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決着

 オークキングの拳が目の前に迫った時、死んだと思った。顔に当たったと同時に意識も途切れたのに、なぜそこからすぐに目が覚めたのかも理解出来ない。

 しかも不思議と身体に力が入る感覚があって、ふらふらながらも立ち上がることが出来た。

 ふと、右手に何か握ってることに気付いた。見ると、全体が銀色のハンマーを手に持っていた。

 明らかに俺の身長よりも大きくてゴツイ見た目なのに、ハンマーの頭には雅で可愛い装飾が施されている。


 さっきは意識が朦朧としていて気付かなかったが、思い返してみると、俺が突き破った壁と一緒に倒れて来た気がする。

 それを無意識に握っていたのか?どうして……と、そこまで考えたところで、オークキングの声が聞こえて来た。


「……心苦しいが、やはりあの娘は殺しておくか」


 それを聞くと同時に、ハンマーのことなど考えている場合ではないと。俺はふらふらと外に出ていった。


――――――――――――――――――――――――


 オークキングに向かって一足飛びで接近する。コイツ相手に下手に接近するのは危険なことを、十分理解しているはずなのに、自然とその行動に出てしまった。


「くっ!?」


 ハンマーを振り下ろすと、オークキングは一瞬大剣で受けようとするが、すぐにやめて横に飛ぶようにして躱した。

 地面を殴り叩くハンマー。すると……


―――ドガーーーン!!!バキバキバキバキバキバキッ!


 周辺を大きく揺らし、地面に罅が入っていった。

 自分にこんなことが出来る馬鹿力があったことに驚くと同時に……ハンマーが壊れなかったことにも驚いた。

 訓練用とはいえ、ギルドにあった武器を簡単に壊してしまったのに、このハンマーは傷一つ付かなかった。


「今の迷いなき突進、そして今の“派生スキル”―――いや、そんなバカなことが…!ありえんっ!」


 オークキングは大きく蠟梅した様子を見せている。

 このハンマーのことを知ってるっぽいし、この様子からして、少なくともかなり質の良い武器なのは間違いないだろう。


 油断してる今がチャンスだ。一気に畳み掛け……


「いっつ!?くそ、身体が痛い…!」


 ハンマーを持ち上げ、もう一度突っ込もうとするが、身体が悲鳴を上げて思わず膝を付いてしまった。

 そうだった。今の俺は明らかに重傷だ。そんな状態であんな動きすれば、こうもなるだろう…。


「ッ! そ、そのハンマーを手放せーーー!」


 オークキングは俺の隙を逃さず、突進しながら大剣を振り下ろしてくる。

 避けなきゃ。そう理解しているはずなのに、身体が動いてくれない…!動け、動け!?

 次こそ本当に死んじまうっ!


「うおおおぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」


 一か八か、がむしゃらにハンマーを振るい上げ、大剣にぶつける。

 するとなんと……力負けすると思っていたのに、俺が持っているハンマーが、オークキングの大剣を真ん中からいとも簡単に叩き壊した。


「はっ?」

「ッ!? しまったっ!」


 よくわからないが、このハンマーなら真っ正面からコイツとやり合える。

 それを理解すると同時に、今度こそ悲鳴を上げる身体を無理矢理動かし、ハンマーを横薙ぎに振るう。


 それを後ろに飛ぶことで回避するオークキング。回避された為に勢い余って情けなく一回転し、傍にあった一本の木を叩き折ってしまった。

 ……全く抵抗を感じずに折れてしまった。


 だがそんなことを気にしてる暇はない。未だオークキングは動揺しているんだ。周りのことなんか今は気にせず、ただこのハンマーを振り回せ!

 俺はオークキングに向かってハンマーをぶん回しまくる。さっきみたいに一回転するという間抜けなことはせず、反撃の隙を与えないよう素早く、手数で押していく!


「ぬん!はぁ!せい!ぜぃりゃー!」

「くっ!?このままでは森が……シュリとの思い出が…!」


 オークキングが何か呟いているが、そんなことは気にしない。

 木々を薙ぎ倒し、地面を壊して、足元が悪くなっていって、躓きそうにもなるが、それでも構わずハンマーを振るう。

 やがて……ハンマーがオークキングの身体を掠め始めた。


「うおぉっ!?コイツ、段々と動きのキレが増していってるだとっ!?一体どうなっているのだ!これではまるで、本当に……」

「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」


 だがそれだけでは決定打にはならない。

 一度でいい。何か致命傷となり得る一撃を与えなければっ!


「いい加減、ぶっ潰れろッ!」

「ッ!? 生憎、シュリ以外の者にそのハンマーで潰される気はない!!!」


 全力でハンマーを振り下ろすと、なんとオークキングは左腕で受け止めた。

 嫌な音を発て、血を吹き出しながら粉砕される強靭な左腕。それを犠牲しながらも、オークキングは半分折れている大剣を振り下ろして来た。

 だが俺は、自分でもビックリするくらい冷静に、ハンマーの長い柄を振り上げて向かい打った。


 すると大剣は、今度は根本から折れた。


「くっ!?つくづくシュリと同じ様な戦い方を…!」


 完全に使い物にならなくなった大剣を捨てて、後ろに下がるオークキング。

 だが武器が無くなった相手をこのまま逃がすはずもなく、俺は一足飛びに接近してハンマーの横薙ぎに振るう。


 オークキングはそれを上に飛ぶことで回避した。

 俺も追い掛けるように飛ぶが……それは奴の誘いだった。

 オークキングは空中にいるにも関わらず、そこに地面があるかのように蹴ってこちらに迫って来たのだ。


―――しまった!?これでさっき鳴は……


「グラビティプレスッ!」


 まんまと引っ掛かった俺は、オークキングに地面へと押し潰されてしまった。


「ゴバァッ…!?」


 大量の血を吐き、意識がまた朦朧としてくる。

 不味い…。血も流し過ぎてる。これ以上は……


「はぁー……はぁー……二度も、このスキルを使うことに、なるとは、な…。はぁー……魔力がもうほぼ空だ」


 ……もう、本当に力が入らない…。ハンマーを握ってるので精一杯だ。


「一つ、訂正しよう。お前は、強いだけの人間ではなかった。その武器の恩恵もあるだろうが、お前は戦いの中で、確実に成長していた。咄嗟に柄で俺の大剣を折るなどという発想も、見事であった」


 オークキングがそんなことを言う。

 だがそんなこと言われたところで、そんな実感は全くないし、結局この勝負は俺の負けであることに変わりない。


―――すまない、鳴…。俺は……ここまでのようだ…。


「今度こそさらばだ。強き人間よ…。すぐに娘もそちらに送ってやる」


 そう言って、右の拳を振り下ろそうとしてくるオークキング。


 俺が目をゆっくり瞑ろうとした―――その時だった。空からこちらに向かって、一筋の閃光が落ちて来てるのが見えた。


「マスターーーーッ!!!」

「なにっ!?あの娘!あの傷で!?―――親が親なら、子も子かッ!」


 オークキングが、こちらへ向かって来ている閃光―――鳴に向かって拳を振り上げる。

 鳴はそれを紙一重で躱し、オークキングの背後に回り、その背中に触れた。


「背中、治ってない古傷がありますよねッ!」

「しまっ―――」

「3000V・ディスチャージ!」


 鳴はオークキングの背中から、電気を流し込むようにして浴びせた。


「グゥワアアアァァァァァァァッ!?!?!?」


 雄叫びのような悲鳴を上げるオークキング。

 それを失いかけている意識の中で眺めていると、横に謎の液体が入った丸い瓶が転がって来た。

 街の道具屋で見たことがある。ポーションだ。飲むと身体の傷を治してくれる薬。


「マスター!?それを飲んでください!早くッ!」


 鳴の言葉に従って震える手でポーションを手に取り、開けようと―――するのだが、ハンマーを握ってる右手が開いてくれず、離すことが出来なかった。

 死に体の身体だ。死後硬直に近い感じになっててもおかしくない。

 瓶の蓋はコルク栓だ。なんとか口で開けて、ポーションを口に入れる。


―――すると身体が淡い光に包まれて、見る見るうちに傷が治っていった。


 さらには意識もハッキリして来て、ボーっとしていた脳も覚醒。

 今の状況が鮮明に把握出来るようになった。


「め、鳴ッ!?」

「マスター!今度こそ私が時間を稼ぎます!?今のうちに逃げてください!大丈夫です、ちゃんと後で追いかけます。だからおねが―――」


「ぜぃりゃーーーッ!!!」


 鳴の言葉を無視して、雷を浴びせられ続けているオークキングの横っ腹に向かって、全力でハンマーを振るった!


「グガァッ…!?」


 盛大にぶっ飛んでいくオークキング。先にあった太い木にぶつかって、それに寄り掛かるようにして倒れた。


「はぁー……はぁー……はぁー……」

「ま、マスター…?」

「はぁー……ありがとう、鳴…。おかげで助かった」


 鳴にお礼を行って、警戒しながらオークキングにゆっくりと近付いて行く。

 骨を何本も折った感覚があった。きっといくつかの内臓に突き刺さってるだろう。

 しかも鳴の雷をあんなに浴びたんだ。まともに動けるような状態ではないだろうが……それでも万が一ってこともある。

 奴の一挙手一投足。初めの時みたいによく見ておかなければ。


「……長らく……人間に使わせたことが、なかったから……忘れて、いた、な…」


 オークキングは途切れ途切れに喋り出す。だが今のところ、動く気配はない。


「そう、だった…。人間には、ポーション……が、あったな…。迂闊だった」

「……悪いな。そっちからすれば、卑怯な手だろうよ」

「戦いに、卑怯も何も無い…。勝者だけが、正義。人間の諺に、そういうのが、あるのだろう…?」

「諺とはちがうけど、そうだな…。確かにそんな言葉がある」


 オークキングはそれを聞いて静かに笑い、頷いた。


「ならば……誇れ。お前たちは……俺を、倒したんだ」

「……………」


 こうしてみると、このオークキングはかなり人間味のある奴だなと思う。殺すのが戸惑われるほどに。

 だけど……コイツは魔物。人間の脅威となる生物。

 人間と大差ない知能を持っていても、それは変わらないだろう。


―――でも…。


「……………」

「どうした。殺さないのか?」

「別に……ただ、なんかやりずれぇなって…」

「そういう、中途半端な、お情けな気持ちは……戦士への、侮辱だ…。やるなら、やれ…。それが敗者への……せめてもの、手向けだ…」

「……………」


 まさか魔物から、そんな強者みたいなことを教わるなんてな…。実際めっちゃ強かったけど。


「わかった…。恨むなよ?」

「元より、そんな気などない…。弱肉強食。それだけの、こと…」


 俺はオークキングにトドメを刺すべく、ハンマーを持ち上げる。必死だったから気にする余裕なかったけど、これ見た目に反して凄く軽い。


 そして持ち上げたハンマーを、オークキングに向かって振り下ろそうとした時―――


「ダメーーー!!!」


 そんな声と共に、横から一人の女の子が、俺とオークキングの間に割って入って来た。

 その女の子はユリアさんと似たような魔導士の格好をしており―――豚の耳と尻尾を生やしていた。

 そして……


「お父さんを―――殺しちゃ嫌ッ!」


 見た目はほとんど人間と変わらない女の子は、泣きながらオークキングのことを、父と呼んだ。

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