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親子設定

「さて、森を抜けたは良いが、こっからどこへ向かえばいいんだ?」

「すみません。この世界の地理情報などもアマシスタ様から頂いていますが、流石にこう何も無い平原ですと、ここがどの辺りなのかまではわかりません」

「そうだよな~…」


 ツインホーンベアーとかいうやべぇ熊を運びながらこんにちは。どうも常時(たぶん)女神バフが掛かってる男、篝です。

 体長は二メートルを優に超えてる熊をこうして疲れも感じず、汗もかかずに楽々運べてるんだから、女神様はとんでもないバフをくれたもんだ。

 俺がそう思ってるだけで、本当はもっと別の要因があるのかもしれないが。


「一旦休憩するか?」

「いえ、私は特に疲れていません。マスターは?」

「俺も特に問題なし」


 ということで、とりあえず街、とまで行かなくても人が通っていそうな街道などを探してみることに。


「マスターにはここで待っていただいて、私が先行することも出来ますが?」

「いいよそれは。気持ちだけ受け取っておく。街からそう遠くない場所ってことはわかってるんだし、のんびり歩いて行くのも悪くないだろ」

「わかりました。マスターがそう仰るなら、私はそれに従います」

「機械的~…」


 だけど鳴にだって感情はあるようだ。さっき俺が褒めたら、嬉しそうに笑ったし。

 機械的な女の子が笑うと凄く可愛いっていうのはリアルでも共通なようだ。


――――――――――――――――――――――――


 ズルズルと熊を運びながら、前の世界での暮らしや文化を鳴に教えていると、彼女は突然警戒を露にした。


「マスター。複数の気配がこちらに向かっています。ちょうど目の前の丘の向こうからです。数は20ほど。金属が擦れる音がするので、武装した人間かと思われます」

「お前本当にすげぇな!?人力レーダーかよ!」

「? それは褒めていただけてるのですか?」

「めっちゃ褒めてる!」


 褒められて嬉しそうにする鳴。かわよ!

 だがそれを眺めてる暇は無いだろう。武装した集団……友好的、とは思えないよな~…。

 鳴が言うには人らしいが、もしかしたら野盗かもしれない。慎重に動こう。


「鳴。いざっていう時は頼む」

「はい。わかりました」

「本当、今は任せっきりですまないな…」


 いくら女神様の不思議バフがあっても、武装した相手に素手で挑むようなことはしない。

 どこかで武器を調達してから参加した方がいいに決まってる。可能なら修練を積んで。


「気にしないでください。私は元よりそのつもりなのです。マスターは後ろで胸を張っていてください」

「ありがとう。でも対話出来そうな相手なら、まずはそこからな。……だからその電気しまえ…」


 バチバチと紫電を纏って、戦う気満々の鳴を落ち着かせる。

 まだ悪い奴と決まった訳じゃなんだから、先走るのだけはやめてくれ…。


「ここで待つか?それとも丘の上に移動するか?」

「では、少し急いで上まで行きましょう。上を取った方が有利に働きます」

「だからまだ戦うと決まった訳じゃないからね?」


 ということで、一旦熊の死体は丘下に放置して、急いで丘の上まで移動することに。

 ……鳴の方が俺に歩調を合わせてくれてるのがなんだか虚しく感じた…。


 俺と鳴が丘の上に到着した時には、ちょうど例の武装した集団が丘を登って来ていた。

 距離的には30メートルくらいか。


「止まれ!人がいる!」


 先頭にいる、大剣を背負った全身鎧の水色の髪をした男性が逸早く気付き、後ろにいる人たちに声をかける。


「どうやらあの男性がリーダーのようです」

「みたいだな。敵意は……無さそう?」

「はい。今のところは」


 武装した人々の装備は統一感がない。

 全身鎧の人、弓矢を背負った軽装の人、ローブを着た魔法使いっぽい人など、様々な装いだ。

 ぱっと見は寄せ集めの集団のようだ。


「君たち、もしや森の方から来たのか?」


 リーダーらしき男性がそう質問して来た。

 ここで噓を吐く理由もないので、正直に答えることにする。


「はい。そうですけど、それが何か?」

「森の入り口にツインホーンベアーが出たと報告があってな。俺たちはそれの討伐隊なんだ。ソイツは今いないのか?」

「ツインホーンベアー?」


 まさかと思い、振り返って後ろの丘下に置いてきた熊の死体を見る。

 入り口にいたツインホーンベアー、それってもしかして……


「鳴。あの熊は確か、森の出入り口付近にいたんだよな?」

「はい。恐らく彼が言っているツインホーンベアーは、あの死体で間違いないかと思います。ツインホーンベアーの討伐隊というのも本当でしょう。あそこを見てください。街が見えます」

「あ。本当だ」


 鳴が左へ指し、そちらを見ると確かに街があった。しかもそれなりに大きそうだ。

 てことは野盗の可能性は低いか?街から程近いこんなところで、そんな盗人行為なんてするとは思えないし。


「あのー。それってうちのせい……うちの子が倒した奴でよろしいですか?」

「なんだと?」


 念の為、鳴が精霊ということは隠すことにした。精霊ってなんか珍しい生き物ってイメージだし。

 俺はこの世界についてまだよく知らないし、当然精霊という存在がどういう扱いなのかもわからない。

 だけどもしかしたら物珍しさに誘拐しようとするかもしれないしな。たぶん黒焦げの死体になって発見されるだろうけど…。


 咄嗟にうちの子と言ってしまったが、今の俺と鳴は容姿は似ているし、親子設定で問題ないだろう。

 ……いや兄妹の方が良かったか?


「マスターは慎重なのですね。ですがそれで正解かもしれません。精霊は人間の前に滅多に姿を現しませんから」

「あ。やっぱそういう括りなんだ」

「はい。人間の中には精霊を捕まえて見世物にしようとする輩もいるみたいです。なので余計な手間を増やさない為にも、隠しておくに越したことはないかと。ちなみに成功例は無いです」

「だろうな。お前みたいな化け物ばっかなら」


 俺の言葉に困惑した集団は、何やら相談している様子だ。

 まぁ、鳴から聞いたツインホーンベアーの説明が本当なら、こんな華奢な美少女が倒したとは思えないしな。

 しかもうちの子が~って言っちゃったから、鳴一人で倒したと言ってるようなもんだし、信じられないのも無理ないと思う。


 だが論より証拠。信じられないなら実物を見せるのが一番だろう。


「死体なら後ろにありますけど、見ます?」

「……俺が行こう。お前たちはここで待っていてくれ」


 リーダーと思われる人が警戒しながら歩いてくる。

 とりあえず攻撃の意思は無いということを示す為、両手を上げて待つことにする。


 ……うわっ。デッカっ……見下ろす形だったからわかりにくかったけど、2メートルいってんじゃねぇかってくらい背が高いな。体格も凄くしっかりしてる。

 それに全身鎧を着ているとは思わせない軽い足取りだ。ほとんど足音が聞こえない。

 こういうのを達人って言うのかな?


 俺たちの横に立って、熊の黒焦げ死体を見るリーダーさん。

 思わずといった感じで、息を吞むが伝わってきた。


「……間違いない。ツインホーンベアーだ。どうやって仕留めた?火魔法か?」

「いえ。雷魔法です」


 リーダーさんの質問に対して、鳴が訂正するように答える。


「雷魔法だと?君はその歳で、“複合属性魔法”が使えるのか?」

「複合属性魔法ですか?すみません。私は産まれつき雷魔法しか使えないので、それについてはよくわかりません」

「産まれつきだと?まさか、先天性のスキル持ち……“神に愛された子”か…?」

「神、ですか?」


「……………」


 ……うん。何の話してるのか全くわからん!

 複合属性魔法?神に愛された子?この人は何を言ってるんだ?

 とりあえず後で鳴に教えてもらお…。


「君はこの子の親、でいいのか?確かに容姿は似ているが、それにしてはかなり若く見える」


 今度は俺に質問してきた。

 やっぱ親子には見えないか~…。まぁ仕方ないよな。

 俺まだ16歳の高校二年生だし。


「えっと、それは……」

「はい。こちらは私のパパです」

「っ!め、鳴?」


 兄妹設定に変更しようか悩んでいると、急に鳴がパパ呼びしだした。

 そして次に鳴は、俺の腕を抱きしめるように掴んで来る。


 ……やだ。ドキッとしちゃった。俺気持ち悪っ。


「血の繋がりのない私を、男手一つで育ててくれた大好きなパパです。すりすり…」

「はぅ!?鳴お前、なんて……」


 なんて演技力なんだッ!思わず口元を手で覆ってしまった。機械的な表情は変わらないが、すりすりと頬を擦り付けてくる様は父親が大好きでたまらない娘っ子にしか見えない!

 しかも見た目の齟齬を血の繋がりがないという設定でカバーするという機転を利かせるとか、なんて出来た子なんだ!

 頭が下がる思いだぜ…。


 それはそうと、この鳴の行動は非常に心臓に悪いです。可愛すぎて死にそう…。


「ほぅ。それはそれは……見たところ、まだ二十歳にもなっていないのだろう?その歳で子を育てているとは、立派だな」


 鳴の演技力により、すっかり微笑ましい物を見る目になったリーダーさん。

 騙してるようで申し訳ないな…。いや実際騙してるんだけど。


「ど、どうも。それで、ツインホーンベアーなんですが、あちらを換金する場所を教えていただいてもよろしいでしょうか?実は人里から離れて生活していた為、世間知らずでして…」

「ふむ。失礼だが、今までどこで生活をしていたのだ?」

「すっごい遠い所にある山、としか。えっと、その~……俺も元々捨て子みたいなものでして、その山に住んでいた夫婦に拾われたんです。その人たちが亡くなってしばらくしてから、この子がって感じです」

「それは……辛いことを聞いたな。申し訳ない」

「いや!気にしないでください!」


 どうしよう。自分でも結構無理のある説明をしてる気がするのに、人が良いのかすぐ信じてくれるよこの人…。

 すっごい遠い所の山とか自分で言っといてなんだけど、もっと近場に街や村は無かったのかとか、そういう疑問は湧いて来ないんか?

 大丈夫?裏で悪い人に騙されてたりしない?


「事情はわかった。換金はうちの冒険者ギルドで受け付けてくれるだろう。それと、疑うような質問をして悪かった。身元が怪しい人物を、そのまま受け入れる訳にはいかないからな」

「はぁ…。いえ、信じていただけたなら何よりです」


「すりすり…」


 鳴。そろそろやめていいよ。俺の心臓が保たないよ…。


「ではツインホーンベアーを運ぶのを手伝おう。君たちだけでは難しいだろうしな」

「あ。いえ。それには及びません。二人だけで運べますんで」

「なに?あの大きさだと、100キロは超えてるだろ?」


「これも論より証拠って奴ですね。鳴、行くぞ」

「はい。パパ。大好きです」

「それはもういいよ…」


 キャラ作りの振り幅が極端な鳴と一緒に、ツインホーンベアーの死体運びを再開する。

 軽々と持ち上げて運ぶ俺たちに、リーダーさんは啞然とした表情で見つめている。


 ……うん。やっぱそういう反応になるよね。


「すみません。その、冒険者ギルド?っていう所まで案内をお願いしてもいいですか?」

「あ、ああ…。もちろんいいが……その身体のどこにそんな力が…」

「俺も産まれつき、力が強くって…」


 鳴に習って、産まれつき力が強いという設定で乗り切ることにする。

 リーダーさんは「君もか…」と苦笑しながら言う。


 一緒にリーダーさんのお仲間さんたちの方へ向かう。彼ら彼女らも、リーダーさんと同じように啞然とした表情でこちらを見ていた。


「それにしても、雷魔法だけでなく力もあるのか、その子は」

「ええ。この子は戦闘面の才能で溢れてるようでして。戦闘力だけで言えば俺より強いですよ」

「そうか……先天性のスキルを二つ持ちとは、相当“神に愛されている”のだな…」

「あはは。ですね」


 神に愛されてるとかよくわからんけど、とりあえず話を合わせる。

 実際、その神様に作られたんだから愛されてはいるだろう。

 そしてそんな神様にいじくられたであろう俺も、一応愛されているのかもしれない。


「ル、ルドルフ……その二人は?」

「ああ。どうやら訳ありらしくてな。人里には慣れていないそうだ。危険はないと判断し、身元は俺が保証しよう」

「アンタがそう言うならいいけどよ…。本当に何者だよ?ツインホーンベアーは倒すし、なんか余裕で運んでるっぽいし…」

「あまり詮索してやるな。さっきも言った通り訳ありなんだ。それもかなり辛い、な…」


 リーダーさんの名前はルドルフさんと言うらしい。

 なんか凄く悲しそうな顔して説明してくれてるけど……なんだろう。騙してるせいか、心が痛い…。

 いい人を騙すのってこんなに心が痛むことなのか…。


「パパ?悲しそうな顔をしていますが、どうかしたのですか?」

「いや、ちょっと罪の意識に囚われて、心が痛くなっちゃって…」

「?」


 その後しばらくして、ルドルフさんが俺たちの説明を終えて、討伐隊の皆さんと一緒に辺境都市・ルミナリアへと向かった。

 その間はずっと恐ろしい物でも見るかのように、ルドルフさん以外の人たちに見られていたが…。

面白かったらいいねと高評価をお願いします。

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