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篝と鳴の“在り方”

 可愛い銀髪美少女と共に街を目指してこんにちは。どうも変態です、じゃなかった篝です。

 いやこの状況は傍から見れば強ち間違いじゃないのかもしれない…。


 だって件の銀髪美少女こと鳴は、俺の学ラン一張で中は何も着てないんだから。


「寒くないか?鳴」

「問題ありません。程よく暖かい気温に恵まれたお陰で、何も着なくとも寒さは感じません」

「そうか。でも脱ぐなよ?頼むから…」

「はい。マスターがそう仰るのなら、私はそれに従います」


 うーん。この一切変わらない機械的な表情も相俟って、なかなかやりづらいな…。

 鳴はどうやらかなり効率重視な性格で、精霊という存在故か、羞恥心という物が欠如している。

 さっき街を目指そうとした時も、


『ではこちらの衣服はお返しします。マスターを守るのに些か邪魔なので』

『脱ぐな!?街に行くのに裸はマズいって!街じゃなくてもマズいけどっ!』


 て、脱ごうとしたしな…。


「しかしマスターの世界の衣服は不思議ですね?オシャレという概念は知っていますし、それをする意味も知識としては理解していますが、こんな重くて機能性に欠けた衣服では戦う時に邪魔なのでは?」


 鳴はどうやら女神様に作られるにあたって、ある程度の知識を備えてもらったらしい。

 戦闘知識や魔物の知識を始め、この世界の一般常識や市場価格など、一通りの知識は頭の中に入ってると言っていた。

 この世界のことをよく知らない俺には、大変ありがたい“サービス”だけどさぁ女神様…。


 羞恥心とかも付けてくれても良かったんじゃないですか?俺が死んだ後のこの子の将来が心配ですわ~。


「俺の住んでた国じゃ、もうそういう争いごととはほぼ無縁だったんだよ。まぁ学ランが重くて煩わしいって気持ちはわかるがな。ちょっとした重りみたいなもんだし」

「そうなのですね。でしたらマスターは、戦闘は未経験ということですか?」

「まぁ……そうなるな…。ある程度鍛えられるまで、戦闘は鳴に任せっきりになりそうだ」

「わかりました。ですが、無理して鍛える必要は無いかと思います。マスターは私の後ろで、堂々と立ってるだけでいいですよ?」

「そういう訳にはいかんだろう?お前が手一杯の時に、自分の身を守れるくらいにはなっておかねぇと…」


 俺の言葉に、鳴は顎に手を当てて何かを考え始める……萌え袖だから手なのかわかりにくいけど。

 しばらくそうして思案していた鳴だったが、やがて何か閃いたのか、


「マスター。見ていてください」

「うん?何を……」


 鳴の方を見た瞬間、彼女は突然紫色の雷、紫電をその身に纏うように迸らせ、目にも止まらぬ速さで駆けて行った。

 それはまさに、光速と呼ぶべきものだった。


「……えっ?」


 あっという間に鳴の姿が見えなくなり、呆気に取られて束の間、これまた凄いスピードで俺の目の前に帰って来た。

 ……なんか得体の知れない、角が二本生えたデッカい熊みたいな生き物を引き摺って…。なんかプスプスと煙を上げるくらい焦げてるんですけど。これ死んでんの?


「マスター。こちらをご覧ください」

「……何それ?」

「こちらが魔物という生物です。種族名は『ツインホーンベアー』。討伐難易度はCランク。強靭な肉体、岩をも砕く腕力、鉄の鎧も貫通する鋭い二本の角が特徴です。並みの人間ではまず敵わないでしょう。ですが、私ならばこのように一撃で仕留めることが可能です」


 一撃!?鳴の奴、こんなやばそうなのを一撃で倒したのか!?

 精霊ってそんなに強いの…?しかも鳴はまだ産まれたての下級精霊なんだろ?討伐難易度Cランクってのがどの程度かわからないけど、今の説明からして相当やばい魔物だってことはわかる。

 これが上級精霊とかになったらどんだけ強くなるんだよ…。


「マスター…」


 俺が鳴の力に呆気に取られていると、彼女は俺の手をぎゅっと握って来た。


「これでも……私のこと、信用していただけませんか?」


 上目遣いの不安そうな顔で、そう聞いてきた。可愛い。

 いや、ていうか……


「えっと……ごめん。信用するしない以前に、なんでこんなことを?」

「マスターは私の力だけでは不安だから、自分も強くなろうとしているのではないのですか?」

「いやいやいやいや!そんな意味で言ったつもりはねぇよ!?まずお前がこんなに強いだなんて知らなかったし!……その、なんて言ったらいいか……お前一人だけに任せるのは忍びないというか、男として情けないというか……プライド?って言ったらいいのかな。まだ小さい鳴に、任せっきりにしたくないっていうか…」

「私はマスターの精霊です。言い方を変えれば、マスターの物です。つまりマスターの力ということになります。それでは、駄目なのですか…?」


 さっきよりも不安気に、しかも泣き出しそうな目をしながら、自分の力を誇示しようとする鳴。

 ん~?


「ちょっと待ってくれ。少し整理する」


 えっと……これってつまり、鳴は俺に頼られたいってことで良いのか?

 鳴は自分の力を俺に見せつけて、安心して任せてもらいたい。そんなところか?

 ……なんだろう…。その健気さが尊いような、俺が情けないような、微妙な心境だ…。

 鳴のプライド的な物なのかな?


 俺は鳴と視線を合わせるようにしゃがんで、改めて聞く。


「鳴はどうして、そんなに俺に頼られたいんだ?」

「私はマスターの精霊だからです」

「俺の精霊だから?どうして」

「精霊にとってマスター……主とは、自身の命よりも大切な存在なのです。そんな方に頼られたい、守りたいと思うのは、間違いなのでしょうか?」

「さっき会ったばかりなのに?たぶんまだ2時間も一緒にいないぜ?」

「はい。私は、マスターの為に作られた精霊です。過ごした時間は関係なく、マスターの為に身命を賭して戦う義務があります」


 ……なるほどね…。鳴の気持ちはわかった。

 自分が主と認めた相手に生涯尽くす。誰かの下で働いたことすらない俺にはよくわからないが、精霊にとって主従というのはそういうものなんだろう。

 だけど……


「それじゃあ、まるで機械じゃねぇかよ…」

「機械、ですか?」

「ああ。今の鳴は、まるで機械だ。俺の為に作られたからって、そんな必死になる必要は無いだろ?嫌だったら嫌って言って良いんだぞ?」

「嫌だなんてことはありません。むしろマスターの精霊として役立てることを、光栄に思っています」

「うん。その気持ちはよーく伝わってるよ」

「でしたら……」

「だけど……俺が嫌なんだ」


 俺がハッキリとそう言うと、鳴はショックを受けたような顔をする。

 あ。これまた何か勘違いしてるな。


「別に鳴が嫌いって訳じゃないぞ?こんなヤバそうな魔物を一撃で仕留めれるんだ。むしろそんな奴が俺の仲間だなんて嬉しいよ。ただ、そうだな~……そう。俺の我儘だ」

「マスターの、我儘…?」

「ああ。鳴にばかり背負わせたくないっていうのは、俺も一緒に戦いたいってことなんだ」

「一緒に、ですか?」

「そうだ。お前はくだらないプライドだって思うかもしれないけどさ。さっき言っただろ?俺と鳴は、家族だって。……あいや、ハッキリとそうは言ってないかもしれないけど…」


 みたいな物、的なことは言ったはずだ。


「俺の主観も入ってるかもだけど、家族なら一方的に何かを任せっきりにしないと思うんだよな。お互いに支え合って生きていくのが、家族だと思うんだ」

「家族……知識としては理解していますが、私にはよくわからない在り方です。精霊はただ自分の主に尽くすことが、至上の喜びとしていますので…」

「でもそれは、精霊という生き物の本能的なものだろ?」

「……はい。そうとも取れます」

「じゃあ、鳴は?鳴の気持ちとしてはどうなんだ?」

「私の……気持ち…。マスターのお役に立ちたいです」

「そのマスターである俺の気持ちは?役に立つって言うなら、たぶんそれも大切なんじゃないのか?」

「!……………はい。仰る通りです」


 俺に問いに対して、鳴は俯きがちに答える。


「別に押し付ける訳じゃないけどさ。鳴には鳴の在り方っていうのがあるんだろうし、少なくとも俺は戦闘じゃ役立たずだと思う」

「……………」

「でもだからってずっと鳴に任せてたら、鳴が疲れちゃうだろ?ここは比較的街に近いらしいからまだいいかもしれないけど、その内長旅とかするかもしれないし、鳴の負担を減らせるなら減らしたいんだ」


 鳴の意思も尊重したくもあるけど、それでもやっぱり俺は一緒に戦いたいと思う。

 自分だけ安全圏にいて、鳴に戦闘を任せっきりになんかしたくないんだ。それだけはどうしても譲りたくなかった。

 今はまだ足手纏いだろうけど、その内ちゃんと、鳴の傍に立っていたいという。俺の我儘だ。


 俺の気持ちを聞いた鳴は、しばらく考えるようにして顔を伏せていた。そして……


「……それが…」

「ん?」

「それが、マスターの言う家族の在り方ならば……」


 鳴は顔を上げて、胸の前でぎゅっと拳を握る。


「私はマスターの意思を尊重します。マスターの家族になれるよう、精一杯務めます」


 真っ直ぐ俺を見つめながら、鳴はそう言った。


「あはは…。そんな義務みたいに感じなくていいのに」

「すみません。こればかりはどうしても…」

「いいよ。今はそれで。偉そうなこと言ったけど、俺も家族の在り方とか全部わかってる訳じゃないし、たぶん“これが正解!”っていうのは無いと思う。さっきも言ったけど、鳴と一緒に戦いたいっていうのは俺の完全な我儘だからな」

「そうなのですか?」

「うん。そうなのです。だからさ、少しずつ作って行こうぜ。俺と鳴、稲光家っていう家族の在り方って奴をさ」

「……はい。わかりました。マスターがそう仰るのであれば、私はそれに従います」


 相変わらず機械的で、堅い表情と態度……だけど今はこれでいいだろう。

 自分で言ったように、これから俺と鳴の家族としての在り方を作って行けばいい。


「マスター。一ついいですか?」

「ん?どうした?」

「私と一緒に戦いたい……そのお気持ちは理解致しました。ですが、マスターはどのようにして戦うおつもりなのですか?」

「え?そうだなぁ…」


 女神様が言うには、俺はやろうと思えばなんでも出来るみたいなことを言ってたからな…。

 剣?槍?それとも精霊魔法使いだから、杖とかか?

 まぁそれらを手に入れるにしても、まずは金だよな~。当たり前だがこの世界の金なんて持ってないし。


「……それは街に着いてから考えるわ。今は……さっき一緒に戦うとか言っておいて情けないんだが、街に着くまでは任せてもよろしいでしょうか…」

「! はいっ。お任せください。命に代えてもお守り致しますっ」

「いや、だから命は掛けないでね…」


 嬉しそうにフンスと可愛く気合を入れる鳴に、それだけはやめろと懇願した。


「そういえばこの……ツインなんとかっていう熊はどうすればいいんだ?ここに放っておいたら、疫病の元になりそうなんだが…」

「でしたら街まで持っていきましょう。毛皮はうっかり焦がしてしまって使い物になりませんが、他は無事なので素材として売れると思います」


 お!マジか。それはありがたい。鳴のお陰で泊まる宿くらいの金策だけは悩まずに済みそうだ。

 ……うっかりか~。自分の力を誇示する為に、張り切っちゃったんだろうねぇ…。


「よーし!それじゃ運ぶかっ!」

「いえ、私だけで大丈夫です」

「そんなこと言うなよ。微力だろうけど、少しくらいお前の負担を減らさせてくれ」

「……はい。マスターがそう仰るなら…」


 渋々と言った感じで了承する鳴。

 こんなやべぇ熊を引き摺る力を持った鳴の足元にも及ばないだろうが、ちょっとでも役に立ちたいんだ。


「それじゃあ腐る前にさっさと運びますか。よっと!」


 特大サイズの丸太みたいに太い熊の片腕を持ち上げて、運ぶ態勢を取る……と同時に違和感。


「ん~?」

「よいしょ……ん?マスター、どうかなさいましたか?」


 もう片方の腕を持ち上げている鳴から声が掛かる。

 待って今の「よいしょ」って声めっちゃ可愛、じゃなくて!


「いや、こんな太い腕してるからもっと重いのかと思ったけど、意外と軽いなと思って……これだけでも何十キロってありそうなのに」

「はい。正確な重さはわかりませんが、そのくらいはあるかと」

「だよな?でも、重さなんてほとんど感じなくてさ……ちょっと離れてもらっていいか?」

「? わかりました」


 鳴に少し離れてもらって、俺は熊の真横へ移動する。

 いや、まさかね……女神様はチートスキルはあげられないって言ってたし、一人で生きていくには申し分ない程度の力しかくれないみたいなこと言って……くれないって……………一人で、生きていく分?


「……………ふぅんッて、おっとととととっ!?」


 気合いを入れて、精一杯の力で持ち上げようとすると、簡単に熊の死体が持ち上がり、勢い余って後ろに倒れそうになる。

 だけどすぐさま鳴が後ろに回って支えてくれた為、特に怪我を負うようなことはなかった。


「だ、大丈夫ですか?マスター」

「あ、ああ……ちょっと勢い付きすぎただけだ…」


 とりあえず熊を降ろして、自分の手を見る。

 ……人って、予想外の力を発揮したら本当に自分の手を見つめるんだ…。


「ビックリした…」

「はい。私も驚きました。まさかマスターが、こんなにも力持ちだったとは」

「いや、たぶん違う…」


 俺は近くに落ちている手頃な大きさの石ころを手に持つ。……軽っ。

 そして試しにと、三メートルくらい離れてる木に向かって、全力で投げてみた。

 すると……


―――バキィッ!……メキメキメキメキメキ……ドドーンッ!


 石が木にめり込んで、少ししてから徐々に嫌な音を発てながら倒れていった。


「……………これ、髪と目の色以外になんかやっただろ?あの女神」

「はい。そうですね。明らかに常人では有り得ない力をお持ちです、マスター」


 “ちょっとサービスする”って言ってたけど……いいんですか?鳴だけじゃなくてこんなバフ?を貰っちゃって…。


――――――――――――――――――――――――


―――辺境都市・ルミナリア。冒険者ギルド支部―――


「おい!皆聞いてくれ!森の入り口周辺に、ツインホーンベアーが現れたそうだっ!」


 大剣を背負った赤髮の男が叫ぶように言う。

 するとすぐに熟練の冒険者たちが立ち上がった。

 この街では日常茶飯事なのか、皆落ち着いた様子だった。


「今度はツインホーンベアーか。最近Cランクの魔物が多くねぇか?」

「戦争の影響かもしれんな。ここからは遠いが、戦地での火種がここまで来てる可能性は大いにありうる」

「くそっ!魔王軍め…。人間に何の恨みがあるってんだ…」


「そんなことよりも、今はツインホーンベアーよ!Cランク冒険者は急いで準備して!」

「盾役が足りねぇ!?申し訳ねぇが、Bランクの奴も手を貸してくれ!」


「俺が行こう。ちょうど暇していたところだ」

「おー!ルドルフっ!アンタなら心強ぇ!頼めるか?」

「ああ。それにツインホーンベアーの素材も欲しかったのでな。角だけでいい。他はそちらで分けろ」


 着々と腕に覚えのある冒険者たちが討伐隊へ名乗りを上げていく。

 だが彼らの準備は無駄に終わる。


 なぜなら……




「そういえば鳴?コイツどこにいたの」

「森の出入り口付近でウロウロしていました」

「マジでか。こんなのが出入り口付近でウロウロしてんのか。異世界怖っ…」

「いえ。通常は森の奥深くに生息しています。恐らく縄張り争いに負けて、仕方なくそこにいたのかと」

「へぇ~。ちなみに出入り口って、ここからどのくらい?」

「徒歩ですと約5分ですね。こうしてツインホーンベアーを運んでいますが、マスターに手伝っていただいているお陰で速度は落ちてないので、同じくらいの時間で着くと思います」

「……その距離を一瞬で駆け抜けられる鳴って、ヤバいな…」

「それは……褒めていただけてる、と受け取ってよろしいのでしょうか?」

「ああ。褒めてる褒めてる。なんとも心強い家族だよ、お前は」


「……………ありがとうございます。そう言っていただけて、嬉しいです」

(あ。笑った……かわよっ!)




 もう既に、件の魔物は討伐されているのだから。

面白かったらいいねと高評価をお願いします。

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