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カガリとエレナ2

「……………知ってる天井だ…」


おはようございます。腹にポッカリ穴が空いた男、篝です。

目が覚めたら、知ってる天井の下で知ってるベッドの上で寝てました。まぁそれが普通なんだけど。


ここは猫の冠で俺と鳴が使わせてもらってる部屋だ。

知ってる天井を見られて安心ではあるのだが……


「なんで俺生きてんだろ…。確かダクネスに腹を貫かれて……ん?」


身体を起こそうとすると、右手が誰かに握られてる感覚があって、そちらを見る。


「くぅー……くぅー……カガリくんの、えっち…」


そこにはうちの可愛い可愛い鳴……ではなく、容姿はこの世で一番美し可愛いのではと見紛うエルフが、ギザギザ歯を隠すことなく口を開けて、ベッドの縁に頭を預けて眠っていた。

俺の右手を握り締めて。


「エレナさん…?なんで俺のベッドに?」


というか今どんな夢見てんだ?俺にスケベされてる夢を見てるアンタの方がえっちだろ…。

それに俺のことマジで殺す気ないのか?……ないんだろうなー、この様子だと…。なんか如何にも看病してましたーみたいな寝方してるし。


起こして事情を聞くべきか、このままそっとしておくべきか迷っていると、部屋の扉が開く音がした。

見ると、そこには今度こそ可愛い我が子がおり、驚いたような目で俺を見ていた。


「お、おはよう。鳴……お前は無事みたいで良かったよ」


エレナさんを起こさないように身体を起こして、鳴におはようの挨拶をする。

見たところ鳴には怪我は無いようだ。肩まで出ている水色のワンピース姿が可愛い。


「……バカ」

「え?」

「バカマスターーーー!」

「いきなり罵倒!?」


寝起きに娘の罵倒は効くぜ…。

鳴は瞳に涙を浮かべて、ズンズンと俺に迫って来る。


「やっと……やっと起きましたね!このバカマスターっ!何がおはようですか?私がどれだけ心配したと思っているのですか!?一週間も寝たきりで……このまま、目が覚めないものかと……うぅ〜…」

「一週間!?」


俺一週間も寝たきりだったの!?

そりゃ鳴も泣くほど心配するよな…。


「ごめん鳴。その、心配掛け過ぎちまって」

「全くですよ…。ああするのが目的なら、何もマスターお一人でやる必要はなかったじゃないですか。てっきり私では難しいのかと思って、マスターを信頼して任せましたが……う、うぅ〜…。バカ〜…!」

「わー!ごめんごめん!?そうだな、そうだったな!今考えれば鳴も一緒にダクネスを攻撃すれば良かったな!?」


空いてる手で鳴を抱き寄せて、頭を優しく撫でる。

簡単なことほど、終わってから気付くことってよくあるよな…。

鳴にだって雷撃とか、打撃の手段はあったんだ。何も俺だけでやる必要なかったじゃんって今気付いたわ。


俺ってばとことんバカだなぁ…。これからはもっと冷静に物事を考えないと。

シルバーがやられたことで、思ったより頭に血が上ってたのかも……反省だ…。


――――――――――――――――――――――――


しばらくして鳴が落ち着き、俺はベッドの縁で寝てるエレナさんを指す。


「ところで鳴。この魔族の裏切り者はどうしたの?」

「はい。その魔族の裏切り者は、私がマスターをルミナリアの門まで運んだ時に出会いまして。やはり私たちを殺す気はなかったらしく、むしろ生きて欲しかったそうです。万能薬という白金貨一枚もするポーションをマスターの空いたお腹にかけて、治してくれたのです。万能薬はその名の通り、死んでいない限りどんな傷や病気も治します」

「へぇー。そんな高価な物を、この裏切り者が…」

「はい。その裏切り者が」


「やめてー!?自分でもどっちつかずで最低なことしたって自覚あるからー!だからそれ以上ボクのこと罵倒しないで〜!」

「なんだ。起きてんじゃねぇか」


俺の右手を離して、自分の両耳を抑えるエレナさん。


やっぱり寝たフリしてたか…。

傍で俺と鳴が騒いでたのに、未だに寝てるのはおかしいと思ったんだ。

本当に寝てたらダンジョンでは寝坊助だっただろうし。


「うぅ〜…。篝くんをこんな目に遭わせてしまったし、どういう顔して話せば良いのかわからなくて……メイちゃんにも目で殺される勢いで睨まれたりもしたし」

「あはは…。逆に睨まれるだけで済んでよかったですね…」


俺たちにダクネスの情報を与えて、死にかけの俺に万能薬を使ってくれた。

それでも鳴なら、ダクネスの仲間だったってことで一発ぶん殴りそうなものだが…。俺のことになると見境いないし。


「とりあえず、エレナさん。ありがとうございました……で、いいのかな。謝るのはなんか違うだろうし」

「へっ?……なんでお礼?万能薬のこと?ボクの立場的に、別にお礼を言われることでは無いと思うけど…。本当に助けたいなら、ボクがダクネスを殺すべきだったし」


申し訳なさそうに、俺からのお礼を否定するエレナさん。

確かに俺たちを殺したくないって言うなら、初めから俺たちと一緒に戦うなりしてくれれば良かったとは思う。

でも彼女にも、俺たち以外に守りたいものがあったんだ。もしものことを考えれば、一緒に戦うことは難しいだろう。


「エレナさん言ってたじゃないですか?家族が戦争に巻き込まれない為にも、早く戦争を終わらせたいから魔王軍に入ったって。そっちの方が優勢とかで」

「う、うん。そうだけど…」

「なのに俺たちの為に、魔王軍を裏切るようなことをしてくれたんですよ?家族よりも俺たちを選んだみたいなもんじゃないですか」

「……………あ!そっか……そうなるのか!?」

「そこは自覚なかったんかい!?」


エレナさんが「あちゃー…」と天を仰ぐ。

完全に失念していたようだ。ドジというかマヌケ…。


「う〜ん、そっかぁ…。そうなっちゃうのか〜。いいや!気にしない、気にしない!そのくらいボクにとって、カガリくんたちが大切なんだってことなんだし!」

「お、おおぅ…。そうですか」


なんかそう言われると照れるな…。

家族同然に見ているって言われてるみたいで。


「だけど、これからどうするんです?魔王軍を裏切ったとなると、家族に矛先が向いちゃうんじゃ…」

「あー。大丈夫大丈夫。ダクネスのことは裏切ったけど、魔王軍は裏切ってないから」

「ん?どういうこと?」

「すっごい屁理屈になるんだけどね。カガリくんたちを殺すっていうのは、ぶっちゃけダクネスの独断なの。だけどボクはそれに反対だったから、手を貸さなかった。つまり!魔王軍の命令じゃない訳だから、ボクは裏切ったことにはならないのだー!……ダメ?」

「いやダメだろ。仲間裏切ってんだから」

「やっぱそうだよね〜…」


ズーンと俯いて人差し指同士でつんつんするエレナさん。

後悔先に立たず、と言うやつだ。


「……エレナさん。それについて、私からよろしいでしょうか?」

「ん?なに?メイちゃん」


鳴が厳しい顔付きをしながら、手を上げる。


「エレナさんが事前に情報提供してくれたので、ダクネスを倒すことが出来ました。瀕死の状態になってしまいましたが、闇の衣の存在を知っていなければ、初手でマスターは殺されていました。これもエレナさんのおかげです。万能薬の件も含め、そこは大変感謝しております」

「う、うん。どういたしまし、て?」

「ですが正直、エレナさんに思うところは無くはないです。今でも魔王軍の人間であるとご自分でおっしゃっている訳ですから。そんな貴女とこのまま関わっていては、またマスターに危険が降り掛かるかもしれません。ですので私としては、今後一切マスターとは関わらないで頂きたく思っています」

「おい鳴!いくらなんでもそれは……」


「いいよ、カガリくん。メイちゃんの言うことは正しいよ」

「エレナさん…」


確かにエレナさんは魔王軍に属してる身だ。本人もまだそのつもりみたいだし、関われば何に巻き込まれるかわかったもんじゃないだろう。

でも、だからって……


「しかし、です」

「「?」」


だけど鳴の話は終わっておらず、彼女は話を続けた。


「このままエレナさんとの関わりを絶ったところで、魔王軍から刺客が送り込まれて来なくなる訳ではありません。魔王軍はルミナリアを落とし、人間を挟み撃ちにするおつもりなのですよね?」

「う、うん…。しばらくは大丈夫だと思うけど、その内またルミナリアに侵攻するかもしれない。一端のスパイでしかないボクには、それを止める権利はないし」


そうか…。ダクネスを倒して安心してたけど、ルミナリア侵攻計画は頓挫した訳じゃない。

やがて次の魔族が送り込まれて来るだろう。


「つまりどっちにしても、マスターは危険な目に遭ってしまいます。例えエレナさんが私たちの存在を秘匿しようとも、いずれ存在がバレて、ダクネス以上の刺客が送り込まれるはずです」


「そうだな…。エレナさん。ダクネスって魔王軍の中じゃあ、どれくらいの強さなんですか?」

「うーん…。中の下くらい?」

「うっそだろ…」


あんな厄介なスキルを使う奴が真ん中より下なのかよ…。

勘弁してくれ、俺は鳴にこれ以上の心配はかけたくないんだ(自分が死ぬことよりも怖い)。


「そこで提案なのですが……エレナさんも、マスターをこれ以上危険な目には合わせたくないのですよね?」

「う、うん!それはもちろん。だからさっきメイちゃんが言った通り、関わらないようにしようかなって…」

「ですがそれでは、なんの解決にもなりません。なので……非常に、ひっじょ〜〜〜に、不服なのですが……」

「は、はい。なんでしょうか」


姿勢を正して、鳴の次の言葉を待つエレナさん。

その鳴の提案とは……


「マスターの……“奴隷”になっていただけますか?」

「「……………」」


鳴のとんでもない提案に、俺とエレナさんは理解が追い付かず、互いに視線を合わせる。

そして……


「「えーーーーーーーーッ!?!?!?」」


二人一緒に、驚きの声を上げた。

それはあまりにも失礼な提案な気がしたので、俺は即座に鳴を正座と謝罪をさせた。

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