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ダンジョン

ツインホーンベアーの解体を済ませた後、エレナさんが自身のバッグに入れてくれた。

エレナさんのバッグはやはりマジックバッグだった。ツインホーンベアーの素材と肉が全部入った。しかも億単位で物が入る超高級品らしい。

小さなバッグにスルスル入っていくのを見るのはシュールかつ、謎の気持ち良さがあった。


なお肉の回収をする時だが、エレナさんが大きく反発していた。


「えーっ!これ食べるのー!?」

「熊肉は食わないんですか?」

「硬い上に臭くて食えたもんじゃないじゃん!本当に食べる気…?」

「じゃあ後で美味しく調理しますから、食べてみてくださいよ。きっと度肝を抜かれますよ」

「嫌だよ!もう既に抜かれたもん、こんな物を食うっていう君に」


「……美味しいお肉…!」


鳴が目をキラキラさせながら肉を見つめていたのは、言うまでもない。


てか言われてみれば、最初のツインホーンベアーの時は肉を買い取ってくれたって話はなかったな。

……熊肉。この機会にでも異世界に布教させちゃう?


そんな一幕もありつつ、森の中を再び進む。

道中で俺はさっきの挑発についてエレナさんに聞いた。


「エレナさん。さっきの挑発って、タンク意外でも使えるんですか?」

「ううん。挑発はタンクだけしか使えないよ。というか異なるスキル同士で、同じ派生スキルなんて習得しないよ」

「じゃあ、エレナさんのスキルは……」

「うん。正真正銘、タンクだよ」


あれでタンク?ジンさんの戦い方とあまりにも違い過ぎる。

タンクは敵のヘイトを買って、味方を守る為のスキルだと思ってたんだけど…。


「君が疑問に思うのも無理ないよね〜。実はボクも一人のタンクとして、パーティの盾役をしていた時期はあったんだよー」

「……そういえば、戦闘スタイルを移行したって言ってましたもんね…」

「うん。このスタイルに移行してからはほとんどソロ。最初は大変だったけど、がむしゃらに頑張ってたらいつの間にかAランク冒険者になってたよ。……一人で戦う術も身に付いたし、タンクスキルは敵を逃がさない為の物と化しちゃった…」


そう言ったエレナさんの表情は、笑顔ではあるものの、どこか寂しそうな雰囲気を感じた。

しかしそれは一瞬のことで、すぐに元の快活な彼女に戻った。


「ウケるでしょ?」

「何が?ちょっと闇がありそうな雰囲気を出しといて、笑える訳ないじゃないですか」

「えー。『Aランク冒険者でも大変な時期はあったんだな。ふっ』って笑えない?」

「そんな風に鼻で笑えると思ってる貴女の精神への心配が勝ちます…」

「う〜ん。それもそっか!」


俺の言葉に納得して頷くエレナさん。あんな寂しそうな顔して、「ウケるでしょ?」はないだろ…。

誤魔化すの下手か…。


「……ごめんなさい。たぶん嫌な話させましたよね?」

「うん?全然。もう昔の話だしね〜。“全然気にしてないよ♪”」

「……………」


彼女が盾役時代に何があったのかは知らないし、俺が知る必要はないから、深くは聞かない。

でも―――彼女の言葉に違和感を感じて、胸がモヤモヤする感覚を覚えた。


――――――――――――――――――――――――


「着いたー!ここが例のダンジョンだね」


あれから十分ほど歩いて、話にあったダンジョンに着いた。

一見するとただの洞窟にしか見えないな。


「ダンジョンって、何をもってダンジョンとして扱われるんですか?」

「うーんとね。話すより見た方が早いと思うよ。着いて来て」


そう言ってエレナさんは、何の警戒もなさげに洞窟の中に入って行く。

入口付近に魔物はいないのか?


言われるがままに着いて行くが……特にこれといって変わったことはないな。

洞窟らしく暗い程度で、少し狭いからシュリさんのハンマーは取り回しづらそうだ……と、そこまで考えたところでエレナさんから声が掛かった。


「ほら。カガリくん、メイちゃん。あそこ見て」


エレナさんは洞窟の奥を指す。

見るとそこには、赤く光る幾何学模様の何かがあった。

近付いて全体を確認すると、創作で見る魔法陣のように見えた。


「この転移の魔法陣がダンジョンの入口なの」

「転移の魔法陣…」

「そう。これを踏むとダンジョンに飛ばされて、ダンジョン内にある帰還用の転移魔法陣を見つけない限り、戻って来ることは出来ないの」

「……だからあの受付嬢も、エレナさんにしつこいくらい頼んでたんですね。この魔法陣のせいで、どんな魔物や罠があるのかわからず、気軽に調査も出来ないから」

「そういうこと。Bランク以上が推奨されるのも納得のクエストだよね〜。……一人で調査とか本当に嫌だけど…。ま!今回はカガリくんたちがいるから、別にいいんだけどね〜♪」


ずーんっと気が滅入った様子を見せたエレナさんだったが、そんなのは一瞬ですぐに元に戻る。

情緒が忙しい人だな…。本当に。


「どうする?少し休憩してから入る?それとももう入っちゃう?ちなみにボクは大丈夫!」


「俺は大丈夫です。ツインホーンベアーはエレナさんが倒してくれましたし。鳴は?」

「私も大丈夫です。行きましょう、パパ」


「よっしゃー!者共、ボクに続けーっ!」


はしゃぐようにして先陣を切ったエレナさん。

俺と鳴も続いて、魔法陣に足を踏み入れた。


すると魔法陣に吸い込まれる感覚に襲われて、突然目の前の景色が変わった。


そこが洞窟であることに変わりはない。

だが、中に光が射し込んでいる訳でもないのに、妙に明るかった。

しかもさっきいた所と違って広く、ここならハンマーも余裕を持って振れそうだ。


壁を見てみると、そこには色とりどりの水晶が埋め込まれていた。

これが光源になってるのか?


「うわぁー!綺麗〜。水晶の洞窟だったんだぁ」

「ダンジョンはこれが普通ではないんですか?」

「うん!この洞窟型ダンジョン、結構珍しいタイプだよ。普通はもっと薄暗くて、ジメジメしてるからね」

「じゃあこれならエレナさん一人でも大丈夫そうですね」


俺が冗談めかしてそう言うと、ガシッと右腕を掴まれた。


「ま、まさか……ボクを一人にする気なの…?」


上目遣いで目をうるうるさせて、不安そうな顔で言うエレナさん。

……どんだけダンジョンで一人になるのが嫌なんだよ…。


「えっと……すみません。冗談です」

「そうだよね!いきなり分かれ道とはいえ、二手に別れたりなんかしないよねぇ!?」

「分かれ道…?」


前を確認してみると、確かに道が二つに分かれていて、見るからに当たりとハズレの道っぽい感じになっていた。

既に鳴が先に行って、左右の道を見比べていた。


「パパ。どちらからも魔物の気配がします。しかし、強さと量に差があるようです」

「そうなのか?」

「はい。左からは大量の魔物の気配がしますが、一匹一匹はEランク程度と、大したことなさそうです。右からは強い魔物の気配がしますが、数は五匹程度ですね」

「そこまで正確にわかるのか?凄いな鳴」

「はい。洞窟という空間のおかげか、音が反響して聞こえやすく、気配が探りやすくなってるみたいです。さすがにどちらが正解の道かまではわかりませんが…」


俺には全く聞こえないんだが…。これも精霊というスペックの高さ故か?


「分かれ道か……チラッ」


俺は未だに腕を掴んで離さないエレナさんを見る。

すると彼女は俺が何を言いたいか察したらしく、先ほどのような情けない表情になる。


「えっ?まさか…。そんなこと、しないよね?」

「早めに攻略を終わらせるには、俺と鳴の二人と、エレナさん一人で二手に別れる方が効率的だと思いますが……どうします?」


一応、決定を委ねるような形で問うと、エレナさんは俺の首に腕を回す形で抱き着いて来て、懇願するように言った。


「ひ、一人にしないで…」

「いやマジでどんだけ嫌なんだよ!?アンタAランク冒険者だろ?こういう所で一人で行動出来なきゃ、Aランクにはなれないって自分で言ってたろ!?」

「そうだけど〜。そうなんだけど〜……やっぱり嫌なものは嫌なんだよ〜…」


子どもか!?と、エレナさんの肩を掴んで引き剥がす。

これで戦闘時はとんでもない殺気を放って戦うんだから、マジでギャップが激しいな…。


「わかった、わかりました!先輩の我儘に従います!」

「やったー!カガリくん、大好きー!」

「あーはいはい…」


この人がパーティを組めない主な理由って、やっぱりこういうところなんだろうなぁ。疲れる…。


「よっしゃー!まずは左から行こう。ボクの勘が、そっちが正解だって言ってる!」

「まぁエレナさんといえども、Aランク冒険者の勘にはとりあえず従いますが…」

「じゃあ決まりだね!着いて来ーいっ!」


そう言って先頭を歩くエレナさん。調子が良いんだからもう…。


「……大丈夫でしょうか?パパ」


と、鳴が不安そうに聞いてくる。


「何が?」

「エレナさんはドジな上に、不幸体質ですよね?ダンジョンには罠がありますし、あまり先行させるのは…」

「……いや〜。さすがに大丈夫だと思うが…」


何度も言うが、あれでもAランク冒険者だ。

ダンジョンの罠に嵌るなんてことは……


「ふんふんふ〜ん♪」


……あ〜…。どうしよう、鼻歌してる彼女を見てたら急に不安になって来た…。

一応、注意を呼び掛けておこう。


「ご機嫌なのは良いですけど、足元にはマジで注意してくださいね?ドジ踏まれて罠に掛かるのだけは勘弁したいですし」

「平気平気!可愛い後輩が後ろにいるのに、こんな危険地帯でドジなんてしてられのわぁー!?」

「「あ」」


―――ドシーン!カチャッ。


「あいたたたた…。小石に躓いちゃった…」

「ほらもう、言った傍から〜……んっ?『カチャッ』?」


「パパ。後ろから何か物音がしました」

「後ろ?」


言われて後ろを振り返ってみる。


―――ゴロゴロゴロゴロゴロゴロッ!!!


なんということでしょう。後方からなんとも古典的な大岩が、下り坂でもないのに凄いスピードで転がって来てるではありませんかー。


「って!ふざけんなーッ!?」

「きゃー!ごめんなさいー!」


俺たちは一斉に駆け出した。

どっからあんな岩が出て来たんだ!?


あー、くそ!岩がどんどん追い付いて来てやがる!?

こっちだって結構凄いスピードで走ってるんだぞ、ニトロでも積んでんのかあの岩!?


「鳴!俺とこのドジを担いで逃げれるか!?」

「かしこまりました」


「えっ?なに、ってわーーー!?


鳴はすぐさま身体に雷を纏い、俺とエレナさんを両脇に担いで、一気に通路を駆け抜けた。

そして瞬く間に大岩から離れ、広いフロアに出た。


そこはグレーウルフやコボルト、ホブゴブリンなどといったEランクの魔物たちでひしめき合っていた。

俺たちの姿を確認した奴らは、雄叫びや遠吠えを上げて、すぐに襲い掛かって来る。


「おいおい、有無も言わさずかよ…。後ろからは岩が迫って来てるっつうのに」


「っ!メイちゃん!このままギリギリまで惹き付けたところで、ジャンプして躱して!」

「?……なるほど。わかりました」


鳴はエレナさんの言葉を了承して、魔物たちを惹き付ける。

そしてほぼ手が届く先まで魔物が接近したところで、鳴は指示通りに高くジャンプすると―――後ろから迫って来てた大岩が、魔物たちを引き潰した。

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