幸と不幸は紙一重?
レイスを倒してからしばらく。二手に別れた通路が見えて来た。
だが左右を見比べてみると、どちらも目と鼻の先でまた分かれ道になっている。
一瞬四つの通路に別れてるのかと思ったが、少し歩いてみると違った。
真ん中に円柱の壁があり、それによって円形の通路が出来上がっていた。
そこから前後左右に通路が別れてる感じで、この場合『後』の方から俺たちは来た訳だから、行くべき道は『前』と『右』と『左』の三つだな。
「三つの分かれ道か……エレナさんはどれが正解だと思います?」
「……この後に及んでボクに聞くの?」
「自信無くしてるんじゃあねぇですよ…。ほら、一先ず多数決ってことで。ちなみに俺は『前』に行きたいですね」
先に行きたい道を選ぶことで、エレナさんを信頼している意を示す。
これで自分の意見を言いやすいだろう。
「えっと……じゃあ、右で。左は昨日間違ったから嫌な予感がするし…」
そんなビクビクした様子で言うなよ。別に間違った道でも責めやしないんだから…。
「鳴は?」
「私ですか?私は……少し気になることがあるので、エレナさんの運を信じて、右でお願いしたく思います」
「エレナさんの運?」
この人、不幸体質だけど?運を信じて良いのか…。
「その心は?」
「運は収束する、という言葉があります。幸運な事があった後は不幸が、不幸の後には幸運があると。たまたまかもしれませんが、こうして雷帝の下僕を手に入れることも出来た訳ですし、もしかしたらなんてことがあるかもしれません」
「なる、ほど…?エレナさんの不幸体質を逆手にとって、良い装備やアイテムが手に入るかもしれないと…」
「ねぇメイちゃん。もしかしなくてもボクを実験道具にしようとしてる?」
「ブルヒッヒッヒ!」
エレナさんが真顔でツッコムと、シルバーが小馬鹿にするように笑ったが、そこはしっかり鳴が「めっ!」と叱った。
「念の為聞くが、シルバーは?」
「ブルルッ」
一応と聞いてみるが、まぁ予想通り鳴と同じ右を選んだ。
コイツは本当に主である鳴一筋って感じだから、当たり前っちゃあ当たり前なんだろうな。
「それじゃあ右に行きますか。ほらエレナさん、自分で選んだ道なんだから不安そうな顔しないでください」
「う~。昨日みたいなことが起こらないと良いなぁ…」
不幸体質の人って、一度あったことは二度ある。さらに二度あることは三度あるって感じで、不幸が続く印象は強いよな。
たぶんそういう事が過去に何度もあったから気にしてるんだろう。
右の進んで行くと、通路で屯しているオークジェネラル一匹とオーク五匹の群れを見つけた。
まだこちらには気付いていないようだ。
「パパお肉……オークがあります」
「言葉がおかしいことになってるぞ、鳴?」
これにはうちの子が瞳をキラキラさせる。
オークを完全に肉として認識してしまっているな…。
オークジェネラルはオークキングの仲間の奴より小さいな。二.五メートルくらいだ。
それでもかなり食い扶持ありそうだけどな…。
「仕留めたら、またエレナさんのバッグに入れてもらってもいいですか?」
「いいよ~。むしろジャンジャン入れてあげる!……出来れば熊肉以外…」
最後に何かボソッと言ったが無視だ無視。
食った時にはきっとそんなこと言ってられなくなるからな。
オークジェネラルはCランク。事前に言っていた通り、俺が一人で相手することに。
配下のオークもいるが問題ないだろう。
オークジェネラルは、オークキングが持っていた程ではないが、大きな大剣を持っている。配下オークは棍棒だ。
大剣を持ったオークジェネラルを見て、ふと思い付いた。
「オークキングとの戦いをシミュレートしてみるか」
オークジェネラルでは役不足になりそうだが、あの時の反省点を改善するには良さそうな相手だ。
一人悠々と近付いて行くと、こちらに気付いたオークジェネラルたちが武器を構えて威嚇してくる。
だがその後、俺の後ろを見てすぐにだらしなく興奮した様子を見せ始めたので、視線を追ってみると……そこにはエレナさんがいた。
……アイツらもしかして、エレナさんに発情してね?
いやエレナさんだけじゃない。オークジェネラルだけ鳴にやたら気持ち悪い視線を向けている気がする。
「ねぇメイちゃん。ちょっとボクの後ろに隠れてようか」
「? 何故ですか?」
「いいからいいから」
ナイス、エレナさん!おかげで鳴がオークジェネラルの視線で穢されずに済む!
「ブオーーーッ!!!」
配下オークたちがジェネラルの号令に従うようにして襲い掛かって来る。
「すまん。お前らに用はないんだわ」
とりあえずと、先頭にいるオークの顔面に向かってハンマーを振るう。Eランクの魔物の時より、三割くらい力強く。
俺はこの時。もしこれでオークの顔面がぐちゃぐちゃになって、牙とかダメになるのであれば、そこから力加減を調整するつもりだった。普通のオークと戦うこと自体が初だし。
Eランクは大体これくらいの力で、元がなんだったのかわからなくなるくらい、ぐちゃぐちゃになるからな。目安にはまぁ丁度いいだろうと思っていた。
―――ドパァーン、ブチ!
オークの頭にハンマーが当たった瞬間……首から上が無くなった。
「えっ?」
「「えっ?」」
思わず唖然とする。鳴とエレナさんからも、戸惑いの声が聞こえた。
恐る恐る地面を確認すると、離れたところに原型を留めていないオークの頭が……グッロ…。
あ。オークの身体倒れた。
オークたちも、突然目の前にいた同胞の頭が千切れ飛んだことに戸惑い、振り上げていた棍棒をポロッと地面に落とした。
「えっと~…?」
ごめん、マジで何が起きた?わかっていても理解が追い付かない(?)稲光篝は混乱している…。
ハンマーでぶっ叩いただけで、オークがマ〇ったぞ…?俺的には全力の五割行かないくらいの力だったんだぞ?
「で、でも。とりあえず、肉は残ってるからいっか」
「ブ、ブヒャーーー!?」
あまりにも恐ろしくなった配下オークたちは一斉に逃げ出した。
まぁ目の前であんなことが起きれば、逃げたくもなるか…。
俺は逃げ出したオークたちに一足飛びで追い付き、さっきより二割くらい力を落として一匹を仕留める。
が……
「ぐちゃぐちゃになっちゃうか~…」
頭から首にかけて、ほぼ原型が無くなった。
おかしくない?これ以上手加減したらEランクの魔物と戦ってるのと変わらなくなるぞ…。
下手したらもっと力を下げた方が良いまでありそうだぞ?
「挑発」
そんなことを考えていると、エレナさんが挑発で逃げていたオークたちを引き戻した。
「カガリくん、考え事は後だよ。せっかくの食料が逃げちゃうでしょ」
「あ。は〜い…」
エレナさんもオークを肉としか見てないことに若干引きつつ、挑発の効果でエレナさんの元へ行こうとしてるオーク三匹を仕留める。二割くらいの力で…。
すると、若干息はある状態で、牙とかの素材は無事に済んだ。
……そういえばリザードマンがいたフロアの後からは、全員Eランク以下の魔物たちだったが……ソイツらを倒す時も素材をよくダメにしちゃってたな。最初のフロアのEランクらには相応の加減で倒せてたのに。
「ブモオオオォォォォォォ!!!」
と、考えるのはあとあと。エレナさんに言われたばっかりなのに、なんだか俺気が抜けてるな~…。
吠えて大剣を振り回して来る、怒った様子のオークジェネラル。
それをエレナさんのように無駄のない動きを意識しつつ、紙一重で躱して行く。
振りは大振りで遅いし、オークキングの時みたいに集中する必要もない。
……うん。わかってたけど、これじゃない感が凄い…。
やっぱりオークキングのシミュレートをするには不十分か。今度、鳴と戦闘訓練しよう。
エレナさんに頼むのも良いかも。
最後に試しにとハンマーを振り下ろされる大剣にぶつけてみたが、あっさり壊れた。
あとはオークよりも少し強めに上からぶっ叩いてやって、無事にオークジェネラルを討伐した。
……一応、素材が美味しいから手加減してやったが、本当は鳴に薄汚い視線を向けたコイツを、肉ごとぐっちゃぐちゃのひき肉にしてやりたかったのは内緒だ。
……………ハンバーグにでもして食うか。
「お疲れ様~。凄かったねぇ、さっきの首を吹っ飛ばしたやつ」
「自分でも驚いてます…。普段より三割増しで殴っただけなのに、まさかあんな簡単に首が吹っ飛ぶなんて思いもしませんでしたよ」
「へぇ~。……ちなみに、それで合計何割くらいの力なの?」
「うーん…。たぶん五割行かないくらい?自分でもよくわかりませんけど」
俺の言葉に思案顔になるエレナさん。
やがて首を横に振って「ボクにもわかんないや」と謎に呟いて、解体用のナイフを取り出した。
「じゃあ解体しちゃおうか」
「あ。俺も手伝います」
「では私は、シルバーと共に先を見て来ます」
一度、解体組と偵察組に別れることに。
エレナさんは袖を捲って、馴れた手付きでスムーズに解体していく。
俺もそれに習うようにして解体しつつ、エレナさんに話し掛ける。
「さっきは何を考えてたんですか?ボクにもわかんないやとか言ってましたけど」
「カガリくん自身が、自分の力に一番驚いているみたいだったからね~。人がいきなりパワーアップする可能性を考えてた。今までは、あそこまでの怪力は無かったんでしょ?」
「はい。少なくともダンジョンに入った時までは」
思えばレイスを倒した時には、こんな力を持っていた気がしないでもない。
壁を思い切りぶっ叩いただけで、軽い地震みたいなのが起きたしな…。
「ふむふむ。だとしたらやっぱり原因はシルバーかもしれないけど…」
「シルバー?なんでですか?」
「メイちゃんが召喚した眷属だからね。何かしらのバフの恩恵を受けていてもおかしくないんじゃないかなって思ったの。でも辻褄が合わないんだよね~…。カガリくんはパワーアップしてて、召喚主であるメイちゃんがパワーアップしてないなんて、普通は有り得なくない?」
「確かに。本当にシルバーから何らかのバフを貰ってるのなら、鳴の雷の威力も上がってないとおかしいですもんね?あとエレナさんの蹴りも」
「そうなんだよね~…」
頷いて壁に向かって回転蹴りをするエレナさん。
一瞬揺れたぞ…。
「うん。少なくともボクはそれらしき恩恵を全く受けてないね」
「いきなり壁を蹴らないでくださいよ。怖いな…」
他に考えられる可能性が出て来なかったので、あとは解体に集中した。
しばらくしてオークジェネラルとオークの解体とバッグへの収納終わり、そのタイミングで鳴とシルバーが戻って来た。
先は行き止まりで、一応壁などを調べたらしいが、何もなかったそうだ。
「あーあ〜…。結局ハズレか~。ごめんね、皆…」
「私とシルバーも同罪なので、そうお気になさらないでください。お肉の収穫があったので、それで満足しましょう」
「うぅ~。メイちゃんの急な優しさが染みるぅ。およよ~…」
涙が出てもいないのに目元を拭う仕草をしながら来た道を戻り始めるエレナさん。
まともに前を見ていなさそうなその姿に、なんか嫌な予感がしたので身構える。
すると案の定、躓いてしまわれた。
「おわぁー!?……あれ?」
「もう貴女が転ぶ瞬間がわかるようになって来ましたわ」
エレナさんを支えてあげて、転ぶのを防いだ。
やっぱりドジというより不注意が主だな、この人…。
いや、不注意だからドジになるのか?
「くぅ~…。会って間も無いのに、躓くのを予期してボクを颯爽と支えるとか…。まさにボクの理想の男の子だよ、君は」
「ドジな自分を支えてくれる男の人が理想って、少し我儘じゃありません?治しましょうよ」
「うぅ…。それもそうだね。じゃあまずは、壁に手を付けながら歩いて躓くのを防止しよう!」
そう言って早速と実践するエレナさん。リハビリ中の人かな?
まぁドジを治そうとしてるから、あながち間違ってはいないか。
そんなちょっと間抜けなエレナさんの後ろ姿を見守っていると、彼女が触れた壁が凹んで『カチャ』という音が鳴った。
「「「あ」」」
次の瞬間、左右の壁に複数の穴が開き、エレナさんにだけ向かって大量の矢が飛んで行った。
「いやー!!!なんでボクだけぇッ!?」
なお彼女は、その尽くを蹴り落として難を逃れた。ここだけ見たら曲芸師だな。
そして全てを蹴り落とした後、天井から木製の宝箱が落ちて来た。特に珍しくない、一番下の宝箱らしい。
中身は……ちょっと良いポーションという、なんとも言えない物だった。
『矢で受けた傷はこれで治してね☆』とダンジョンに煽られてる気分になるな、これ…。
「ふざけるなこのー!うぇーん……不幸なボクを慰めてぇ、カガリく~ん…」
「ああ、はいはい。今のは完全に不幸でしたね、エレナさん…」
さすがに可哀想だったので、泣き付いて来たエレナさんの頭を撫でてあげる。
なんかちょっと大きな子どもをあやしてる気分だ。
「……パパ、エレナさん。宝箱が落ちて来た天井ですが、開いたままです。矢が飛んで来た穴は閉じているのに」
「「えっ?」」
念の為、補足説明。
篝自身も知らないスキル『一家の大黒柱』。
家族にシルバーが加入したことにより、能力値+10000されて一家の大黒柱の恩恵は20000に。
そしてパッシブ身体強化により、20000の能力値は2倍されて40000になります。
ちなみにこれでもエレナさんの方がバカ強いです。
2/6追記
本日はやることが出来ましたので、お休みします。




