ダンジョン攻略一日目。終了
エレナさんの出番も無く、リザードマンたちはシルバーによって倒された。
最初の二匹を踏み潰した後、残りは後ろ足で顔面を蹴飛ばしたりして、ほぼ雷を使うこともなく…。
この馬、俺より強くね…?まぁ鳴の眷属だし、当たり前っちゃあ当たり前……なのかな?
「あれ?」
リザードマンを解体中に、ふとエレナさんが疑問符の声を上げた。
「どうしたんですか?」
「いやね、最初に倒されたリザードマン二匹と後の三匹のリザードマンの損傷具合が、随分違うなーって思って」
「えっ?」
言われて俺も見比べてみる。……本当だ。
最初のリザードマンは頭にシルバーの足跡がくっきり残っているが、まだそれなりに原型を留めている。
だけど残りの三匹は、頭が完全に変形してぐちゃぐちゃになってしまっている。下手したら閲覧注意ものだ。
違いがあるとしたら前者は踏み付けで、後者は後ろ蹴りなことくらいだが…。
「馬って後ろ蹴りの方が強いのか?」
「いやいや、全体重を掛けた踏み付けの方が遥かに威力は高いでしょ…」
まぁ、それもそうか…。馬の後ろに立つと蹴り殺されるって言うけど、あんな全身筋肉みたいな身体したシルバーの踏み付けの方が威力は弱いなんて、まず有り得ない……よな?
馬について詳しくねぇから、よくわからんけど。
そんな疑問を抱きつつ、解体を終える。
さすがにトカゲの調理方法とか知らないので、肉はそのまま放置。
Eランクの魔物たちの死体も放置して来たが、問題ないそうだ。時間が経つと、ダンジョンが死体を処理してくれるらしい。
……異世界ダンジョンあるある。死体を自動処理してくれる。
――――――――――――――――――――――――
リザードマンのフロアの先に通路があった。
こっちも行き止まりだったら隠し通路か何かを探す羽目になっていたかもな…。そうなったらほぼ骨折り損ものだ。
エレナさんの今までのダンジョンの苦労話を聞いてあげたり、道中にあるフロアの魔物を倒したり、途中で小休止を挟みながら進んでいると、気付けば五時間もダンジョンの中を進んでいた。外はもう夜だろうな…。
……それと余談だが、力加減を間違えて魔物の素材を何回もダメにしてしまった。いつも通り手加減して振ってるはずなのに…。
ハンマー振ってるせいで、知らず知らずの内に筋力でも爆上がりしてるのか?これ実はすげぇ重たいらしいし。
そんなことを考えつつ、どこかに良い寝場所は無いものかと思っていると、ダンジョンとは不釣り合いな、民家の扉みたいなのが見えてきた。
それを見たエレナさんは、歓喜の声を上げた。
「お。休憩所だー!」
「休憩所?」
「ダンジョンの所々に点在しているセーフエリアだよ。ここに魔物は一匹も湧かないし、なぜか火起こし道具一色が揃ってる所だよ」
「火起こし道具?密閉空間で火なんて付けて大丈夫なんですか?」
「そこがまたダンジョンの不思議なところでね〜。一酸化炭素中毒とかには一切ならないんだよ〜」
魔物の巣窟みたいな場所なのに、随分と都合が良いな?
そんな場所を作ってダンジョンになんの得があるんだ。
中に入ってみると、確かに火起こし道具が揃っていた。
火打石に薪、着火材や火を囲う為の石まである。部屋の広さはだいたい10畳かそれより少し広いくらい。
向かいにはまた一つ扉があった。あそこから先に進めるようになってるんだな。
「次の休憩所はどこで見つかるかわからないし、今日はもうここで休んじゃお〜」
そう言ってエレナさんはマジックバッグから小さな木の椅子と柔らかそうなクッションを三つずつ出した。
「これ使って」
「「ありがとうございます」」
エレナさんから椅子とクッションを受け取る。
お〜。見た目通り、このクッションは凄い柔らかいな…。それにモフモフで手触りも良い。
これって結構な高級品なんじゃ…。
「二人は火起こし出来るの?」
「火打石がなくとも、私の雷で火を付けることは出来ます」
「おー!それは便利だねぇ」
鳴は薪と着火材を並べて、雷で火を付けてくれる。
……本当になんでこんな親切に物が用意されてるのか不思議でならないが、とにかくこれで料理を作ることが出来るんだ。女神様にでも感謝しておこう。
「それじゃあ俺は、飯の支度をしますね。エレナさんは食べられない物とかあります?」
「え?無いけど……カガリくん、料理出来るの?」
「出来ますよ。じゃなかったら熊肉を食べようなんて言いませんし、鳴の親なんてやれてませんよ」
「あ……そういえば美味しく調理するって言ってたね…」
「熊肉の調理は時間が掛かるので、今回は違う物にしますけどね」
俺は奮発して買ったマジックバッグから、使う食材と調理器具を出す。
このマジックバッグの容量は二百キロとそこそこで、金貨70枚もした。このくらいのマジックバッグなら大体金貨30枚なのだが、実は別の魅力がこのマジックバッグにはある。
それがなんと、完全劣化防止の魔法が掛かってる点。つまり物が腐らないのだ!
だからこうして―――生肉や生野菜なんかも持ち運べるのだ!
「待ってろよ鳴。今美味い飯を作ってやるからな」
「はい。お待ちしてます」
「良いバッグ持ってるね〜」
「そんなこと言って、エレナさんのも劣化防止が付いてるんでしょ?あ、ニンニクって大丈夫です?」
「まぁね〜。ニンニクは平気だよ、むしろ大好き。冒険者はスタミナが命だからね。臭いなんて気にしてられないよ」
そういうことなら遠慮なくニンニクを使うとしよう。
まずは玉ねぎを大量に微塵切りにしていこう。出来るだけ細かくな。
肉は塊で買ったので、適当にステーキ肉用に切り分ける。鳴がいっぱい食べるから、こちらも大量にな。
切り分けた肉を筋切りした後、格子状に切り込みを入れて軽く叩いていく。
この肉の上に、さっき大量に微塵切りした玉ねぎを乗っけて三十分間、寝かせておく。こうすることで肉が柔らかくなるのだ。
その間に他の準備だ。ニンニクを適当な大きさに刻んでいく。こちらも大量に買ってある。
次はコッペパンを用意して、真ん中に切れ込みを入れてサンド出来るようにしておく。こちらもまた大量以下略。
ここまでの準備でマジックバッグも合わせたら、既に金貨90枚も飛んでるが……気にしない気にしない。鳴の防具も前払いで済ませてるし。
パンに切り込みを入れる作業は鳴とエレナさんも手伝ってくれて、割とすぐに終わった。
なのでキャベツの千切りサラダも用意した。こっちは標準より二倍程度の量で良いかな。それでも結構な量だけど…。
味付けはマヨネーズで。本当はゴマだれが一番好きだけど、残念ながら異世界には無かった…。マヨやケチャはあるのに…。
「さっきからツッコもうか迷ってたけど、カガリくんって結構食うんだね?」
「いえ。食べるのは私です。パパは人より少し多く食べれるくらいです」
「嘘でしょ!?その小さな身体に、こんな量が入るの!?」
そんな一幕もありつつ、三十分が経過。
底が深い大きなフライパンにバターを入れて、肉に乗っけていた玉ねぎを投入し、塩とコショウを振りながら色が付くまで炒める。
このバターと塩コショウも高かったが、それぞれ金貨一枚分買っておいた。
玉ねぎを皿に移し、バターを足して刻みニンニクを投入。しばらくしたらステーキ肉を焼いていく。
おっほ〜。いい匂い!と、肉の匂いに感動していると……
―――きゅる〜…。
誰かのお腹の音が鳴った…。
「あははは。鳴、もう少し待ってろよ。肉を焼いた後は玉ねぎの味付けだけだから」
「? 私ではないですよ?」
「え?じゃあ……」
俺と鳴の視線がエレナさんに向く。
彼女の顔は耳まで赤く染まっており、お腹を押さえていた。
「……はい、ボクです…。はしたない女の子でごめんなさい…!」
顔を覆って謝罪するエレナさん。
別に謝ることではないと思うけど…。生理現象だし。
「あははは。美味しそうって思って頂けたなら、作ってる側としては嬉しいですけどね」
「うぅ〜…。はしたない…」
エレナさんも女の子なんだな。お腹の音を聞かれたのが相当恥ずかしかったのか、距離を取ってしまわれた。
そりゃそうか。人間に換算すれば22歳なんだもんな。
「よし。まだ肉は残ってるけど、ひとまずはこの辺で……」
ある程度の肉を焼いて、一旦切り上げる。
まだ焼かなきゃいけない肉はあるが、それまで焼いてると鳴がいつまで経っても食べられない。残りは後だ後。
ということで、次はまた玉ねぎだ。塩コショウは振ってあるが、ここにもう一手間加える。
フライパンの油を軽く拭き取って赤ワインを投入。この世界では15歳が成人らしいので、余裕で買うことが出来た。飲みはしないけど…。
そこに玉ねぎを入れて炒めていき、ある程度したら火から離して水溶き片栗粉を入れて、とろみを付けたらソースの出来上がり。
「完成!ガーリックシャリアピンステーキ!パンにソース、肉の順で挟んで召し上がれ」
「お〜…。パパ、凄く美味しそうですね。では、さっそくいただきます」
鳴は俺が言った通りにして、一口。
そして目をキラキラさせて、幸せそうな顔で頬を抑える。
「お肉が口の中で溶けていくようです〜…」
「そこまで?じゃ、じゃあボクも、いただきます…」
エレナさんもシャリアピンステーキサンドを作って食べる。やっぱり口元を隠しながら。
すると目を見開いて、俺をジッと見つめて来る。
そのまま中の物を飲み込み、俺の手を取って―――
「ボクのお婿さんにならない?」
まさかのプロポーズ。
「嫌だ」
「即答!?」
「一緒にクエストやるくらいなら良いですけど、さすがに毎日騒がしい日々を過ごすのは……それに冗談でしょ?」
「え〜。別に冗談じゃないんだけどな〜。結婚するなら料理出来る人が良いし」
エレナさんが俺のお嫁さんね〜…。
俺が想像していたエルフの何倍も可愛いし、見た目はぶっちゃけ好みだ。Aランク冒険者だから稼ぎもある。
そこだけ見たら凄い優良物件だが、如何せん性格が合わない…。
だからガチのプロポーズをされたとしても、俺は断るね。……たぶん。
「パパ。ありがとうございます。凄く美味しいです」
「ああ。まだまだあるから、どんどん食え」
俺も一つ食いながら、残りの肉を焼いていく。
エレナさんも思わずといった感じでいっぱい食べてくれて、作った身としては嬉しい限りだ。
……しかし、やはり二百キロのマジックバッグでは心許ないな。このペースだと三日、四日で食料が尽きる。
この先に食える魔物がいるとは限らないからな。
ならば仕方がない。エレナさんは嫌がっていたが、夕食後にさっそく下準備だ……熊肉のな。
シルバーにはこの後人参を食べさせます。
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