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シルバークラウド

除雪で疲れたので遠出は延期。

鳴が雷帝の下僕を使って召喚したのは、一頭の黒馬。

大きさは二メートルを越えており、イカつくも凛々しい顔立ちをしてるように見える。

銀の鬣は鳴の髪みたいに綺麗で、非常に艶やかで美しく見える。

雲のような羽衣は、黒馬の前足から首にかけて伸びており、どこか神々しさを感じさせる。


まるで神話の生物みたいな馬だ。


「すげぇ…」


知らず知らずのうちに、そんな声が漏れた。

鳴が召喚しただけあって、なんつーかこう、上手く言えないけど……オーラのようなものが半端じゃない感じがする。

力強そうで、早そうだ。


「すご〜い…。カッコいい」


エレナさんもただ呆然と見つめていた。

どこか威厳たっぷりな雰囲気を放つ黒馬には、Aランク冒険者も見惚れる凄味があるようだ。


「これが、私の眷属…。うっ…」

「鳴!」


突然、鳴がその場でへたり込んでしまった。

馬に全魔力を持ってかれた反動か!?


俺とエレナさんは急いで鳴に駆け寄る。

が、そんな俺たちの前に、黒馬が立ち塞がった。


「ブルルルルルッ…!」


黒馬は身体に雷を迸らせて、こちらを威嚇してくる。

まさか、俺たちを敵と認識してるのか?

おいおい、勘弁してくれよ…。召喚主以外は全員敵認定するタイプとか。


「……待って、ください…」


どう説得したものかと悩んでいると、鳴が苦しそうな声で口を開いた。


「その人たちは、私の父と、仲間です…。害はありません…」

「……………」


鳴の言葉を聞いた黒馬は、警戒から見定めるような視線へと変わる。


「頼む!そこを避けてくれ。鳴は俺の大事な一人娘なんだ。かなり疲れてるみたいだし、早く休ませてあげたいんだよ」

「本当だよ!ボクたちは君のご主人様を助けたいの。ほらこれ、魔力回復のポーション。君を召喚するのに魔力を使い果たしちゃったみたいだし、早く飲ませないとご主人様はずっと苦しいまんまなんだよ?ねっ?だから…」


「……………ブルル…」


しばらく思案した様子を見せた後、黒馬はゆっくりと下がってくれた。


「……ありがとう」


一言お礼を言って、鳴に駆け寄る。

鳴は腕を上げるのもダルい状態らしく、エレナさんが魔力ポーションの蓋を開けて、鳴の口の中に入れてあげた。

すぐに効果が現れ、濃い青色の光に包まれた鳴から、苦しげな様子は無くなった。


「うぅ……苦くて不味いです…」

「魔力ポーションだからねぇ、仕方ないよ。体力回復のポーションみたいに、普通の水みたいな味には出来ないよ」


「魔力ポーションは薬みたいな味なんですね」

「これでも味の改善はかなり進んだ方らしいけどね。昔は嘔吐する人もいるくらい不味かったらしいし」

「その時代に産まれなくて良かった…」


鳴にそんな物は飲ませたくない…。

先人たちに感謝だな。


「すまなかったな、鳴。まさか眷属召喚がそんなに疲れるものだったなんて…」

「いえ。これは魔力を使い切ってしまった反動です。魔力欠乏症、というものですね。ただ疲労と目眩がするだけで、魔力を回復してゆっくり休めば、後は大丈夫です」

「そうか。なら良かった。……お前も、鳴を守ろうとしてくれて、ありがとな」


鳴から黒馬に向き直る。

勘違いだったとはいえ、鳴を守ろうとしてくれたその気持ちは素直に嬉しかった。

少々過激っぽい印象だったが、主想いの良い奴のようだ。


しかしそんな黒馬は、俺の言葉に対してプイッと顔を逸らした。

……うん。鳴一筋って感じで、頼もしいよ…。


「こら」


―――ポコンっ。


だがご主人様がそれを許さなかった。

鳴は黒馬の頭までジャンプして、そのまま軽く殴ってしまわれた。


「私のマス……パパになんて態度ですか。この方は私を拾ってくださった大恩人。私を主人と崇めるのであれば、パパにも相応の敬意を表しなさい。もし出来ないのであれば―――消しますよ?」

「ブルヒィン!?」


「待て待て待て待て待て!」


瞳孔を限界まで開くようにして脅しの言葉を浴びせる鳴を止める。


しまった忘れていた!出会った頃の鳴も、俺の為なら平気で誰かを消し炭にしようだなんて考える奴だったわ。

まさかここまで過激だなんて思わなかったけど…。


「鳴。俺は気にしてないからさ。な?許してやれよ」

「甘いですよ、パパ。この者は馬、つまり動物です。初めに上下関係をしっかりしておかないと、付け上がって後が大変です」

「それは犬を育てる時の心得では?」

「いえ。過去に存在したとある強くて賢い馬は、人のことを舌を出して馬鹿にし、自分のトレーナーを森に置き去りにするなど、数々の蛮行を行ったと。書斎の本(という名の女神様知識)に書いてありました」

「そんな馬がいたの!?」


確かにそんな馬がいたのなら、人の言葉を余裕で理解してる様子のこの馬は、ちゃんと躾はしておいた方が良いだろうけど…。


「で、でもさ。さすがに消すぞは言い過ぎだって。行き過ぎた躾は虐待になるぞ?もう少しお手柔らかにしてやれよ」

「……わかりました。パパがそう言うのであれば、私はそれに従います」


あ。これは嫌々了承してるやつだな…。

まぁあまり躾が行き過ぎないように、俺もよく見ておくとしよう。


「……にしてもこの馬、本当デカいな。仮に俺たち三人が乗っても余裕そうだ」

「そうだね〜。大きさもそうだけど、ボクもこんなに立派な馬は初めて見たよ。明らかに魔物っぽい見た目してるし、当たり前かもだけど」

「魔物か……どんな魔物か、エレナさんに心当たりは?」


俺が聞くと、エレナさんは首を横に振った。


「“残念ながら、全く…。”こんな馬の魔物は見たことないよ」

「……そう、ですか…」


まぁ雷帝の下僕も知らなかったし、そこから産まれた?この馬も知らなくても無理ないか。


さて、と俺は改めてフロア全体を見てみた。

……どうやら行き止まりみたいだ。つまり……


「エレナさんの勘はハズレを引きましたか…」

「うっ!ごめんなさい…」


いや、でもこんな良い収穫もあったんだし、ある意味当たりだったか?

まぁ変に調子づかせるとまたドジしそうなので、ここはフォローをしないでおく。


「鳴。身体はもう大丈夫か?」

「まだ少しダルいですが、行けます」

「そうか…。じゃあ―――」


俺は鳴を抱き上げて、黒馬の背中に乗せた。


「えっ……パパ?」

「お前は馬の上で少し休んでろ」

「よ、良いのですか?」

「当たり前だろ?疲れてる奴を歩かせれるかよ。ついでに馬の名前でも考えてな」


本当は普通に休憩を取りたいところだが、それだと鳴が自分のせいでダンジョン攻略が滞った、なんて風に気にしてしまいそうだしな…。

だったらせめて、馬の上で鳴にだけでも休んでてもらおう。


「それに安心しろ。俺も右の道にいる魔物との戦いは休むから」

「え?カガリくん、それって……」

「俺たちに迷惑を掛けた精算を出来てないって思ってるんでしょう?それでチャラにするので、お願いします」

「そんなー!?鬼!悪魔!人でなし!」


エレナさんが絶望の表情を浮かべて罵ってくる。

だって俺も一緒に休まないと鳴が素直に休んでくれないだろうし…。

それに……


「安心してください、エレナさん」

「あ。良かったぁ…。冗談っぽい」

「いえ、冗談ではないですが……コイツがいるんで」


俺は黒馬を指しながら、そう言った。

コイツがどれだけ強いのか、確認しておきたいしな。


――――――――――――――――――――――――


「ねぇ。カガリくん」


来た道を戻り、さっきとは別の道を歩いていると、エレナさんが申し訳なさそうな感じで話し掛けてくる。


「なんですか?」

「えっと……ごめんね、気にしないようにしてたんだけど、やっぱりどうしても気になっちゃって…。さっきのメイちゃんの、カガリくんが拾ってくれたって話…」

「……あ」


そういえば鳴が馬を叱る時に言ってたな。

ふむ…。まぁ鳴もうっかり口を滑らせたみたいな感じじゃなかったし、馬を叱る為の方弁だったのだろう。


「はい。俺と鳴は親子って言ってますけど、血の繋がりはありません」

「そうなんだ…。確かにこんな子どもを持つ割には若い見た目してるな〜とは思ったけど…」

「まぁ……そういうことです。でも俺も鳴も、互いを本当の家族のように想ってます。だから血の繋がりとかは気にしたことないですね」

「そっか…。いいよね、そういうの…」


そう言ってエレナさんは、どこか悲しそうな顔で俯く。


「エレナさん?」

「……家族っていいよね〜。自分の全てをさらけ出せる、憩いの場にもなるし」

「故郷の家族が恋しい、とかですか?自由奔放で、なかなか帰らなくて家族に心配ばかり掛けてそうな貴女が?」

「なんだと!?ボクはこれでも家族が大好きなんだぞ!ちゃんと10年置きで帰省してるし!」

「え?普通は長くても1年置きとかじゃ…」

「人間の感覚と一緒にしてもらっては困るな〜。ボクたちエルフは長寿だからね。エルフにとって10年なんてのはあっという間さ。むしろ頻度は高い方なんだよ?」

「……失礼ですが、おいくつか聞いても?」

「ピチピチの219歳!あ。でも、もうすぐ220になるかな〜」


思ったよりずっと歳上だった!?

それだけ長生きしていれば、そりゃあ強い訳だよ…。人間の何倍鍛え上げることが出来るんだ?


「人間に換算すると、いくつなんですか?それ…」

「えっと……たぶん22歳くらいじゃない?」


つまり約10倍!?マジで凄い長生きするじゃん。

エルフってすげぇ…。羨ましいな〜。俺もそれだけの寿命が欲し……いやでも待てよ?

そんなに寿命があっても、生きるのに飽きそうだな…。


それに長寿になると、自分以外の知り合いが次々と亡くなっていって、精神病むって聞くし、やっぱり人間は人間の寿命のままで良いのかも…。


「パパ。フロアが見えてきました」


長寿のデメリットについて考えていると、鳴から声が掛かった。

左の道より短いな?……あっちは完全に岩トラップで殺す気満々だった訳か…。

しかも仮に通路を無事に抜けても、魔物がひしめくフロアのせいで逃げ場はほとんどあらず、岩にペチャンココース……そんな初見殺しトラップだったのだろう。


「ああ、わかった。……あ。そういえば、馬に鞍付いてないけど大丈夫だったか?」


失念していた…。鞍がないと馬に乗っても腰とかが辛くなるだけのはずだ。

俺がおんぶするべきだったか…。


しかし鳴は特に問題なさそうに頷いた。


「問題ありません。背中が硬くて少々お尻が痛いですが、“シルバークラウド”が気を遣ってくれてるおかげで存外快適です」

「シルバークラウド?馬の名前か」

「はい。鬣と羽衣が特徴的なので、この名前にしました。……変じゃないでしょうか?」

「いいんじゃないか?ピッタリだと思うぞ。馬の名前って地味に長いのが多いし」


「でも呼ぶ時に面倒じゃない?」

「それはそうですね…」


エレナさんの指摘もあって、普段はシルバーと呼ぶことになった。


シルバーの呼び方も決まると同時にフロアにも着いた。

そこはさっきのフロアと同じくらいの広さをしていて、鳴が言っていた通り五匹の魔物がいた。


「「「キシャーッ!」」」


その魔物たちは二足歩行のトカゲで、手には剣と盾を持っていた。


「リザードマンって奴か…」

「そのようです。Cランクの魔物で、我流ですが剣術を得意としている魔物です」


魔物が剣を使うのかよ…。ゲームでもドラゴンがオノを持って歩いたりしてるけどよ。

……まぁ。Cランクが相手っていうなら、丁度いいか。


「ブルルッ!」


シルバーは既に雷を纏っていて、もうやる気満々にようだ。


「鳴」

「はい」


鳴はシルバーから降りて、俺の隣まで来る。

そして……


「シルバー。あのリザードマンたちを蹴散らしなさい」

「ヒヒイイィィィィィンッ!!!」


鳴が命令した瞬間―――シルバーは一瞬でリザードマンたちの前まで移動し、前足で二体を頭から踏み潰した。


「「はっや!?」」


俺とエレナさんは同時に驚きの声を上げる。

これは……なんとも頼もしい“家族が出来た”ものだ…。

馬を擬人化したアニメって、あれ全部実在した馬の名前なんですね…。


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