エレナさんの嘘?
半日寝てました。こんな時間の投稿になってすみません…。
「それでは皆様、帰りの道中もお気をつけて」
「はい。貴方もお元気で」
先輩勇者の指パッチンで、帰還用の転移魔法陣が出されて、俺たち十数日ぶりに外へ出た。
ギルドが懸念していたダンジョンから魔物が溢れ出すという件だが、「仕掛けには凝ったが、魔物が外へ溢れ出るような設定はしていなかった」とのことで、特に問題ない。
その仕掛けのせいで、俺たちは全フロアを攻略する羽目になったんだよな…。一言文句を言いたくなったが、彼が国から身を守る為の自衛手段だと思えば強く責められなかった。
先輩勇者と別れ、出た場所はダンジョンの入口前だった。なお夜である。
「「やったー!外だーっ!」」
「マスターもエレナさんも、凄い嬉しそうですね」
エレナさんと二人して喜んでいると、鳴とシルバーから冷めた目で見つめられる。
「仕方ないだろ。マジで頭がどうにかなりそうだったんだから…」
「うんうん。その気持ちはよーくわかるよ。嫌だよね〜、あんな薄暗いところで長時間滞在するの」
「「ねー」」
「お気持ちはお察ししますが、今は真夜中の時間帯です。夜行性の魔物は耳が良いのも多いですし、あまり騒ぐのはよろしくないかと」
それはご最も…。
途中からは少しの慣れもあって、なんとか平常心を保っていられたが……やっと出られた安心感と、外の新鮮な空気を吸ったことで感情の昂りが抑えられなくなってしまった。
まぁ調子に乗る訳じゃないが、この辺の魔物なんて精々がCランクだろ。
襲って来ても返り討ちに出来る。主にエレナさんが。
「夜か〜。確かルミナリアは夜だと門は閉まっちゃってるんだよね。ちゃんと門番はいるけど」
「それって今からじゃ、街に入れないってことですか?」
「ううん。そういう訳じゃないけど、夜間の出入りには長い手続きがあってね。夜に運ばれる物って怪しい物資とかも多いし、手荷物検査とかもあるんだよね」
手荷物検査……それってつまり、俺たちがミスリルやヒヒイロカネを持ってることがバレるってことか。
それは絶対に嫌だ。バレたら国に没収されるじゃん。
どこかで国に内緒で加工してくれる鍛冶屋のおっさんか、エロい姉御(本命)みたいな人に会うまでバッグの肥やしにしてやるんだよ。
「ミスリルとヒヒイロカネの為にも、ここで一泊したいと思うんですが、反対の人いますかー?」
「異議なーし!ボクも国のバカに渡すくらいなら自分で持っときたい」
「私も特に問題ありません。夜間の見張りは私とシルバーにお任せください」
「ブルルッ!」
と、満場一致で帰るのは翌朝にして、今日はダンジョンの前で寝泊まりすることになった。
調理器具を用意し、休憩所からいくらかパクっておいた薪と着火剤で火をつける。
今度遊びに来たらパクったことを先輩勇者に謝らないと…。
「鳴。リクエストは決まったか?」
「はい。色々なお肉を使った卵とじを食べてみたいです」
「おっけー」
思ったよりもかなり手軽なリクエストを頂いた。米が欲しくなるが、ないのでパンで我慢だ。
卵はあと……四十個くらい余ってるな。
鳴を満足させるには足りないが、肉を多めに入れれば問題ない。なにせダンジョンで手に入れた魔物肉は大量に余ってるし。
エレナさんに預かってもらっていた肉も出してもらって、さっそく調理を開始する。
使う肉はオーク、ミノタウロス、ビッグサーペントだ。あとは街で買っておいた鶏肉も使うとしよう。
思えばこのダンジョンには鳥系の魔物がいなかったな?鶏の魔物とかいても良さそうなんだけど。
その辺のダンジョンの仕組みとかも聞いてみようかな。
「ところでエレナさん」
「なに〜?」
「疑うようなことはしたくないって言いましたけど……やっぱり、どうしても気になってしまって。隠してること、教えてくれませんか?」
肉を一口大に切りながら、エレナさんに聞く。
彼女はこの依頼の最中。時々俺たちに何かを誤魔化したり、嘘を吐いたりしていた。
それがハンマーに宿ってるスキルでわかることがわかった今、どうしても不安を感じずにはいられない。
「……そう、だよね。自分に隠し事をしてる人が傍にいるっていうのは、不安だよね」
「すみません…」
「いいよいいよ。ボクが悪いんだし、君たちには本当のことを話した方が良さそうとは思ってたんだ。そうだな〜……ボクが嘘を吐いていた部分から説明していこうかな」
蛇肉をミンチにして骨を砕いている横で、エレナさんはポツポツと説明し始めた。
「まずは簡単なところから。ダンジョンに入る前、ボクがまだ一人のタンクとして働いていた話はしたよね?嫌なことがあったけど、もう気にしてないって。実は、めっちゃ気にしてました!」
「それはまぁ……スキルがなくてもわかります。凄い寂しそうでしたし」
「うん。パーティ組んでた人たちをちゃんと守れなくてね。生きてはいるよ!ただ大怪我を負った影響で、皆戦うのが怖くなっちゃってね。ボクと気が合う数少ない仲間だったから……一緒に冒険者が出来なくなったのが、今でもかなり寂しいんだ。ボクってば、賑やかなのが好きだから」
俯いて、今度は笑顔を作らずに本当に寂しそうな顔で言う。
「すみません…。それは言わなくていいって言えば良かったですね」
「ううん。不誠実なまま終わるのは嫌いだから、この際全部話しておきたいんだ」
エレナさんは次に、シルバーのことについて触れた。
シルバーの種族のことである。やっぱり知っていたらしい。
「確証はないし、ボクも御伽噺でしか聞いた事ないんだけどね。シルバーは『麒麟』っていう伝説の魔物の特徴とほぼ一致してるんだ。雷を操る黒馬、白い雲のような羽衣。鳴ちゃんが召喚した影響なのか、鬣は銀色だけど、御伽噺じゃ本来はこっちも白いらしいよ」
「へぇ〜。ちなみにランクは?」
「さぁ?実在したかどうかも怪しい存在だったからね。たぶんAランクはあると思うけど。あ!あとね、シルバーはこれで子どもサイズだと思うよ。大人はこの三倍は大きいらしいし」
「マジでか」
これでも十分デカいのに、ここから大きくなるのか。
やばいなこの世界の麒麟。うちの世界じゃ普通サイズのように見えたけど。見たのはビール缶のやつだけど…。
肉を焼き始めると、次の説明に移った。
「ボクが君のことを、『理想の男の子だ。お婿さんになって』って言ってたことなんだけど…。あれ、嘘でした!ごめんないっ!」
「……………はっ?」
思わず思考が停止し、間抜けな声が出る。
え?うん?嘘…。いやでも、あれ?なんかちょっと頭が混乱してきた…。
「どうしたの?カガリくん。嘘だってわかってたんじゃないの?」
「え?いやだって……貴女のプロポーズ、全部“スキルに引っ掛かりませんでしたよ”?」
「……………へぇっ?」
エレナさんも間抜けな声を出して、しばらく固まってしまった。
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