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夜明け

 夜が明け、太陽の光が大地を眩く照らすころになって、ようやくアシェンは逃げた奴隷達と合流することができた。




「アシェン!」




 いち早くアシェンを見つけたエリンが、小走りに近寄ってくる。エリンに限った話ではないが、夜中の襲撃から逃げ切った彼等の恰好は酷いものだった。


 服は寝間着に使っていた、普段着にするにはぼろくなってしまった服。元々あちこち破れていたものが、今は焦げ跡や泥でより悲惨な姿だ。




「無事だったか、エリン。ここに逃げ込んだのは、カイの指示か?」




 エリンがこくりと頷く。


 今いる場所は、奴隷地区からそれほど離れていない森だった。先日のゴブリンと戦った森とはまた別のようだが、人の手が入っている気配はない。




「ここが何処かはわかるか?」


「……多分だけど」


「言ってみろ」


「奴隷地区の南には森があって、その先に違う国があるって聞いたことがある」


「ふむ。この森が国境の役割を果たしているということか? だからあの場所まで侵攻した帝国は一度足を止めたと」




 アシェンの独り言の意味がわからずに、エリンは首を傾げた。


 奴隷地区で得た情報から考えるに、帝国は周辺の部族や小さな国を支配して勢力を拡大しているとのことだった。そして恐らくはこの森の突破に戸惑い、南への侵攻を一度取りやめているのではないだろうか。


 ゴブリンのいた森といい、どうやら人間同士の争いとは別に、魔物や他の種族に対しても未だ手を焼いていると、アシェンは予想する。




「学ばぬな、人間も。もっとも、世界というのはそういう風にバランスが取れているのかも知れんが」




 などと呟いていると、アシェンの姿を認めたカイが近寄ってくる。


 彼の表情は決して明るいものではないが、目の光は消えていない。まだ考えて行動できるだけの活力は残っている様子だった。




「無事だったか」


「お前もな。よくここを選び逃げ込めたものだ」


「……父さんたちが話してた計画に、反乱を起こしてから南のラグナルに逃げ込むって話があったから」




 父のことを話すカイの表情は暗いが、それとは対照的にエリンはあまり気にしてはいない様子だった。


 そしてそれよりも、アシェンは聞いたことがない単語が気になって聞き返す。




「ラグナル?」


「南にある王国だよ。魔法が盛んで、もう長いこと帝国と戦ってる」


「魔法が盛んか」




 一瞬、エリンを見やる。ひょっとしたら、エリンはその国の出身かも知れない。今の時点では情報が少なすぎるので、無暗に口に出すことでもないが。




「父さんたちはラグナルで仲間を集め、そこでまた部族を復興させる計画を立てていたんだ。でも、森を抜ける算段がなくて」


 計画は中断され、恐らく馬鹿正直に帝国と戦う方向に流れたのだろう。


「こちらの方がまだ勝機がありそうだったな」


「……かもな」




 元気なく、カイが答える。父親の敗北は大分堪えている様子だったが、彼にはまだ働いてもらう必要があった。




「だが、おかげでいいことが知れた。なるほどラグナルか。都合がいい」


「……何を考えてる?」


「一先ずはそこに腰を落ち着ける。それから力を蓄え、帝国に反撃だな」


「反撃って……。帝国の力を見ただろ? 俺達が戦って勝てる相手じゃ……」


「お前達ではな。私なら勝てる、勝たねばならぬというのが正しいか」


「どうしてそうなる?」


「話せば長くなる、その話は後だ。まずは森を抜けるのが先決か」


「今は厳しい。みんな疲れ切ってるから、少し休ませてやってから」


「駄目だ。こんな森の入り口では、足跡を辿ればすぐに追いつかれる。苦しいかも知れんが、我慢してもらうしかない。勿論、死にたいものは置いていくが」




 ニヤリと笑って告げると、カイはそれ以上は反論しなかった。アシェンの言葉が正しいとわかっているからだろう。


 アシェンが何か言うよりも早く、カイは逃げてきた奴隷達の方へ向かって説明を始める。


 最初は奴隷達も難色を示したが、カイが熱心に説得したことで納得してくれたらしい。ゆっくりとではあるが、立ち上がって歩き始めた。




「お前の兄は結構使えるな」


「わたしは?」


「今のところはそうでもない」




 そのやり取りで機嫌を損ねたエリンも、アシェンを置いて先に歩いて行ってしまった。

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