本当に我々に協力してくれるわけが」

「してくれるよ。あいつはそういう奴だ。詳しいことは何も言ってくれないけど、俺も同じように助けられた」


 どちらにせよ、アシェンが動かなければこの戦いでイルニカ達が勝つことはできない。

 数日前にカイがそうであったように。

 だが、カイにはある種の確信があった。ほんの数日一緒に行動しただけでもわかることがある。

 アシェンは気まぐれに命を選別しない。


「敵を前にしてごちゃごちゃと!」


 ラズルがカイの前に飛び込む。

 鋭い短剣の一撃を、カイは剣を抜いて打ち払った。


「早い……!」


 カイがよろけたところに、すかさずイルニカの援護が入る。

 飛来した弓を飛んで避けながら、ラズルはカイから距離をとった。


「援護するぞ、人間の少年!」


 イルニカの言葉を受けて、カイが前進する。

 途中で立ちはだかった獣人達は、イルニカの矢の前に崩れ落ちた。


「ちっ! エルフに後ろに回られると厄介だ!」


 今度はカイの攻勢を、ラズルが捌く。

 カイの持つ剣よりも短い武器を使っても、ラズルは的確にこちらの動きを読んで攻撃を弾き返してきた。

 数回打ち合ったところで、戦場に再び変化が訪れる。

 野太い怒号と共に、草木を薙ぎ倒すようにしながらドワーフ達が参戦した。


「小さい……? あれがドワーフってやつか?」


 カイは初めて見るドワーフに、思わずそんな感想を漏らす。

 髭を蓄えた彼等は身長こそ人間よりも低いが、蓄えた筋肉はそれこそイルニカ達エルフの比ではない。


「ドワーフとは距離を取れ! 我々も!」


 イルニカが指揮を飛ばす。もしカイがここに乱入していなければ、その冷静さはなかったかも知れない。


「ラズル! お前は大物をやれ!」


 引くい唸りのような叫びと共に、轟音が響いた。

 カイは自分に対して振り下ろされた一撃を辛うじて避けたが、直前まで自分が立っていた場所は土が大きく抉られていた。

 その一撃を放った人物、髭面に筋骨隆々、角の生えた兜を被ったドワーフの男が愉快そうに笑う。


「打ち合えそうな戦士がいるな」

「くっ……」

「カイ! 私なら大丈夫だ! ラズルの相手は任せろ、もう冷静さは失わん!」


 イルニカを心配して一瞬視線を向けたカイに、彼はそう返答した。


「言ったな、イルニカ!」


 名を呼ばれたラズルが、イルニカに飛び掛かる。

 彼はそれを器用に打ち払い、時に拳を振るって牽制しながら距離をとる。

 二人は戦いながら森の奥へと入り込んでいった。


「だ、そうだ。じゃあ、こっちはこっちでやるとするか」


 ドワーフの男がそういって、手に持った巨大な槌を担ぎなおす。


「俺はガルド。ドワーフの一の戦士ガルドだ。もっとも、その名前ももう意味はねえが」


 戦場の真ん中で、ガルドはカイを見つめて楽しそうな表情を崩さない。

 その姿は、あの日のあの男を彷彿とさせた。


「だがそれでも誇りがある。だからこれは名誉ある決闘にしたい。お前は何処の誰だ?」

「……カイだ」

「ほう。何処のカイだ? その身体、若い割にはいっぱしの戦士の気風がある」

「誇れる名前なんてない。全部燃えたよ」

「……ああそうか、そういう時代だもんな。人間だって楽じゃなさそうだ。――いい戦いをしよう」


 地面が揺れたと。

 そう錯覚するほどの踏み込みだった。

 凄まじい速度で目の前にガルドが迫る。直線だけのスピードならば、先程のラズルよりも早いかも知れない。


「勝負だ」


 ガルドが笑う。

 カイはそれに剣で応える。


「重い……!」


 ガルドの一撃を受け止め、森の中に鈍い音が響き渡る。


「やるな……!」


 その後何度も、剣と槌が打ち合う森の中を木霊する。

 周りで戦っている者達も一瞬手を止めてしまうほどに激しい戦いが、カイとガルドの間で繰り広げられていた。


「しかし、疑問だ。人間がどうしてここにいる?」

「成り行きだよ。俺だって好きでいるわけじゃない」

「だったらなおさら、こんなことに首を突っ込むべきじゃなかったな」


 横薙ぎの槌を受け止め、それでも衝撃を殺しきれずにカイの身体が後ろに吹き飛んだ。

 生い茂った草が衝撃を受け止めてくれたので、ダメージは少ない。カイは即座に立ちあがった。


「仕方ないだろ。俺は弱いから、付いていくことしかできない。そいつの決定に従ってるだけだ」

「ふん。そいつの目的が何かは知らんが」

「……多分、全部を救うつもりだよ」

「馬鹿なことを!」


 ガルドの動きが鈍る。

 振るわれた槌を避けて、カイはガルドの頭に剣を叩き込む。

 だが、まだ辺りが浅い。ドワーフの技術で作られた兜は、カイの斬撃をいとも容易く防いで見せた。


「なまくらだな!」

「これしかないんだよ!」


 がぎんっ!

 命拾いをしたガルドが、今度は攻勢に出た。

 カイはそれを何とか剣で防ぎながら、反撃の隙を伺う。

 明らかにガルドの動きが鈍った。

 戦士としてそれは正しいことではないかも知れない。

 父が生きていたら、カイを叱咤しただろうか?

 だが、今はもうそんなことは関係ない。

 そうしてくれていた父はもういない。

 弱いとわかっていながら、カイはそれでも戦う道を選んだ。

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