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ダンジョン攻略の辛さ

エレナさんからのご褒美から数えて三日目。

俺たちは一応、そう一応ね?順調にダンジョンを攻略していった。


遭遇する魔物はCランクとBランクの魔物ばかりだし、エレナさんが罠を踏んで天井から槍が降ったり落とし穴に埋まったり剣山の山に貫かれそうになったり、金の宝箱かと思ったらBランクの魔物であるミミックだったことがあろうとも……至って順調である。

エレナさんの体質のおかげで、不幸の後には幸運が舞い降りて、高級ポーションとか貴重な武具素材とか手に入ったりもしたからな。


罠は全部エレナさんにだけ集中してたし。その度に泣き付いて来ることを除けば、彼女の不幸体質と強さには感謝しか出ない(ちょっとクズい発言)。

おかげでダンジョンの危険性も学べてるしな。


ただ一つ問題があるとすれば……


「分かれ道が多過ぎるっぴッ!こんなペースで、いつになったら次の休憩所が見つかるってんだよ!?どうなってやがるダンジョン!もう少し段階ってものを踏めよ!」

「ブルル…」


シルバーに可哀想な奴を見る目を向けられながら、もはやそこまで敵ではないなと感じるようになったBランクの魔物、ビッグサーペントの頭を足下にしながら吠える俺。

わかった、わかってしまったぞエレナさんがダンジョンを嫌う理由が…!


確かにこれをボッチ攻略とかキツ過ぎるって…。ギルドは鬼だ、正真正銘の鬼だったんだ!


「とうとうパパが壊れてしまいました。エレナさん、久し振りに膝枕してあげるべきでは?」

「えっ?い、いや……確かにカガリくんの気持ちはよ〜くわかるし、癒しも必要そうなくらい可哀想だけど…。またあんなことになると思うと、勇気が…」


鳴とエレナさんが後ろでなんか話してるが、そんなことはどうでもいいくらい気が狂ってるぞ。今の俺は。


エレナさんに熊肉をプレゼン&ご褒美を貰った休憩所だが……あれから新しい休憩所を一つも見つけていないのだ…。

つまり層に例えると、ダンジョンの第三層を三日間ずーっと彷徨ってるということだ。


この第三層的な場所だが、さっき俺が吠えた通り分かれ道が多過ぎるんだよ。

休憩所から出て間も無くして、いきなりCランクの魔物がウジャウジャしてるモンスターハウスのフロアに出たのだ。

一種類だけBランクもいたな。


オークジェネラルや魔法を使うオークマジシャン。

シルバーが一匹で蹴散らしたリザードマン。

ヘビードラゴンという火を噴く大きなトカゲ。

実力はDランクだけど群れの連携が厄介でCランク指定されてるレッドウルフとブルーウルフという狼。(名前の通り毛は赤いし青い)

全身が鉄鉱石で出来ていて、防具の素材として重宝するアイアンゴーレムが三体。コイツが例のBランクだ。


かなり苦労はしたが、どれも使える素材だからリターンは大きかった。

苦労に見合った報酬だと思えば、心地良い達成感に包まれて幸せ気分になるというものだ。


しかしその後が地獄の始まりだった。それこそが、エレナさんがダンジョン攻略を嫌がる理由の正体でもあった。


なんと最後の魔物を倒した瞬間、このフロアから分かれ道が五つも出現したのだ。

これは長丁場の予感がすると思い、その日は予定通り休憩所に戻って就寝。一昨日へ続く。


皆で相談して、右端から順に攻略して行くことになったのだが……その先には三つの分かれ道があったのだ。

しかもそれだけじゃない。それぞれの先にあった魔物のフロアには、さらに二つの分かれ道が存在していた。

つまり右端の道だけで、九つも攻略箇所が存在していたことになる。


ゲームだったらクソゲー以外の何物でもない。クリア後ダンジョンだったら、やり込み要素として親しまれる奴だろうけど…。


そこの攻略を昨日やっと終わらせたのだ。今は右から二番目の道を攻略中。

まずは確認だけしたら、こちらも例に漏れず攻略しなきゃいけない場所が最大九つありやがります。はい、クソゲーオブザイヤーですわー!

もうこれが発覚した時点で、俺の気が狂い始めた気がする。


そして冒頭の俺のシャウト。これは五つ目の攻略を終えて、とうとう限界が来て思わず出てしまった、俺の魂の叫びである。

まだ五つある分かれ道の二個目の攻略だろ?なんて思う奴もいるかもしれないが、ここは魔物だけでなく命に関わる罠まで存在するダンジョン。それを忘れてはいけない。


毎回毎回、神経がすり減るのだ…。

敵ではないと感じるようになったとは言っても、油断すれば殺されかねないBランクと戦ったり。

自分も罠を踏んで、エレナさんみたいな目に遭わないように気を付けたりと……休憩所以外で心休まるタイミングが無いのだ。叫びたくもなる。


「はぁ、はぁ、はぁ……ふぅ〜…。スッキリした」


口に出したおかげで疲弊した精神が少し楽になった気がする。


鳴がビッグサーペントを解体しようとしてるし、俺もさっさと手伝おう。

太さは十五センチくらいだが、体長は三十メートルくらいの大物だ。皆でやってさっさと終わらせよう。


「だ、大丈夫?今日はもう休む?」

「いえ。あと一個くらい攻略しましょう。ペースを上げてかないと、いつまで経ってもこんなクソゲー終わらないですし」

「くそげー?」


シルバーに周りの警戒を任せて、ビッグサーペントの解体を終わらせた。

俺も解体に手慣れてきたな。結構綺麗な“肉”にすることが出来た。


「こうして美味そうな肉が手に入るのは良いけど、さっさと攻略したいな…」

「わかる〜。ダンジョンって実入りは良いけど、こんな陰鬱とした場所には長居したくないもんね〜……ん?美味そう肉…?」

「どうかしました?」

「……もしかしてカガリくん。蛇の肉を食べるって言わないよね?」

「食べますよ。あ。もしかして熊肉に続き、蛇肉の美味しさをご存知ない?」


まぁ俺も蛇は食ったことないけどね。

ただテレビで美味しいって芸人さんが絶賛してたから、以前から興味はあったのだ。

淡白な鰻みたいな味なんだっけ?まぁ同じ蛇みたいなもんだし、そんな物なんだろうなって。


「嫌だー!絶対にそれだけは食べたくなーい!完全にゲテモノじゃないのそれ!?」


「今晩の飯は決まったな。喜べ鳴。ちょっと違うけど、海産物に似た飯が食えるぞ」

「本当ですか…!以前から興味があったので、楽しみです」


「ボクの意見をガン無視しないでー!」


今晩の飯が決まったところで、「さぁ次のルートへ……」と足を踏み出した時だった。

自分でも何がなんだかわからないくらい、急に身体がふらつき始めたのだ。


「あ、あれれ?なんだ…」

「ととっ。大丈夫、カガリくん?」


そこへエレナさんが支えてくれたおかげで、転ぶようなことはなかった。

な、何が起こった今?まさかまたレイスの奴か!?


「おのれレイス〜。平衡感覚を奪うとは小癪な...。今すぐ壁を叩いて……」

「待って待って!レイスにそんな力はないよ」

「あ。そうなんですね…」


「……パパ。やはり今日はもう休みましょう。自分で気付かぬ内に疲れが溜まっていたのかもしれません」

「そ、そうか?」


まだ頑張れそうな気がするんだけどな?

でも鳴に心配させるのは悪いし、ここは大人しく休憩所に戻って休むとするか…。


「このまま肩を貸してあげようか?」

「……いえ。大丈夫です。普通に歩けます」


エレナさんが女性云々ではなく、大したことないのに肩を借りるのは悪い気がして、自分の足で休憩所まで戻った。


――――――――――――――――――――――――


休憩所に戻って、早速とビッグサーペントの肉の調理に取り掛かることにした。


「美味しい蛇料理を作ろうー!イェーイ!」

「イェーイ」


「ずーん…。いつもみたいに普通の料理でお願いしたい…」


俺と鳴のノリに反して、エレナさんのテンションが異様に低い。

熊肉以降はオーク肉とかを中心に飯を作って来たからな。また彼女にとってのゲテモノ料理は気持ち的にキツいのだろう。

だが大丈夫。蛇の調理方法はしっかり覚えている。美味しく召し上がって頂けるはずだ。

まぁ調理と言っても至ってシンプルで、誰でも出来るから難しいことは何もない。


「ですが本当に大丈夫ですか?お肉を焼いて食べるくらいなら出来ますし、パパは休んだ方が…」

「大丈夫大丈夫、子どもの飯くらいちゃんと用意出来なきゃ、親失格だからな」


まずは蛇の皮を剥ごう。皮は臭くて食えたものじゃないらしいからな。

次に蛇の肉には小骨がたくさんあるので、ボウルに入れて骨が潰れるまで軽くミンチにしていくー。

サバイバル生活だと小骨ごと食うらしいけど、ウザったい小骨は嫌なので俺はミンチにします。


ミンチにした肉は串に刺して直火でじっくり焼いていく。味付けは塩でも良いのだが、それだけじゃ飽きが来るのは目に見えている。鳴は気にせず食いそうだけど…。

なので焼いてる間にタレを作るとしよう。


醤油、みりん、酒、砂糖をフライパンに入れる。

塩焼きも作るし、こっちは砂糖を多めに入れて甘ダレにしよう。

あとは木べらで混ぜながら煮詰めて行くぞ。とろ〜っとして来たらタレの完成だ。


直火してる蛇肉の半分に塩を、もう半分にタレを付ければ……


「完成!ビッグサーペントの塩焼き!それと蒲焼きだ!召し上がれ」

「お〜…!美味しそうです…。いただきます」


彷彿とした顔で蛇肉を見つめる鳴。

まずは塩焼きを手に取って一口食べた。


「うーん!塩味が効いてて、淡白な味が堪りませんね…。美味しいです、パパ」

「それは良かった。ほら、エレナさんも」


「うぅ〜…。蛇、蛇か…。熊肉はまだわかるけど……でも出された物を食べない訳には…。くっ、いただきますっ!」


エレナさんは蒲焼きダレを付けた肉を、決心した様子で口に運ぶ。

そして少し咀嚼してすぐに、カッ!と目を見開いて頬を緩ませた。


「なにこれ〜…。しゅごい…」

「喜んで頂けたようで何よりです」


蛇肉でも無事にメシ落ちしたエレナさんを横目に、自分も塩焼きを一口。

……本当に鰻みたいな味だ。


――――――――――――――――――――――――


食後の片付けを済ませたあと、俺はすぐに横になった。

なぜか急にどっと疲れが押し寄せて来たからだ。


鳴が言った通り、自分でも気付かない内に疲労が溜まっていたのだろう。

身体が怠重い感じがする…。


「大丈夫?カガリくん」

「はい。一晩休めば、すぐに良くなると思います」


心配そうに見つめてくるエレナさんにそう返すが……どうだろうな…。

身体の疲れは寝れば取れそうなんだけど、どうも精神面が一番参ってる感じがする。


エレナさんがダンジョンを嫌がるのはこういうことなんだなって、身を持って痛感しております…。

終わりがなかなか見えない上に、洞窟の陰鬱とした雰囲気がこちらの精神を蝕んでいく。

さらには危険な魔物がウジャウジャいるし、即死級の罠にも注意を払わなくちゃいけない。


身体的疲労よりも精神的疲労の方が勝っていて、休憩所というセーフエリアにいるのに気持ちが落ち着かない感じがする。

ストレスで大変なことになる人の気持ちがよくわかった…。


「……カガリくん。無理してるでしょ?」


明日の俺はどうなるかな?と不安な気持ちになっていると、エレナさんが上から俺の顔を覗きながら言う。

……無理か…。そんなつもりは無かったけど、不安な気持ちになってるのに大丈夫って言うのは……言われてみれば、確かに無理してるな、これ。


「自覚は無かったですけど……そうかもしれませんね」

「うん。無理してるよ」

「まさかダンジョンがこんなに疲れる所だったなんて…。エレナさんが嫌がる訳ですよね」

「うん。ボクも今のカガリくんみたいになったことあるから」

「はは…。すみませんでした。Aランクがどうのこうのって話は、あまり通じませんね。これ…」

「うん。慣れはするけどね。それでも精神的に一番キツいのが、ダンジョンの嫌なとこなんだよ。ボクはカガリくんが一緒にいるおかげで、結構楽になってるけどね」

「そうですか。それは良かったです」

「うん。感謝してるよ。だから今度は、ボクが君の回復をお手伝いしてあげる」


そう言って彼女は、俺の横に寝転んで来る。

そしてそのまま俺の頭に手をやって、優しく撫で始めた。


「よしよし。初めてのダンジョン探索、辛いよね〜」

「……俺は子どもか?」

「バカにしてる訳じゃないよ?お母さんから、男の子はこうしてあげると喜ぶって聞いたから」

「……………」


確かに喜ぶ男性はいるだろうけど、少なくとも俺には子ども扱いされてる気しかしないぞ…。

……まぁ善意でやってくれてることだし、ここは大人しく受け入れるとするか。


鳴の視線が怖いけど。


「よしよ〜し。ふふっ。なんだかカガリくんが甘えてくれてるみたいで楽しい」

「どこが?甘えるっていうのは抱き着くとか、そういうのでしょ」


早く寝に入る為に、目を瞑った状態で答える。

少々極端だろうけどな。甘えるって、そんなイメージだ。


さすがに付き合ってもない男にハグする訳ないだろうけど。


「ふーん。そうなんだ…」


そう呟きながら、エレナさんは俺の頭を優しく撫で続けてくれた。


―――まぁ。安心はするかも。


どこか心地良さを感じ始めて、俺の意識は次第に眠りの中に落ちて行った。


――――――――――――――――――――――――


―――五分後―――


「ちょっと待ってカガリくん!?どんな寝相してるの!起きてない?実は起きてない!?いや、ちょ、わかった!甘えたいのはわかったから、でも無理矢理はダメー!」

「……私が一緒のベッドで寝た時は、こんなことは無かったのですが…」

「あったら大問題だよ!?」

不幸体質のせいで倍の返り討ちに遭うエルフ。


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