先輩4
「武器にスキルが宿ってるーッ!?何それ、有り得なくない?魔法陣を武器に仕込むのとは訳が違うでしょ」
エレナさんが思わず立ち上がって、興奮した様子で言う。
この世界のことについて、まだよく知らない俺でもなんとなくわかる。
スキルはある程度の歳を取ったら、神様から貰う特別な物って感じだ。今までずっと人がその対象だったから、武器にスキルが宿るとか普通は信じられないことなんだろう。
オークキングみたいな魔物だけでなく、無機物にまでスキル与えられるものなんだな…。
神様は何を考えてそんなことをしたんだ?
「私も詳しくは憶えていないのですが、勇者の武器は神器とも呼ばれているそうです。つまり神が作った武器、ということですね。戦の神と鍛冶の神が人の為に作ったと。あくまでそう言い伝えられてるだけで、相当腕の良い鍛冶師が特別な武器を仕上げたという線も大いに有り得ますが……そこは考えても仕方ないので、あまり気にしない方がよろしいかと」
「神様、ね…」
ちらりと鳴を見る。
このハンマーについて、鳴からは特に何の説明もなかった。てっきり知らない物だからなのかと思ったけど……女神様が勇者の武器に関する知識を鳴に与えないはずない、よな?
関わることのない生活を送る予定だったから。なんて理由で、俺が持てる武器の知識を入れないのはおかしい話だし。
俺の召喚が失敗したことで、勇者扱いじゃない判定をくらう可能性があったとしてもだ。
鳴が俺の視線に気付き、少々気まずそうに目を逸らした。
……やっぱり知ってたな?
だけど今ここで問いただしても仕方ない。目の前の先輩勇者の話を聞くことに集中しよう。
隣で「どうやったらそんなことが出来るんだよ〜…」と頭を抱えてるエレナさんが落ち着くのを待ち、男性に聞く。
「それで、勇者の武器に宿ってるスキルを使うには、どうすればいいんですか?」
これからの冒険者活動において、知っておいて損はない。むしろ得だらけだ。
攻撃系スキルが精霊魔法しかない俺には、とてもありがたい情報だ。ハンマーに宿ってるスキルが攻撃系とは限らないけど。
「さすがにそのハンマーのことを知らない私では、なんとも…。ですが先ほども申しました通り、カガリさんにはお心当たりがあるのではありませんか?」
「そう言われても、身に覚えが全く…。参考までに聞きたいんですけど、貴方の武器にはどんなスキルが宿ってるんですか?」
「私の短剣ですか?この短剣は扱いがとても難しくて…。このようなことが出来るのですが」
そう言って、壁に切っ先を向ける男性。
すると……
―――ビュッ!ズコッ!
……いきなり剣が伸びて、壁に突き刺さった。
思わずエレナさんと二人して口を開けて唖然としてしまった。
完全に初見殺し技だ…。
「このように剣を伸ばすことが出来るのですが、如何せん調節が難しく、思うように伸び縮みさせることが出来ないのです」
「な、なるほど…。ちなみに射程は?」
「自分の目が届く範囲です」
「……なんて凶悪な…」
短剣を元の長さに戻して、鞘にしまう男性。
剣が伸びるだけという、結構地味な攻撃だが……軽くスナイパーみたいなことが出来る武器って考えると、結構やばいよな?
しかも伸びた状態の短剣に対して、重さを感じていなさそうだった。風の流れとかも気にせずに撃てるライフルみたいなもんじゃね?
「ボク、夢でも見てる気分だよ…。あんな卑怯なスキル見たことも聞いたこともない」
「大丈夫ですか?一旦休憩します?」
「ううん、大丈夫。続けて」
「そうですか?わかりました。……それで、今のはどうやって発動させたんですか?」
「ただ伸びろと、そう念じただけですよ。あと戦闘中は、慣れもあって結構無意識に発動しますね。時々自分でもビックリしてたのを憶えてます。ですので、知らず知らずの内にハンマーのスキルを使ってる可能性はあると思いますよ。特に私のダンジョンはAランク級の難易度ですし」
そんなこと言われてもなぁ…。一体いつそんなもんが発動したのか、マジでわからないしな…。
てかこのダンジョン。やっぱりそれくらいの危険度はあったのね。
俺がうんうん唸っていると、男性がヒントをくれた。
「ハンマーを手にしてから、何か違和感のようなものを感じたりとかは?例えば、威力の高い攻撃を打てるようになったとか」
「違和感…」
俺はエレナさんを見る。
俺の視線に気付いて見つめ返してくる彼女の言葉からは、時々違和感を感じていた。
意図的に無視していたけど……もしかして、あれがハンマーに宿ってるスキルか?
「エレナさんの言葉に違和感を覚えることがあるんですけど……エレナさん。なんか隠してます?会ったのがハンマーを手に入れた時期と近いですし、スキルってそれかなって思ったんですけど」
「へ?“ううん!なんも隠していないよ!?ほら、ボクってば嘘つけない性格だし…”」
「……………そうですか…。わかりました。俺も貴方のこと疑いたくないですし、そういうことにしておきます」
「ふえぇ〜…。なんか含みのある言い方…」
……なんか。ほぼ確定的だな。
これがこのハンマーのスキルっぽい。相手が何か隠してることがわかるっていう。
うわっ。すっげぇ地味…。しかも明確な隠し事がわからないから、結構不便じゃん。
「ふむ。相手の言葉に違和感を覚えるスキルですか…。そのような見た目をしているのに、そんな大人しいスキルとは到底思えないのですが……試しに私が持ってもよろしいですか?」
「あ。はい。どうぞ」
男性にハンマーを手渡す。
同じ勇者なので、彼は余裕で持ち上げることが出来た。
「ふむ。やはり問題なく持てると…。試しに私に、何か嘘のようなものを言ってくださいませんか?一つ質問を致しますので」
「はい。どうぞ」
「では、カガリさんの一番好きな食べ物を教えてください」
「一番か……義母さんのオムライス」
ちなみに本当は義母さんのハンバーグである。オムライスは二番目。
……もう食えないんだなと思うと、寂しい気持ちでいっぱいだ。
「? それが一番でよろしいですか?」
「はい。一番です」
男性は確認するように聞いてくるが、首を傾げるだけで何か違和感を感じてる様子は見て取れない。
……あれ?もしかして違った?本当はオムライスが一番好きなのか、俺…。
「申し訳ございません。カガリさんが感じる違和感というのは、どのような物でしょうか?」
「えっと……こう、頭の中や胸に何かが引っ掛かるような感じです」
「……すみません。残念ながら、私にはそのような物は感じませんね。何か条件があるのでしょうか?」
その後。いくらか検証を重ねてみたが、男性が俺と同じような違和感を覚えることはなかった。
「お役に立てず、申し訳ございません」
「いえ。気にしないでください。……となると、言葉に何かしら違和感を感じるのは俺自身のスキルか?」
でもハンマーを手にするまで、そんなスキルが発動したことはないしな…。
うーん。わからん…。
「……そういえばさ」
と、そこでやましい事を隠していそうなエレナさんが口を開く。
「カガリくんは身体強化のスキルだって言ってたから、あまり気にしてなかったけどさ……カガリくんやっぱり、『破壊者』の派生スキルを使ってる気がするんだよね。それがハンマーのスキルだったりしない?」
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