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付喪神

「マスター。大丈夫ですか?」


エレナさんが帰り、部屋へ戻ったあと。

内心少しショックを受けてる俺をしばらくそっとしておいてくれた鳴が、話し掛けてくる。(なお食堂でさらにおかわりしていた)

ベッドで横になっている俺の顔を覗き込んでいる彼女の顔は無表情だが、心の底から心配してくれていることはわかる。


「……まぁ。面と向かって殺すと言われたらな…」


そこが君たちの墓場……暗に殺すと言っているようなもの。

魔王軍へのスカウトに失敗したら容赦なく殺して来たと言っていたし、覚悟はしていた。

彼女の正体を知っちゃった訳だし。


「でもそれよりも、違和感があったことの方が気になる」

「違和感?例のスキルですか」

「ああ。エレナさんは紙に書いてある場所が俺たちの墓場だって言っていたけど、薄らと違和感を感じた」

「……ということは、彼女に私たちを殺す気はないと?」

「うーん。わからん。今までと違って、嘘ってハッキリわかるタイプの感じじゃなかった。予想だけど、半分本当で半分嘘ってやつなんだと思う」


これがどんな意味を持つのかまではわからない。

エレナさんと戦って、負けたら死。勝てば生きれる。そんな風に考えてみたけど、彼女が俺たちに負けるだなんて思ってるとは考えられない。


人の考えなんて他人にはわからないものだけど、エレナさんの考えはそれ以上にわからない。

おふざけキャラだからだろうか?それとも彼女がスパイだから、まだ本性を隠してるかもしれないから?


「あの言葉がずーっと引っ掛かっているせいで、凄く気持ち悪い…。エレナさんと戦いたくねぇって気持ちもあるけどさ」

「……彼女が何を考えていようと、あの殺気は本物でした。どうなろうとも、戦うことは避けられないでしょう。というより、マスターにあんなこと言ったのです。私は今からでも殺しに行きたいくらいです」


鳴が毅然とした態度で言う。

頼もしいねぇ。メリハリがしっかりしていて。

あの人の人柄を知る前だったらいざ知らず、知ってしまった今は鳴のように割り切れない。


「ところで、私たちを呼び付けた場所はどこですか?その紙に書いてあるのですよね」

「ああ…。実はまだ見てないんだ。ずっとエレナさんのことばかり考えてたから」


別に後で確認するでも良かったしな。

それに、それよりも確認したいこともあったし。


「なぁ鳴。明日、どうしてもエレナさんと戦うことになるんだよな?」

「はい。それは避けられないと考えた方がよろしいかと」

「……じゃあ。このハンマーについて、知ってることを教えてくれないか?」


そう言って俺はベッドから起き上がり、勇者のハンマー……先輩勇者であろうシュリさんが持っていたハンマーを手に取る。

鳴はこのハンマーについて絶対知っている。女神様から貰った知識で。


「それは……」

「あの場だとエレナさんもいたし、言い渋るにはわかる。でもなんで今もそうやって渋る必要があるんだ?このハンマーに嘘を感知するスキル以外に何かあるなら、それを教えてくれ。少しでもエレナさんに勝てる可能性を上げる為に。頼む!」

「……………」


頭を下げて頼み込む。しかし鳴は視線をウロウロさせて、悩む素振りをする。

鳴は精霊故に、いつも俺のことを考えて行動している。

そんな彼女がこんな風に言い渋るということは……


「もしかして、かなり危険なスキルなのか?」

「……いえ。危険はありません。むしろ勇者武器の中でも、かなり扱い安いと言えるでしょう。そのハンマーに認められたマスターなら、尚更」

「じゃあなんでそんなに渋るんだ?何か理由があるなら、せめてそれだけでも教えてくれ」


また悩む素振りを見せる鳴だが、やがて決心したように俺の目を見て、口を開いた。


「マスターは、家族というものが好きなのですよね?」

「? あ、ああ。そうだけど。暖かい家庭ってのを知ってからは、それを俺も作りたいって思うくらいには」


急な質問に困惑しつつ、素直に答える。

一体それがどうしたと言うのだろうか?


「家族に対する想いが強いマスターに、そのハンマー……『付喪神』のことを知ったら、あのオークキングに負い目を感じてしまうのではと思って、話していませんでした」


俺がオークキングに負い目を?それだったら大事な奥さんの形見を預けてもらった時から、ずっと感じてるんだけど…。

いくら自分で持てないとはいえ、このハンマーを俺に預けるのはかなり苦渋の決断だっただろうし。


「……待てよ。付喪神?」


ハンマーの名前であろうそれを反芻する。

付喪神って言ったら、物に魂が宿って生き物になるとかいうアレのことか?

俗に妖怪って呼ばれる類の。


「マスターの世界にも、付喪神というものがあるのですか?」

「ああ。大事に扱われた物とかに魂が宿るってことくらいしか知らないけど。それで?なんとなく名前でわかるけど、この付喪神のスキルはなんなんだ?」


大方ハンマーには魂が宿っていて、その魂でどうにかするスキルなんだろうと予想しながら説明を求める。


―――結果的には、俺の予想は当たっていた。だけど宿ってる魂が、俺にとっては問題だった。


「スキル名は同じく、付喪神と言います。スキル名をそのままハンマーの名前にしたそうです。それでその効果ですが―――『付喪神に認められた持ち主が死ぬと、その人の魂が宿り、付喪神になる』というものです。つまりそのハンマーには……オークキングの奥さんである、シュリさんの魂が宿っていることになります」

「ノーーー!?」


衝撃の事実に素っ頓狂な声が出て、そっと壁に立て掛けて「今まで雑にぶん回してすみませんでした!」と土下座した。

……なんか一瞬ハンマーが光った気がした。

オークキングがシュリみたいな戦い方と言っていたことに繋がります。


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