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ルドルフ・アッシュバーン

「これは……一体何があったんだ?」


 ルドルフさんが周りの惨状を見て呆れたような声で言う。


 正座中のお膝の上に鳴を乗っけてこんにちは。篝です。足が痺れて地味にキツイですが、そんなことはどうでもいい。

 今俺の周りには見るも無残な武器の残骸が転がってるのだから。全部廃棄予定だった物だからお咎めはないらしいけど、一応の贖罪で鳴を重りにして罰ゲーム中です。


「パパが壊してしまいました。すみません」

「俺が壊しました。すみません…」


「いや。所詮は練習用だから、それは構わないのだが……剣、槍、斧、しかもこっちは昔俺が愛用していた大剣じゃないか?根元からぽっきり行ってるな…」

「ゴメンナサイ…」

「別に責めてる訳ではない。本当に気にするな。ただ、一体何をしたらこんな壊れ方をする?」

「そこの丸太を叩いたら、ぽっきりと…」


 そう。俺は倉庫の中に入っていた武器を一種類ずつ試し斬りや試し突きなどを行っていたのだ。

 別に壊してもいい武器だからってことで遠慮なく振ってみたけど、まさか全部壊れるとか思わないじゃん…。


「ふむ……スキルの恩恵が大き過ぎるのかもしれないな。並みの武器では君の力に耐えられないのだろう。斬るのではなく、殴るタイプ……ハンマーなどが合うだろうな」

「はい。参考に致します…」

「そう落ち込むな。武器が悪かっただけだ。君は悪くない」


 うぅ…。ルドルフさんの優しさが沁みる…。

 よくよく考えたら、壊していいって言っても一応他の人も使う奴だろうから安易に壊しちゃいけなかったよな…。


「パパ。元気出してください。パパの力が凄いってことではないですか。胸を張るべきです」

「くぅ~。鳴の優しさも沁みる~!」


「おいおい、とんでもない奴連れて来たなぁ。ルドルフ。使い古されたとはいえ、お前が愛用していた大剣が簡単に壊れされちまうなんて」

「ああ。だからこそ、冒険者に勧誘して正解だっただろう?」

「まぁな。心強いこった」


 ルドルフさんと一緒に来たのは、口に小枝のような物を加えた、作業服みたいなのを着た30代っぽい男性だった。

 ルドルフさんと同じ水色の髪に無精ひげ。目付きは鋭いが、どことなくルドルフさんと似ていた。


「そちらの方が?」

「ああ。鑑定士兼素材の換金を担当している、ロザリオだ。俺の実の兄でもある」


「あ。通りで似てると思った。カガリです。こっちは娘の鳴。よろしくお願いします」

「ああ。よろしくな」


 体格は冒険者のルドルフさんの方がいいが、ロザリオさんも鍛えているのか、細くとも結構ガッチリしてそうな身体をしている。


「ツインホーンベアーか…。皮がほとんど駄目になっちまってるが、まぁ爪と牙。それと角は比較的無事だし、解体してみなきゃわからんが、肉も売れるところがありゃ良い値になんだろ」

「頼めるか?」

「もちろんだ。少し時間が掛かるから、その間に冒険者登録を済ませちまえよ」

「了解した。カガリ君、メイちゃん。着いて来てくれるか」


「はい。それじゃ、お願いします」

「あいよ。任された」


 無愛想だが、根は良い人ってタイプか。

 ルドルフさんの兄弟だもんな。やっぱそこは似てるか。


 ルドルフさんと一緒にギルドの中へ向かう途中で、ロザリオさんと同じ格好した人たちとすれ違った。

 デッカい荷車を持ってったから、ツインホーンベアーの死体を運ぶのだろう。


――――――――――――――――――――――――


 ギルドの中に入ると、中は大勢の武器を持った人たちの喧騒で溢れていた。

 うへぇ。街中でも見かけたけど、こうも武器を持った人がいっぱいいると、純日本人の俺は萎縮しちまうぜ…。


「ん?おいあれ、例の男と子どもじゃねぇか?」

「おん?おいおい。なんだありゃ?とてもツインホーンベアーを倒せるようには見えねぇけどな?」

「だが死体を運んでたって話だ。それにルドルフも一緒にいる。やっぱ討伐隊の報告は本当なんじゃねぇのか」

「……なぁ、それよりよ。あのガキ偉い美人じゃねぇか?将来が楽しみだな」

「やめろ。変態っぽいぞ…」


 なんかまた注目されてるな。しばらく視線は避けられなさそうだな。


「つってもツインホーンベアーを倒しただけでもこれだし、これからも偉い注目されそうだな。鳴」

「? はい。パパが注目されるのは、私としても嬉しいです」

「俺よりもたぶん、鳴が注目されると思うけどな…」


「パッ!?おいおい、アイツあんな見た目で結構歳行ってんのかよ…」

「顔若すぎんだろ…。どういう生活したらあんな若さ保てんだ」


 ……今のところ。俺は顔が若いお父さんってことで注目されそうだな…。


「いらっしゃいませ。カガリさんとメイさんですね。ルドルフさんから話は伺っております。さっそく冒険者登録をしますか?」


 ルドルフさんに案内された受付へ行くと、受付嬢のお姉さんが笑顔で応対してくれる。

 茶髪で童顔。人懐っこそうな笑顔に見える。


「はい。お願いします」

「かしこまりました。本来は10歳以下のお子さんの登録は行えないのですが、ルドルフさんの紹介ということで、特別に登録させていただきます」


「……ルドルフさんって、実は結構偉い人ですか?」

「そこそこな。Bランクになると、こういう特別推薦も出来るようになるんだ」

「へぇ~」


 Bランク……それってどれくらい凄いのだろうか?

 この辺りの知識も鳴が知ってそうだし、後で纏めて聞くことにしよう。


「では、こちらの紙にお名前とご年齢、それからスキル名をご記入ください」

「はい。……………ほぅ。なるほど」

「どうかなさいましたか?」

「いえ。なんでもないです」


 ビビった~。全くわからない字が書かれてたから一瞬戸惑ったが、何故か知らんが読めるようだ。

 これも女神様が付けてくれたサービスか?サービス旺盛すぎて“ちょっと”の概念が覆りそうなんだが…。


「あれ?なぁ鳴。この世界の家名って、普通の一般人でも持ってるの?」

「はい。持ってない人もいますが、大抵は家名を持っています」

「良かった…。せっかく考えた家名が台無しになるところだった」


 小声で鳴に確認を取った俺は、稲光も含めて名前と年齢を書いていく。

 あとはスキルか…。鳴が精霊だってことは隠してるんだし、精霊魔法使いを書く訳にはいかないだろう。


「すみません。スキルは産まれつき持っているのですが、よくわからなくて…」

「まあ!“神に愛された子”でしたか!ちなみに、スキルの特徴などは?」

「えっと。わかってるのは力が強いことと、体力が多いことですね。あと意識しなくてもそんな感じなので、たぶん常時発動型です」

「パッシブ系の身体能力強化ですか。でしたら、そのまま『パッシブ身体強化』で良いと思います」

「はい。わかりました」


「……書けました」

「あ。はーい。メイさんも『パッシブ身体強化』と……えっ?『雷魔法』…?あの、ルドルフさん。これって…」


 鳴の用紙を受け取った受付嬢は、信じられない物でも見るかのような反応をして、ルドルフさんに視線を送る。

 事前に雷魔法のこと説明してなかったのか?


「な?凄い新人だろ」

「なるほど理解。ルドルフさん、そこはちゃんと説明しないといけなかったのでは?」


 大方『凄い奴を連れて来たから登録してやってくれ』くらいしか説明してなかったんだろ。

 報・連・相。これ大事…。


「この事を知った時の反応をじっくり見たかったのでな。少々意地悪をしてしまった」

「子どもか?」

「童心を忘れていない、と言って欲しいな」


 この人、意外とお茶目らしい。でもやっぱり事前の説明は大事だと思いまーす。

 ほらぁ。受付嬢さんが呆れたような表情で睨んでますよ?


「全くルドルフさんは…。詳しい説明も無かったので怪しいとは思いましたが、こういうことでしたか…。確かにこれならツインホーンベアーの討伐も可能でしょうし、特別推薦もしたくなりますね」

「ちなみに彼女も“神に愛された子”のようだ」

「はぁ。まさか複合属性魔法の雷を先天性スキルとして授かるなんて……しかもダブルですか。本当にとんでもない子ですね。将来が楽しみなような、不安なような…」


 ……わからん!マジで何の話をしてらっしゃるの?

 でもとりあえず、うちの子が褒められてるってことだけはわかる。


「私はパパに愛されてるだけでなく、神様にも愛されてるのですか?」

「ええ。貴女は相当、神に愛されていますよ」


 だろうな。実際愛してなきゃこんなハイスペックにはしないだろ…。


 チートらしいチートは授けないって言っててこれなんだから、ガチのチートスキルとかあったらどうなるんだろうな?

 地面や海を容易く割ったりするくらいは出来そうだよなぁ。


――――――――――――――――――――――――


 紙を提出してしばらく、受付嬢からクレジットカードのような木の板を貰った。


「それは冒険者カードです。身分証明書にもなりますので、絶対に無くさないように気を付けてくださいね。再発行も可能ですが、その際は銀貨一枚お支払い頂きます。ただ、やむを得ない事情があった場合は無料で再発行致します。例えば、盗難に遭ったとか」

「なるほど。了解です」

「カガリさんとメイさんは、Fランクからのスタートになります。クエストの達成率に応じて、昇級試験の資格を得ることが出来ます。試験内容はその時によって変わりますので、当日になるまでわかりません」

「昇級試験か…」


 試験て聞くと、学校のテストを思い出すな。筆記テストとかもあるのだろうか?

 ……そういえば、クラスの連中は大丈夫だろうか?確証はないけど、個人的にはほぼ確定でクラス召喚の失敗で俺が女神様の所に送られたんだと思ってる。


 特に桐山委員長。あの人はいつもボッチの俺のことを気に掛けてくれてたからな。心配だ。


「クエストはあちらの掲示板に貼られておりますので、そちらから自分に合った物をお選びください。クエストは自分の同等のランクと一つ上のランクの物しか受けれませんので、注意してくださいね」


 一つ上ってなると、Eランクか。もうすぐ夕方だし、どんなクエストが貼られてるのかだけ見ておくか。

 それにクエストを受ける前に俺自身の戦闘スキルも上げておきたいし。


「それと、クエストを一ヶ月間一つも達成していない者は冒険者資格剝奪となりますので、そこもお気を付けください」

「あ。はい。わかりました…」


 一ヶ月か…。その間に出来るだけ特訓しよう。

 ……あーでも、下のランクの魔物の強さによっては実戦を通して練習した方が捗るか?

 この辺は鳴と相談かな。


「これで登録は完了です。お二人のご活躍を期待していますね!」


 笑顔で期待しているという受付嬢の言葉を受けて、俺たちは受付から離れる。

 俺はともかくとして、鳴のスキルは本当に強いからな。きっとお世辞でもなんでもなく、期待はしてるだろう。


「鑑定が終わるまでもうしばらく掛かるだろう。どうする?今日はもう宿を取って、明日改めることも出来るが」

「そうですね~…。図書館などがあれば、そこで時間を潰すでも良いんですけど…」

「それならギルドの書庫を使うといい。冒険者であれば誰でも利用出来る。鑑定が終わったら呼びに行くから、ゆっくり読むといい」

「いいんですか?そんな甘えちゃって…」

「気にするな。優秀な人材を育てる為の手間だと思えば、どうってことない」


 この人は本当に良い人すぎるな。頭が下がる思いだ。

 それと同時に心が痛む。こんな良い人を騙してるんだからな…。

 この人だけにでも、その内ちゃんと説明しないとだな。


「……………」

「ん?どうした鳴。ルドルフさんの顔に何か付いてるか?」

「いえ。パパ以外にもこんなに優しい人がいるんだなと思いまして…」


「ははは。そうか。メイちゃんに優しい人認定されるのは、悪い気はしないな」

「はい。ルドルフさんは優しいです……とっても」


――――――――――――――――――――――――


―――ルドルフ・アッシュバーン―――


「ロザリオ。鑑定の方はどうだ?」

「ルドルフか。悪いが、もうちっと掛かりそうだ」


 兄ロザリオがツインホーンベアーの解体を終え、肉の鑑定を行っていた。

 相変わらずこのギルドの、というよりロザリオの作業班の手際は良いな。他のギルドであれば、こんなに早く解体まで終わらせてなどいない。


「それでよルドルフ……」


 ロザリオが神妙な面持ちで、鑑定しながら話し掛けて来る

 そして……




「お前、どうしてアイツら信用してんだ?片っぽ人間じゃねぇだろ。アレ…」




 やはりロザリオも気付いていたか。冒険者を引退しても、その目の良さは健在か。


「ああ。悪意は感じなかったのでな。少なくとも魔族ではないだろう」

「それは俺にもわかる。だけどお前は騙されやすいからなぁ…。心配だよ俺ぁ」

「きっと大丈夫さ。少なくともカガリ君に寄せるメイちゃんの気持ちに、噓は感じられなかった。それに……」


 俺はツインホーンベアーの焦げた毛皮を見ながら言う。


「もしルミナリアに害を及ぼす奴らだった場合は……俺があの二人を殺すさ」

面白かったらいいねと高評価をお願いします。

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