VSダクネス1
前を開けた状態で素肌の上から着ている、袖の短い茶色のジャケットに、黒の長ズボン。
赤い瞳に浅黒い肌、頭に細めの角が二本。そして空を飛ぶ為の大きな翼。
それがエレナさんの仲間であるはずの魔族、ダクネスの姿と格好だった。
睨むだけで殺せそうな鋭い目付きとギザギザ歯が相俟って、まさに魔族って感じだ。
「ギザギザ歯……いいねぇ」
「マスター?」
「おっといけない」
大好きなギザギザ歯に俺の中のヲタク魂が反応してしまった。
しかし相手は男。同性相手は興奮度は下がる。
この森に着いてすぐ、鳴の人力レーダーで一つだけ強そうな気配を感知し、それを頼りに進んでみたところ。
紙に書いてあったダクネスと特徴が合致する人物を発見した。
エレナさんがこの場におらず、困惑しながらも鳴がシルバーに乗って突撃したという感じだ。
不意打ちは気が引けると止めたけど、「殺し合いに卑怯なんてありませんよ」と押し切られてしまった。
「くそ!?どういうことなんだ、エレナッ!」
そしてそのダクネスはというと、エレナさんが俺たちを殺しに向かったと思っていたようだ。
俺はここでエレナさんと戦うことになると思ってたんだけど……
「エレナさん。まさか呼び出し場所を間違ったか?」
いやでも、いくらドジだからってそんなこと……若干ありそうで怖いけど、ないだろ〜…。
「おい!テメェ…」
ダクネスが話しやすい位置までゆっくりと降りて来て話し掛けて来る。
「ここにエレナがいると思ってたってことは、お前らはここに呼び出されて来たんだな?」
「ああ。ほら、これ…」
紙を開いてダクネスに見せる。
ここには間違いなく、この森で待つということが書かれている。あとダクネスのこととかも。
「な、なんだそりゃ……まさかアイツ、俺を嵌めたのか…!?」
紙の内容を見たダクネスが激しく狼狽した様子を見せる。
俺は未だにちんぷんかんぷんで、鳴に説明を求めた。
「鳴。これってどういうことなんだ?なんかエレナさんが嵌めたとか言ってるけど…」
「……予想ですが、エレナさんは自身の手でマスターを殺したくなかったのかもしれません」
「殺したくなかった?」
「はい。そして恐らく、このダクネスという魔族に殺されて欲しくないのかと思います。『ここが私たちの墓場』という言葉が、半分正解で半分嘘のように感じた。というのは、ここでダクネスに殺されれば、ここが本当の墓場となる。しかしエレナさんの本心としては、墓場になんてなって欲しくない。そういうことだと、私は思います」
「えっと……それってつまり、エレナさんは魔族を裏切ったってことになるのか?」
「どうでしょうか。本当に裏切ったのなら、とっくに自分の手でダクネスをやりそうですけどね。この方は、エレナさんほど強くないですし」
「鳴さん?」
急に相手を煽るような発言をする鳴にビックリ。
見ろ。ダクネスがわなわなと震えているぞ!
「エレナの奴……あとでキッチリ説明してもらうからなーッ!ダークネイル!」
激昂し出したダクネスは、身体から黒いオーラのような物を出して自身の腕に纏わせた。
纏わせた黒いオーラは巨大な鋭い爪のような形に変化する。エレナさんと同等の殺気を感じる……彼女と一緒に冒険してなかったら、このプレッシャーに押し潰されてたかもしれない。
「……俺は、戦争に興味がない。ルミナリアから手を引くのであれば、俺たちは一切関与しない。不意打ちしておいてなんだけど、ここは引いてくれないか?」
「はん!なんだよ、もう俺に勝ったつもりか?そういうのは圧倒的強者が言うセリフだ。そこのガキが言う通り、俺はエレナより数段劣る。アイツはハッキリ言って天才だからな。だが……だからといって、テメェら如きにやられるほど弱くはねぇんだよ。それに……」
ダクネスは天高く飛び上がり、急降下して襲い掛かってきた。
「いずれ脅威と成りうる勇者を、野放しに出来っかよ!」
「マスター!」
「うおっ!?」
回避しようとしたら、鳴に腕を引っ張られて光速で連れてかれた。
―――サンッ!……ズズーン!
俺たちがいたところの周辺の木々全てが、豆腐のように簡単に切れてしまった。
……うわ。マジで爪伸びてた…。エレナさんの紙に書いてあった通りだ。
鳴に助けてもらわなかったら、俺じゃ避け切れなかったな。
ダクネスは近距離戦を得意としていて、『闇の衣』というスキルを持っていると紙に書いてあった。
闇の衣は変幻自在で、あの黒いオーラを武器にも盾にも出来る便利なスキルらしい。
ある程度伸び縮みさせることも可能。執事勇者先輩の短剣に比べれば、あまり理不尽さは感じないがな。
「勘がいいな。女」
「女ではありますが、鳴と申します。あとエレナさんから貴方の情報は全て伺っておりますので、勘ではございません」
「ああそうだったな!だからどうしたよ!?」
ダクネスは自分の手の内がバレてるからか、それとも元からそういう戦闘スタイルなのか、ただ真正面から突っ込んで来て爪を振り下ろしてくる。
「マスター!」
「大丈夫だ。避け切れないなら、受ければいい!」
ダクネスの爪攻撃にハンマーを振り上げてぶつけた!
パワーは……今のところ互角か。ギリギリと鍔迫り合いをする形となる。
向こうが全力出してるとは思えないけど。
「ちっ!発想がハンマー女かよ!?」
「ハンマー女?」
「雷撃!」
鍔迫り合いしている横から、鳴が拳を振るうが、ダクネスはまた舌打ちして空へ飛ぶことでそれを回避。
そこへシルバーがライトニングブラストを放つが、爪で切られて防がれてしまった。
電気の玉を切るとか、リアルに出来るんだな…。
「あ〜クソ!邪魔だなこの馬ぁ!?」
その場で爪を振り下ろして、空中からシルバーに向かって斬撃が飛ばされた。
しかしそんな物が鳴並に速いシルバーに当たるはずもなく、後ろの木を両断するだけだった。
……これで『飛ぶ斬撃を見たことあるか?』と聞かれたら、あるって答えられるな。
そんな馬鹿なことを考えていると、今度は俺と鳴に向かって斬撃が飛んで来る。
鳴は横に、俺は上へジャンプすることで躱すと、そこへ追撃を掛けるようにしてもう一度俺に斬撃が飛んで来る。
それをハンマーでぶっ叩くことで打ち消すが、斬撃の後ろからダクネスが迫って来ていた。
「空飛ぶ相手に空中へ逃げるとか、戦闘がなってねぇなー!」
邪悪そうな笑みを浮かべながら突っ込んで来るダクネス。確かに空中で自在に動き回れる奴相手にこれは悪手だろう。
だけど俺だって無策で飛んだ訳じゃない。むしろ敢えて飛んだまである。
「頼む……シュリさん!」
ハンマーを振り上げ、ハンマーに宿っている魂に声を掛ける。
するとハンマーは光り輝き、『俺との息を合わせてくれた』。
「なっ!?」
「落ちろ!スレッジ、ハンマーッ!」
ダクネスが爪を振るうより先にハンマーを振り下ろす。
それは今まで行って来たどの攻撃よりも、鋭く、重い一撃となった。
―――ズガーンッ!……ドーン!
闇の衣を纏わせた腕をクロスして防御するも、ダクネスは耐え切れず地面に叩き落とされた。
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