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先輩2

「……人?」


ボスフロアにいたのは、執事服を着た若い男性だった。しかもこの世界じゃ珍しい、黒髪黒目。

そんな人は初めて見た。


執事服の男性は俺たちを見て驚きの表情を浮かべていたが、すぐに笑顔になり、綺麗なお辞儀をした。


「ようこそいらっしゃいました。私のダンジョンへ。まさかこのような辺鄙なダンジョンに人が来るとは思わず、驚いてしまいました。すぐにご挨拶することが出来ず、申し訳ありません。失礼をお許しください」

「え?あーいや、はい……えっと、大丈夫です?」


ボスフロアにいたのがあまりにも予想外な存在だった為、言葉に詰まる。

……人だよな?角とか尻尾とかもないし、どこからどう見ても人だ。


「エレナさん。あの人は魔物ですか?」

「気配も見た目も人間にしか見えないね。ちょっと頭の中が宇宙だよ…」


エレナさんも宇宙エレナになってしまうくらい衝撃的だったらしい。

ボスフロアにいたのが人間というのは、彼女も初めての経験みたいだ。


一方、鳴はというと……


「……ダンジョンマスターに、この規模のダンジョンを作れるとは思えないのですが…」


首を傾げて、そう呟いていた。

どうやら心当たりがあるらしい。


だが鳴に説明を求める前に、執事服の男性が指パッチンをした。

一瞬警戒するが、ボンッと煙と共に白い布が掛かった丸テーブルと椅子が現れただけで、攻撃しようとした訳ではないようだ。

……いや十分やべぇ光景を目にしたな!?これ!どういう魔法だよ…。


「さぁ皆様、どうぞお掛けください。道中疲れたでしょう?ただいまお茶のご用意を致しますので、ゆっくりしていってください」

「いやあの、急にお茶とか言われても……」

「あー!申し遅れました。私の名前は……」

「無視かよ…」


こっちが混乱してるのを余所に、一人で勝手に進める男性が名乗ろうとして、顎に手を当てて考える仕草をする。

なんだ?名前を言いたくないのか?でもだったら名乗ろうとはしないか。


少しして、申し訳なさそうな顔でお辞儀しながら言う。


「申し訳ございません。自分の名前を忘れてしまいました」


「忘れた!?」

「なんで!?」


エレナさんと一緒にツッコム。

普通忘れるかよ、親から貰った名前を。俺はもう捨ててやったけど。


「申し訳ございません。なにせ五十年もの間、訳あってずっとここに引き篭ってたので。自分の名前を言うことも、思い出す必要もありませんでしたし…」


五十年!?やっぱ人じゃないのか?

それともエルフみたく長寿な種族なのか?


「パパ。一先ず落ち着きましょう。皆さん予想外のことで頭が上手く働いてません。敵意はないようですし、椅子に座るにしても座らないにしても、まずは話し合いましょう」

「お、おう。そうだな…」


鳴がパパ呼びだ。一応、精霊であることは隠すのか。

まぁ当然か。いきなり俺たちをお客様として扱うし、本当は凶悪犯罪者だから名前を言いたくないだけかもだし。

嘘言ってる風には見えないのが不思議だけど、全体的に怪しい。


こんな所にいるんだから、ダンジョンのボスなのはほぼ確実だろう。警戒するに越したことはない。


「その……貴方は人、で良いんですか?」

「はい。私は列記とした人ですよ」

「じゃあとりあえず、覚えてる範囲だけで良いので貴方のことを教えてもらってもよろしいですか?なぜこんな所にいるのかも含めて」

「かしこまりました。では、簡単にご説明致します」


とりあえずは同じ人であると仮定して、話を進めることに。彼が何者であるかを知ることにした。

男性はティーセットも指パッチンで出して、お茶を入れながら説明を始めた。


「私は五十年前までは、とある令嬢の専属執事でした。もう顔と声は忘れてしまいましたが、聡明でお優しい方だったことは覚えています。あとおっちょこちょいでしたね。よく何もない場所で転んでました」


エレナさんみたいだな。


「当時はお互い学生で、平和で幸せな日々を過ごしていたのですが……ある日突然、その平和に終わりが訪れたのです。私たち含め、クラス全員になまじ力があったせいか、国の王様から『魔王を倒してくれ』と命令を下されましてね」

「……ん?はぁ…。なるほど?」


ちょっと気になったが、頷いて先を促した。


「ですが私たちは戦闘の心得など持っておらず、一人……また一人と戦場で散っていきました。私が仕えていたお嬢様も、その時に…」

「……………」

「お嬢様は命を落とす直前に、私に最後の命令をくださいました。『逃げて。生きて…』と。それから紆余曲折あり、私のスキルでこのダンジョンを作って、長い間引き篭っていたのです。……お話は以上でございます。さぁ、お茶が入りましたので、どうぞお掛けください」


男性はお茶を入れ終わり、それをテーブルに並べて笑顔で切り上げた。

……いやあの、話が思ったよりも重いわ…。初対面の人から聞くことじゃない。

あの笑顔がとても切なく見えて、嫌なことを聞いた罪悪感で心臓を締められてる気分だ…。


そしてなんとなくだけど、気付いたことが一つ。

この人もしかして……


「その……貴方はもしかして、日本人だったりしますか?」


俺の質問に対し、男性は驚きの表情を浮かべた。

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