さよならを君へ
まるでスローモーションのようにゆっくりとーー-
飛び出してきたルルが、盗賊の振りぬいた剣に貫かれた。
目の前でどしゃりと音がして、流れ出す血液の上に小麦色の髪が落ちる。
それはひどく、くすんで見えた。
「っ、うわああああああああああああっ!!」
どこかで誰かの絶叫が聞こえる。
目の前で起きたことを信じたくなくて、何も考えず剣をめちゃくちゃに振るった。
それは盗賊を襲い、辺りは阿鼻叫喚の嵐に包まれる。
頭に比べて彼らは圧倒的に弱く、次々と死体が転がった。
ルルを刺した盗賊の首が落ちる。悲鳴すらも漏らせず絶命したそれは、苦悶の表情に満ちていた。
「...ユルサナイ」
「ひっ...!」
頭の中が沸騰したみたいに暑くて、悲鳴を上げて後ずさる盗賊どものことすら煩わしかった。
...目の前の奴らを全員殺したいほどに憎い。
でも、本当に許せないのは、彼女を死に追いやった自分だ。
あの時【虚無】を使って何が何でも頭を殺していれば、村についてすぐ【創造】を使って彼女を何かしらの方法で見つけていれば、と無限の可能性が頭をよぎる。
そのどれか一つでも選べていれば、ルルは生きていた。ルルは俺が殺したんだ。
俺の中途半端で身勝手な罪悪感が、油断が、優しさが、ルルを殺した。
数えきれない後悔と、自分への苦しみ。
明らかに死んでいることをわかっていても、受け入れられない心。
未だかつてないほど、俺は俺が分からなくなっていた。
...ああ、もういいや。
全て壊してしまおう。
ヨノセが理性を取り戻したとき、その場で生きていたのはさすがというべきか、盗賊の頭ただ一人だった。
なにも、彼は自分の部下が目の前で殺されていくのをみすみすと見ていたわけではない。
何度もヨノセを切りつけようとし、そしてそのたび体が動かなかった。
その時感じたのは、恐怖。何か、起こしてはいけないものを起こしてしまったかのようなー--
ヨノセがこちらを振り向く。それだけで彼の体が硬直した。濁り切った銀の目に射抜かれる。
その目は何も、映してはいない。
彼は命が燃え尽きた最後の一瞬まで、その目に囚われていた。
盗賊の頭を殺したあと、俺はステータスを見た。
ただ一つ、ある可能性に賭けるために。
ー--≪ステータス≫ ー------------------
ヨノセ:ラノセント 称号『創造神の加護を受けしもの』
Lv: 48 ( 10000 / 20000 )
HP: 26000 / 120000
MP: 1200 / 140000
スキル 虚無・創造( Lv1 )
身体強化・小 ( Lv6 )
実績 努力を続けるもの ( 強化ボーナス大 )
優しきもの ( 運・大アップ )
強者 ( 身体の向上率大 )
剣の天才 ( 剣の太刀筋補正大 )
創造神の加護を受けしもの
( 強化ボーナス:超 )
( 身体能力補正:超 )
( 水属性の属性適正付与・消費精神力半減 )
盗賊狩り( HP:小アップ )
殺人 ( 運:小ダウン ) ≪優しきものにより無効≫
ー--------------------------
「虚無・創造の現時点で出来ないことについて詳しく表示。」
≪発動範囲の限定の解除。死者の蘇生≫
「死者の蘇生はいつからだ?それは本当に可能か?」
≪現時点で開示不能。可能。≫
「...そうか、ならいい。」
確認したかったことを終え、俺は辺りを見渡す。
家は燃え続け、もう誰も生きていない。
「そうか、俺一人になったのか。」
【虚無】を使い範囲を火という概念に限定して町の火を消す。
そして冷たくなったルルの遺体をおぶさり、村の広場へと足を運んだ。
...背負ったルルの冷たさが、こちらの熱を奪ってきて、思わず涙がこぼれた。
もう広場とわからなくなってしまった残骸の真ん中にルルをおろすと、【虚無】をつかって石畳の上の土などを消した。
そして、ルルの綺麗な目の色に合わせた翡翠の棺を【創造】すると、遺体をその中に入れて【虚無】で作った穴の中へと埋めた。
「さよなら、ルル。君が生き返るその時まで。」
この日一番の穏やかな笑みを浮かべると、俺は村に背を向けて歩きだした。
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