何気ない日常と覚悟
二話同時投稿の二話目です~。
こちらから来た人は世界観の説明のある一話から読んでいただけるとわかりやすいかと思います!
ドドドドドドドドド...
森の中で一頭のイノシシが何かから逃げるように走っている。
と、その傍の茂みから一人の少年が飛び出してきた。
少年はもの凄いスピードで走り狂うイノシシにあっという間に追いつき、そのままイノシシの頭を後ろから切り飛ばす。
少年の持っていた木剣が、血で赤黒く染まった。
「このくらいで今日の晩御飯には足りるかな...」
少年の柔らかな茶色の髪からぽたぽたと汗が落ちては地面に吸い込まれていく。
んー、と微妙な声をあげながら彼は落ちていく太陽を見据え眉をよせた。
「あ、ルルだ。」
悩んでいた彼の視線がある一点で止まり、柔らかな視線が冷えてきた空気を温めた。
その彼の視線の先ー小麦色の腰ほどまである豊かな髪を二つ結びにして風にまとわせながら駆けてくる少女、は目が合ったことに気づき、ぱあっと顔をほころばせる。
「ヨノセ~お腹すいた!」
ふはっ、と思わず少年が笑う。馬鹿にするような笑い方ではなく、ひどく優しい笑みで。
「このイノシシしか取れなかったけど、足りるか?」
「うん、ばっちり!いつもありがとう、ヨノセ。」
おう。とヨノセと呼ばれた少年が照れ臭そうにわらった。
沈みゆく太陽に向かって、その方向にある二人の家に向かって、二人はどちらからともなく歩き出した。
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家に着いた二人は夜ご飯の用意を始めた。
少年ーヨノセは手早くイノシシを解体していく。
この家には俺とルルしかいない。だからこそ一頭のイノシシで十分だった。
俺の両親は存在しているのかもわからないし、ルルの両親は遠く前に死んでしまっているから。
「そういえばさ、ヨノセまたあの森で筋トレしてたの?」
ふと、昔に思いをはせているとルルが尋ねてきた。
ああ、と頷いたあと、顔をそちらに向け会話の続きを促す。
「こんなこというのもあれだけど...村のみんなヨノセのこと馬鹿にしてるよ。庶民なのに無駄なことしてるって、ヨノセのこと笑ってる。」
くやしい、そういってルルは顔を伏せた。
俺たちはまだ15歳。大人に守られることのできない俺たちへの風当たりは強い。
でも。だからこそ。
俺はルルを守りたい。
だがそんな願いもむなしく、去年発現した俺の生まれ持ったスキルは火の適正スキル「身体強化(小)」だった。
Fランクの最低スキル。こんなのじゃ俺はルルを守れない。
だから、独学で剣を極めた。何が正しいのかもわからないから、ひたすら素振りをしたり木を切ったり獣と戦ったり、それを毎日欠かさず行った。
そのおかげか丸々太ったイノシシの首も一撃で落とせるようにまでなった。
「あいつらに付け込まれる原因を作っちゃってごめんな。確かに世間一般から見たら無駄なことだろうけど、俺は、俺だけは無駄なことだって思っちゃだめだと思うんだ。」
世間からなにを言われても、俺は。俺だけは自分の頑張りを否定しちゃいけないと思う。
自分だけが一番成果を分かっているはずだし、そこに至るまでの苦労を慰めてやれるのも自分だけだから。
少し熱くなりすぎちゃったかな、そう言って誤魔化すように笑う。
すると肩に衝撃が走って、視界の隅で小麦色が揺れた。
「あいつらが何を言ってきても、私がヨノセを守るからね。」
温かい体温に抱きしめられて、ああ、それでも俺は。
ルルにだけは勝てないのだと悟った。