篝のクラスメイトの様子
昨日の投稿で、ブラックパイソンなんて名前出しましたが、牛のつもりで書いてました。
なのでブラックブルに修正しました。
パイソンは蛇なんじゃ…。
―――桐山裕―――
「裕。おはよう」
「あ。千聖。おはよう」
朝。城の食堂へ向かう途中で、友達の千聖と顔を合わせる。
度の入っていない大きな丸眼鏡をかけていて、短髪だけど前髪だけ伸ばして目を隠してるから、裏では陰キャ女子なんて呼ばれている。
けれど中学から一緒の私は知っている。彼女は敢えてそうしていることを。
……あと胸が大きい…。羨ましいほどに。本当に同じ高校生か疑うレベル。
「誘拐されてもう一ヶ月経ったけど、裕はもう慣れた?」
「全然…。だって、今まで剣なんて握ったことないのよ?それなのにいきなり勇者として、魔王を倒して平和を取り戻してくれだなんて……無茶にも程があるわ」
「同感ね。私は槍を振るのにはだいぶ慣れて来たけど、魔物と戦うのはまだちょっと抵抗を感じる」
「とか言いつつ、千聖が一番成長が早いわよね…」
「そう?裕がそう言うなら、そうなのかもね」
千聖は環境に慣れるのがとにかく早い。それはそれ、これはこれみたいな、すんなり割り切れる性格をしているからだろうか。
スキル無しだったら、彼女はクラスの誰よりも強いと思う。
「皆。大丈夫かしらね?今日は確か……」
「うん。魔物討伐の日…。しっかり皆を守らないとね」
「そんなに気張らないで。裕一人で戦ってる訳じゃないんだから」
「うん…。ありがとう」
異世界から召喚という名の誘拐をされた私たちは鍛練の日課として、週に一度に魔物の討伐に駆り出されている。
少し剣の練習させられた数日後に、いきなり外に連れ出されてスライムやゴブリンなんていうファンタジーな生物と戦わされた時は、半分以上が怪我を負ってしまった…。
千聖を含む数人のクラスメイトが頑張ってくれたおかげで、死人を出すことはなかったの幸いだったけど……
「もう嫌、こんな生活…。なんで私たちがこんな目に遭わなきゃいけないのよ」
「今日って確か、魔物討伐の日だったよな?」
「ああ。でもやらなきゃ国から何されるか…」
「今日も誰も死なないと良いんだけど…」
「やめてよ。不吉なこと言わないで!」
「ご、ごめん…」
食堂に着くと、クラスメイトたちが暗い雰囲気の中で食事をしていた。
皆、毎日の訓練と魔物との戦いでかなり疲弊している…。いつ自殺者が出てもおかしくない状況だ。
そうならない為に、危なそうな子を中心に毎晩メンタルケアをするようにしているけれど……本で読んだ程度の知識しかないし、正直効果があるのかわからない。
だけど皆が皆、暗い気持ちのまま毎日を過ごしている訳ではなかった。
「ご馳走さん!おい相棒。ウォーミングアップの相手しろ。今日は魔物討伐する日だろ?軽く身体あっためんぞ」
「早っ!?僕まだ食べてる最中……」
「じゃあ先行って待ってるからゆっくり食ってから来い!」
「それって優しさ?優しさなの…」
村田聖くんと安河内龍人くん
彼らも内心は不安でいっぱいのはずだ。だけど彼らだけは、いつも通りを装っている。
村田くんは元の世界からいつも喧嘩腰で、何かと先生からよく注意されていた問題児だ。
だけど……こっちの世界に来てからわかったことだけど、彼はかなり漢気のある人みたい。
実際狙ってるのかどうかはわからない。けれど、少しでも皆の不安な気持ちを払拭しようと、変わらずいつも通りでいてくれている……それがどれだけ大変なことか。
正直私も、彼のおかげで病まずに済んでるところはある。いい男は背中で語る、なんて言ってたおじいちゃんの言葉を思い出す。
しかしそんな村田くんだって、一人じゃ身が持たない。
そこを彼の幼馴染である安河内くんが、自然と支えてあげてる形だ。
村田くんからは相棒なんて呼ばれるほど信頼されていて、身体は女の子みたいに華奢でちょっと頼りないけど、剣の才能と意外と勇気があって魔物討伐ではかなり活躍してくれている。
というか何気に彼がクラスの中では一番強い。勇者武器のスキルと彼自身のスキルが正直強過ぎるのだ。
「……俺たちも、頑張らないとな」
「そうだな。元の世界に帰る為にも…」
「姉ちゃん元気かなぁ…。俺がいないとダラしないし、心配だ」
「あー。あのエロい姉ちゃんな。あれが姉ちゃんとか幸せだよな?お前」
「あんな酒カスのどこが良いって思うんだよ…」
「あのリス、私がいなくて大丈夫かな…」
「リス?」
「うちの木に野良リスが住んでるんだー。餌やったら毎日『餌寄越せ!』って集ってくるようになってさ。すっごく可愛いんだー、これが」
「へぇー!帰ったら、遊びに行きたい!」
「いいよ。来な来な!」
二人がああだから、前向きになる人も少なからずいる。
あの二人には頭が下がる思いだ。
「裕。私たちも早く食べて訓練所に行きましょ」
「ええ。一刻も早く魔王を倒して、元の世界に戻りましょう」
魔王を倒せば、元の世界に帰してくれる。
国王様とそういう約束を交わしている。正直今すぐにでも帰して欲しいけど、そんな要求は村田くんが既に出して却下されている。ほぼ人権無視である。
「そういえば、どうなってるのかしらね?」
「え。なにが?」
「篝くんよ。一ヶ月なんの報告もないし、裕が一番心配してるでしょ?」
「……………」
私たちのクラスは全員で25人。
だけどその中で、一人だけ召喚が上手くいかなかった生徒がいた。
名前は篝劣兎くん。時々一緒に話したり、委員長の仕事を手伝ったりしてくれた優しい男の子だ。
ちょっと言動が変で、ぶっきらぼうなとこもあったけど、全体的に好ましい人柄の持ち主だと思う。
そんな篝くんは、召喚用の魔法陣の欠陥のせいで別の場所へ転移してしまったらしい。
わかるのはそれくらいで、一体どこにいるのかまではわかっていない。
「黒髪黒目はこっちだと珍しいみたいだし、すぐに見つかるかと思ってたのだけど……これはあの騎士団長さんが言ってたみたいに…」
「千聖」
わかってる。そんなのはわかってる…。篝くんは騎士団の人たちが探し回ってる。だけど彼に関する情報なんて来ない。
それが何を意味するかなんて、考えなくてもわかる。
魔物なんて危険な存在が蔓延ってるような世界だ。街の外に何もわからず転移されようものなら無事ではいられないだろう。
だけど……だからって、千聖が言おうとしたことは聞きたくなかった。
「冗談でも、そんなことを言うのはやめて…」
「そう……そうね。ごめんなさい、不謹慎だったわね。今のは忘れてちょうだい。貴女だけは、篝くんの無事を信じてあげて」
「……うん」
千聖も別に悪気があった訳ではない。ただちょっと人の気持ちを考えたり、周りの空気を察したりするのが下手なだけ。
だから私も、必要以上に怒るようなことはしない。これがよく知らない子だったら怒鳴り散らしてた自信はあるけど。
またやってしまったという表情をしている千聖が、「そうだ」とある提案をして来た。
「冒険者協会に依頼を出すのはどうかしら?幸いお金は支給されてるのだし、人探しの依頼くらいなら高く付かないでしょ」
一応、私たち勇者は王都内であれば自由に出歩いても良いことになっている。
だから冒険者協会の存在も知っている。そこは迷子猫の捜索から魔物の討伐を行ってくれるから、きっと人探しの捜索も引き受けてくれるはずだ。
「……そうね。魔物討伐から帰ったら、早速行ってみようかしら」
正直なところ、私も望み薄だと思っている。
でもやらないよりはマシだ。もしかしたら身分を隠してどこかの街でひっそり生活してたり、案外冒険者でもやっているかもしれない。
……そんなおかしな妄想でもしないと、いつまでも不安で押し潰されそうだ…。
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あとずっと言い忘れてましたが、総合200ポイントありがとうございます。
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