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降り立つ灰色

 灰色の少女が、その場に舞い降りる。

 いつも通り、奴隷がきているなかでも特にボロボロの服で、まるで地獄のような状況にも関わらず顔には不適な笑みを浮かべながら。


「やってくれたな、貴様等」

「なんだお前は?」


 どうやらジェレミーは、アシェンのことを覚えていないようだった。彼の頭の中では少女がゴブリン相手に大立ち回りができるわけないと、勝手に記憶が改竄されているらしい。

 それでもジェレミーの部下にも優秀な人物がいた。奴隷地区の裏切り者であるギルグの証言を聞き、真っ先にアシェンが寝ているテントを徹底的に攻撃したのだ。

 大量の矢と魔法による投石によってアシェンのテントは押しつぶされ、脱出に時間がかかってしまった。


「そいつから手を離せ、契約により私はそいつを護ることをにしている」

「ふん、だったら一緒に僕のところにくるんだな。魔法が使えるなら、部下として使ってやる」

「断る」


 アシェンの姿がその場から一瞬消える。

 女達からアシェンへと警戒を向けていた帝国兵の誰もが、ジェレミーすらもその動きを追うことはできなかった。

 一瞬でアシェンはジェレミーの前に立つと、エリンを奪い返す。

 そして彼の腹に手を当て、魔法によって生み出した小さな渦巻く風をぶつけた。


「うぐああっ!」


 ぐるぐると回転しながらジェレミーが吹き飛び、既に無人となった建物に激突する。そのまま壁を破壊し、建物の中へと転がり込んでいった。


「魔導師か!」

「違うな」


 剣閃が舞う。

 一瞬の隙をついてジェレミーから奪った装飾剣を、アシェンが振るったものだった。

 たったそれだけで近くにいた兵士二人が鎧の隙間から血を流し倒れた。

 帝国兵の間に、動揺が走る。

 アシェンはそれを見逃さなかった。

 エリンを抱えたまま、次々と帝国兵達を内倒し道を作る。

 そして自分の元に注意を引きつけ、女達が逃げ出すだけの空間を作った。


「エリン、立てるか?」

「……うん……げほっ……」


 咳き込みながらも、エリンは気丈に立ち上がった。アシェンが生きていてこの場に駆け付けたことが、彼女に力を与えたようだった。


「……アシェン、きてくれた……!」

「何処にでも行くさ。貴様に死なれたら契約が履行できん。それは魔王としてのプライドに関わる」


 二人の会話を遮るように、立ち上がったジェレミーが走って戻ってくる。

 近くの帝国兵から槍を奪い、その先端をアシェンに向けて突き出しながら叫んだ。


「貴様あああぁぁぁぁぁ! よくも僕に傷をつけたなぁ!」


 鎧兜を装備しているジェレミーだが、先程の衝撃でその姿はぼろぼろになり、露わになっている頭からは血が滴っている。


「戦場での傷は戦士の誉れだろうに」

「黙れ! その血は渡さない! 僕の野望のために!」

「血だと? ほほう、やはり名のある魔導師の血統か。ならばなおさら……」


 敢えて、見せつけるようにアシェンはエリンを引き寄せた。

 エリンは一瞬驚いたものの、抵抗せずにその腕に抱かれている。


「貴様にくれてやるわけにはいかんな。契約のついでに、こいつはわたしが頂くとしよう」

「奴隷風情が喋るなぁ!」


 槍で突いてきたジェレミーをいなす。続けざまに襲い来る帝国兵を、一撃で一人ずつアシェンは屠っていった。


「くっ、なんだこいつ……!」


 そのアシェンの戦いぶりを見て、ジェレミーが怯んだ。

 まだ味方の帝国兵が戦っているというのに、後ずさり始めている。


「お前達、そいつを殺せ! 僕は援軍を呼んでくる!」


 そう叫ぶと、一目散にその場から逃げ去っていくのだった。

 それからほどなくして、まだ戦意を見せた帝国兵はアシェンによって打ち倒され、残った者達はジェレミーと同じように逃げ出していくのだった。

 剣を鞘に納めてから、アシェンはエリンから手を離した。


「誰か、ここからの逃げ道がわかるものはいるか?」

「……あっちに行けば、森に抜けられるかも……」


 そういったのは、先程肩を切られた女性だった。かつてはアシェンに冷たく当たっていた彼女だが、今は縋るような目を向けている。


「だったらそこへ向かえ、先導は頼めるな?」


 女が頷く。


「よし、帝国兵に見つからないようにな」

「アシェンは?」


 不安そうにエリンが尋ねる。


「連中の気を引いておく。他にも使えそうな生き残りを見つけなくてはな」

「……ちゃんと合流できる?」

「できるに決まっているだろう」


 安心させるように、エリンの頬を撫でる。


「お前も奴等と一緒に行け」


 アシェンを信頼しているのだろう。

 エリンはそれ以上何も言わずに、先を歩いていく女達に合流していく。

 彼女達がまだ炎に巻かれていない暗がりへと消えるのを見送ってから、アシェンは別方向に向けて歩き出した。

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